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第二話 俺は異世界に召還される……全裸で。

 昔話をしよう。

 とは言っても安心して欲しい。精々、ここ三年の話なので。



 聞き流してくれても全く問題はない。

 要約すると、魔族に攻め込まれて危機に陥ったミスリル王国の人たちが。

 女神リリス様の助言のもとに俺を召喚した、というだけの話だ。

 興味がある人だけ耳を傾けてくれればいい。



 まずはこの世界の赤竜歴246年に起きた「ミスリル戦争」のことからだ。



 ……今から三年前のこと。


 ミスリル王国に宛て、魔族の大国であるアスラ王国が突如として宣戦布告。

 時を置かずカロラン将軍率いる一万の軍勢は、ミスリル王国南の海岸に上陸。

 付近に建てられたノルン要塞を攻撃、これをなんと一日で攻略する。


 この電撃戦が成功した裏には、いくつかの事情があった。


 まず大前提として、この世界の地形。

 この世界の大陸は、大きな内海を挟みこんだ、逆C字型になっている。


 地球の地形で例えると、地中海を挟んだヨーロッパ大陸と北アフリカ大陸みたいなものだと考えると分かりやすいんじゃないかな。


 その北、こちらでは北大陸と呼ばれている地域を人族が。

 その南、こちらでは南大陸と呼ばれている地域を魔族が。

 その間、こちらではルーン内海と呼ばれている海を魚人族が。

 そして、地球でいうジブラルタル海峡のあたりを亜人族が、各々支配している。


 ちなみに大陸の東側は、『死の大地』と呼ばれる不毛の砂漠地帯で、ここには人も魔族も、そして亜人族も近づかないという。



 ……さて、この地形を見れば分かると思うが、魔族が人族に戦争を挑むには、亜人族の住む地域を攻略し海峡を渡るか、ルーン内海を渡るか、もしくは死の大地を踏破するか、その三つのルートしかない。



 死の大地を渡るのは論外。

 亜人族の住まう地を攻略するのには時間がかかる。



 ……ってことで、現実的な選択は海路しかない訳だ。だがしかし。



 魚人族と魔族は伝統的に仲が悪かった。はっきりと敵対関係と言ってもいい。

 その魚人族の協力なしにルーン内海を渡るのは不可能。


 故に、魚人族と友好的な人族は、海側の警戒を緩めていたのである。

 これを油断とは言うまい。


 魔族は諦めなかった。正攻法が駄目ならばと、絡め手を使ってきた。


 たまたま浅瀬に上がっていた魚人族族長の妻子を強襲し人質にとり、無理矢理、魔族の大兵力を載せた船団の通過を認めさせたのだ。


 こうして無傷での上陸を果たした魔族は、油断しきってすっかりだらけていたノルンの要塞をあっさりと攻略。占領してその地に居座った。



 ……さて、困ったのは人族、ミスリル王国の人々。


 王はすぐに三公国、そしてそれ以外の国々にも援軍を求めた。各国もミスリル王国が落ちれば次は自分たちが矢面に立たされると理解していたので、援助は惜しまなかった。集められた人族の軍による第一次大攻勢が実施された。


 だがしかし。ノルン要塞は落ちなかった。伊達に難攻不落などと呼ばれてはいない。そこに一万の兵が立て篭もり、有能な将が指揮をとり、補給は万全、その上向こうにも援軍は次々と押し寄せてくるのだ。



 ――事ここに至り、ミスリル王国首脳部は、神に縋るという選択をする。



 日本においての神頼みというのは、切羽詰まった上での、しかも運任せにしかならないものだが、この世界では違う。ちゃんと神様が実在するからだ。ま、天上にではなく、大地に住まう神様の人数(神数?)は、けして多くはないそうだが。



 難題を押し付けられた神様、【契約と約束を司る女神リリス】様は困った。

 自分が出て、神の奇跡を見せつけ、敵を全滅させることは簡単である。


 だがしかし、それをすれば魔族側の神も黙ってはいないだろう。

 そうなったら神々同士の戦争である。アルマゲドンである。

 控え目に言っても、この世界と大地は簡単に吹き飛ぶであろう。


 そこでリリス様は考えた。

 直接、自分が出向かずにこの国を守るにはどうすればいいか?


 リリス様はひとつの策を思いついた。

 が、しかし。それにはある特異体質の人材が必要だった。


 リリス様は捜索した。

 だがしかし、その条件に一致する人材は、今の世界には存在しなかった。


 リリス様は決断した。

 この世界にいないなら、違う世界から呼び出せばいい。


 リリス様は告げた。

 神託を待つ、ミスリル王国の人々に。



「異世界から、勇者を召喚します。この世界の未来は彼に託します。彼に、特殊な力と知恵と策を授け、魔王を討ちます。さあ、急いで召喚儀式の準備を」



 ――西暦2013年。現代日本。首都東京。



 その時の、当時ピチピチの十四歳だった俺は、間の悪いことに全裸だった。

 風呂上りの牛乳を味わうため、全裸フ○チンで腰に手を当てた状態だった。


 牛乳パックを直接口に着けた瞬間、視界が歪んだ。

 そしてそれが元に戻った時、俺は広い部屋で多くの人々に囲まれていた。

 やっぱり全裸フル○ンで。腰に手を当てた状態で。



 まず目についたのが、水色の髪と瞳をもつ、とびきり奇麗なお姉さん。

 そのすぐ後ろに立つ、白髪白髭の、偉そうなおっさん。

 黒いローブに身を包んだ、陰気そうな方々が軽く三十人ほど。

 さらにその外周部に立つ、重そうな西洋鎧に身を固めた人たちが数十人。



 いや思わず噴き出したよね。口に含んだ牛乳を。毒霧みたいに。ブーッと。


 それをまともに浴びて嫌そうな顔をした、ハゲた中年オヤジが、実はこの国で最も重用されている宰相だったと後から知って、随分、気まずい思いをしたもんだ。



 まあ、それはどうでもいい。話の続きといこうか。


 いきなりストリーキングを強制されフリーズした俺の手を、水色の髪のお姉さんが優しくとって歩き始めた。さすがにここで異常事態を察知した俺は、日本語でいろいろ話しかけてはみたものの、それはやはり無駄だった。


 ベッド付きの部屋に連れ込まれた(後から知ったが、この部屋はリリス様滞在時の個室だった)全裸フルチ○の俺は、『アラヤダここでワタクシ初体験かしら展開が急すぎて頭がついていかないけどこの異国情緒溢れる美しいお姉さんに奪われるのなら本望デスワ』……なんてアホなことを考えていた訳だが、当然、そんな桃色展開は待っていなかった。



 リリス様は最初に、俺に言葉が理解できるように魔法をかけた。

 リリス様はそして、自分はこの世界の神、女神リリスであると名乗られた。

 リリス様はその後、ここが異世界であると教えてくれた。


 その上で。


 この国が魔王軍の侵略によって破滅の危機に瀕していること。

 それを防ぐために、魔王を倒したいということ。

 それには俺の協力が不可欠だということ。

 勿論、それを成す為に、俺自身の身の安全は最大限配慮すること。


 そして。


 この計画が達成できれば、俺に何かしらの、お礼の品を渡すこと。

 そして当然、計画が終われば俺を元の時間、元の世界に戻すこと。



 ――以上の話を、分かりやすく丁寧にしてくれた。



 リリス様のお話は非常に興味深かったが、いかんせん、全裸○ルチン状態である俺は気が気ではなかった。特に二十代前半くらいに見える超美人リリス様が、頬を赤く染めてちらちら俺(の下半身)に視線を送ってくるのが堪らなかった。


 このままでは俺の「ぱおーん」が「ぱおおおおおーーーんっっっ!」くらいにはなってしまいそうだったので、申し訳ないがまず服を要求した。


 その要求はすぐかなえられた。ちなみにこちらが言いだすまで服が支給されなかった理由は、俺が裸族だと勘違いされていたかららしい。そりゃそうだよな。呼び出してみたら全裸なんだもん。裸族と思われても不思議ではない。



 ――服を着て落ち着いた俺は、リリス様の話をよく考えてみた。



 嘘である。

 三秒で答えを出した。

 支度をするのに四十秒もの時間がかかるのは、気のいい海賊たちだけである。



「わかりました。やります。俺に任せてください!」



 そうだろう。

 そりゃそうだろう。


 当時の俺は厨ニ病真っ盛り、というかリアルで中学二年生。

 異世界に召喚され女神様に世界を救ってくれと言われ奮い立たない訳がない。


 誰だってそうする。

 俺だってそうする。



 ――さて、ここからは、ちょっと端折る。



 リリス様からあるチート能力を授かり、数ヶ月の準備期間を経て、俺と、俺の護衛四名で構成された少数精鋭の魔王討伐パーティーは、ミスリル王国を出発。本来なら二年から三年はかかるといわれる魔王城への道のりを僅か一ヶ月で踏破。


 軍の主力が出払い、また戦勝ムードでだらけきっていた魔王城へ密かに侵入を果たした俺たちは、首尾よく魔王を討ち取り、その息子である第一皇子の身を人質として確保。


 ついでに人質となっていた魚人族の方々も解放し、歓喜した魚人族の王の好意により、ルーン海を豪華な船で横断。行きと同じく一ヶ月で帰国を果たした俺たちはノルン要塞に立て篭もるカロラン将軍に対し、魔王の首を獲ったこと、こちらには第一皇子という人質がいることを告げ、撤退を要求。


 王の首が獲られれば戦は負けというのは、日本の戦国時代でも異世界の魔族でも変わらないようで、カロラン将軍は潔く敗北を認め、こうして国は救われた。



 ――の、だが。



 リリス様と俺の、最後の約束は果たされなかった。


 元の世界に帰るために必要な、召喚魔法陣が破壊されたのだ。

 勿論、犯人はリリス様ではない。当然、俺でもない。

 実行犯はすぐに判明……というか自首してきたのだが、実は真犯人は別にいた。



 ミスリル王だ。



 ありそうな話である。リリス様から授かった俺のチート能力は、この世界の軍事バランスを簡単に覆す。国を守るどころか、人族統一、さらには魔族の治める南大陸制覇ですら夢ではない。



 ……つまり、惜しくなったのだ。王は。俺という兵器を失うことが。



 悪魔の誘惑に負けたミスリル王は、実行犯をそそのかし、魔法陣を破壊させた。考えてみれば王宮の地下奥深くに隠された召喚魔法陣を破壊するなんて、王家の協力がなければ出来る筈がない。


 だがしかし。王はそんなことはおくびにも出さず、俺を猫撫で声で慰めた。せめて貴族として取り立てようと甘い言葉を囁いた。夜になれば、王が差し向けた全裸の美女美少女達が何人も何人も、入れ替わり立ち替わり、俺の部屋に現われた。


 この辺で真相に気がついたリリス様の助言を受け、俺は即座に城を脱出し逃亡することを決意。その夜のうちに動いたのは、ベッドで待ち受ける美少女たちの誘惑に負けそうだったからではない。断じて違う。違うんだってばおい話を聞けよ。



 まあ、今思えば、ちょっと意地を張りすぎていたような気もする。

 せめて少しくらい、お胸をモミモミくらいはしてもよかったのかもしれない。

 中学生の頃って、性欲旺盛なくせに、妙に潔癖になることってあるよなー。



 ……惜しかったなあ……。



 話がそれた。


 王の差し向けた強力な刺客(全裸美少女)たちを断腸の思いで部屋から叩き出した俺は、ミスリル王に宛てて一枚の置手紙を書きあげる。



 今回の企みを見抜いたこと。

 約束を違える王家には仕える気がないこと。

 なので俺は逃亡すること。

 行きがけの駄賃として、城の装飾品をいくつか拝借すること。


 もし、追手を差し向けてくるなら、こちらも力で対抗すること。

 さらには、今回の顛末を余すことなく各国に暴露すること。

 それだけではなく、どこかの国の協力を得て、ミスリル王国に攻め込むこと。


 ただし、そちらが手を出さなければ、こちらから何かをすることはないこと。

 俺は手を出さないが、約束を破ることになったリリス様は激怒していること。



 ……等々。



 以上をつらつらと書き連ねた後、俺は部屋にあった金の燭台やら高そうな皿やら何やかんやを袋につめ、颯爽と窓から飛び降り、王宮城門を突破。


 街道に沿い走り続けて、最初に辿り着いた街で拝借した諸々を売却。当座の生活費を手に入れた俺は、更に北へ北へと旅を続け、三ヶ月後にパロス公国首都ノアの街へと到着。


 ちなみに、道中、ミスリル王の命を受けた追手は現れなかった。書置きが効果を発揮したのか、怒髪天を衝く勢いのリリス様が止めたのか、俺は真相は知らない。


 

 ――ま、そんなこんなで。



  ノアの冒険者ギルドで初期登録を終えた俺は、「勇者ハルキ・ヤマミズ」ではなく、ただのF級冒険者、配達好きのハルキとしての生活を始めたのである。




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