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【速達】のハルキ -俺は異世界で最速の配達人を目指す-  作者: 赤井どんべえ
配達されない手紙 ~シャルロット・ロベール~
16/45

親愛なる父様、母様へ

 拝啓。


 父様。母様。その後、如何お過ごしでしょうか?

 お体に変わりはありませんでしょうか?


 特に父様は病み上がりということで心配です。

 母様。父様のことをよろしくお願いします。


 さて、わたしのほうですが。

 まず、報告があります。


 わたし、【ヤマミズ】郵便局の局員になりました!

 局員第一号だそうです。大変名誉なことですね。


 まあ、その。はい。

 実は、押しかけ面接で採用を強要したようなものですが……。


 ハルキさん、いえ、ご主人様は聡い方です。

 そして優しい方でもあります。


 ですから、理でも情でも、どちらの説得も利くかな、と。

 そう予想し、理論武装して向かったのが功を奏しました。


 どうしても。何としてでも。採用して欲しかったので。

 ここはもう、手段を選んでいる場合じゃないな、と。


 お爺ちゃんにだけは、いつか謝らないといけません。

 祖父がわたしの就職先を、女好きの貴族の屋敷にしたと。

 そういうウソをついてしまいましたから。

 あの優しいおじいちゃんがそんなことする訳ないのにね。


 でも。だって。いい訳を言わせてもらえれば。

 これは仕方のないことだったのです。



 ……好きになってしまったのですから。あの人のことが。



 最初に会った時は「頼りなさそうな男の子だな」と、そう思いました。

 体も細いし、身長もそれほど高い訳じゃない。

 この人が、あの【速達】さんなのかと。

 今だから言えますが、ちょっと、がっかりしたものです。


 印象が変わったのは、やはり【速達】の秘密を知ってから。

 率直に、圧倒されました。あの魔法に。


 でも、それだけじゃないのです。

 ご主人様は、道中、とても紳士な振る舞いで接してくれました。


 男と女の二人旅です。

 その気になれば、ご主人様はいつでも、その、あの……。

 “そういうこと”が出来た筈なんです。

 でも、わたしのご主人様は、そんなことはしませんでした。

 旅の間、ずっとずっと、優しく接してくれました。


 そして、父様の病を治してくれたこと。

 感謝なんて言葉じゃ言い表せません。


 でも、この時は、まだ、でした。

 凄い人だと尊敬はしましたが、好きとかそういう気持ちは、まだ。

 うーん、でも、どうでしょう?

 尊敬と愛情。恋慕の想い。

 もしかしたら、もう、この時には……だったのかも知れませんね。


 決定的だったのは、賊が部屋に入ってきた時のこと。

 恐怖で動けないわたしを、颯爽と登場して助けてくれたこと。

 そしてその後、無謀なわたしを怒るのではなく、ほめてくれたこと。



 ……好きになりますよ。ならない訳ないじゃないですか。



 女の子にとって、永遠の憧れのシチュエーションですよ!

 これで恋に落ちない女の子はいませんよ!

 もう、まっすぐ心を撃ち抜かれましたとも!



 ……でも。ここまでは普通の「好き」の範疇でした。



 愛してしまったのは、その日の夜。

 好きという気持ちを隠して、ご主人様の部屋に行った時のこと。


 ああ。父様。母様。ごめんなさい。

 シャルはお二人に隠れてこっそり、そんなことをしていました。


 でも、仕方がなかったのです。

 気持ちが抑えられなかったのだから。


 でも、わたしは意気地なしでした。

 好きだという言葉は伝えられず。

 報酬代わりに、なんて言ってしまったのです。


 だって、ご主人様の周りには、素敵な人が二人もいたのです。

 お人形みたいに整ったお顔の魔術師さん。

 もう一人の方は、なんとお姫様ですよ?

 わたしなんて相手にして貰える筈がないじゃないですか。

 そう思うのがあたりまえじゃないですか。


 だから。報酬と。そんな言葉で逃げました。

 それでもいいから。一晩でもいいから。

 あの人のものになりたいと、そう願いました。



 ……ところがご主人様は、わたしを、その、抱きませんでした。



 正直、ショックでした。

 わたしは、そんなに魅力がないのか、と。

 ええ、ええ。それはもう落ち込みましたとも。


 でも、そんなわたしに、ご主人様は言ってくれたんです。



「……好きだと言われて抱きつかれたら、きっと抱いてました」

「『報酬』代わりじゃ、抱けないっす。大事にしてください。自分を」



 その言葉は嘘ではないと、そう思いました。

 だって、その、証拠があったのです。


 男性は、その、そういう欲求を感じると、変化するんですよね?

 ご主人様の、その、あの、いえ、まあ、あれ、そう、アレが。



 …………………………大きくなっているのが、わかりました、から。



 我慢してくれているんだ。

 わたしを大切に思ってくれているんだ。


 好きになってもらえたかどうかは自信がないけど。

 少なくとも、大切には思ってくれているんだ。



 ……愛しちゃいますよ。これでは。メロメロですよ。もう。



 だから、わたしはご主人様と一緒にパロスに戻りました。

 だから、わたしは強引に郵便局の採用を勝ち取りました。


 ご主人様に、ついていこうと思います。

 一緒にいて、成長して、もっともっと女を磨いて。

 今はまだ駄目でも。今はまだただのメイド兼店員でも。

 いつか、ご主人様に、今度こそ、女として扱ってもらおうと……。



 ……うん。ダメですね。



 この手紙は出せません。

 気持ちを思うままに書いていたら、大変なことになってました。


 これ、父様が見たら卒倒しちゃうかもしれません。

 母様が見たら、どうでしょう? 応援してくれますか?


 いや、どっちにしろ、だめですね。

 この手紙は封印しましょう。

 トランクの奥深くに、永遠に隠しておきましょう。

 今度また、ちゃんと出せる手紙を書きます。


 

 それでは、また。



                   シャルロット・ロベール


 

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