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パラレル料理道  作者: EDA
ACT.2 ルウ家の7兄妹
6/11

③ルウ家への招待状

今回の投稿はここまでとなります。

次回の更新は本編の更新後となりますので少々お待ちくださいませ。


2015.5/18 誤字を修正

「なるほど。そいつは大した心意気じゃないか」


《つるみ屋》の厨房にて、親父は愉快そうに笑っていた。


「そういうことなら、うちの店でも好きなだけ勉強するといい。道具さえ壊さなければ何でも自由に使っていいからさ」


「いたみいる」とアイ=ファは静かに頭を垂れた。


 学校から帰ってきて、開店前の清掃作業を終えたところである。

 さすがに1週間も経過すると、アイ=ファのエプロン姿もすっかり店に馴染んでいた。


「だけど、週に1度の定休日ぐらいしかまとまった時間は取れないんだよな。だったらそれとは別に、明日からは一緒に朝飯でも作ってみるか?」


 俺がそのように述べてみせると、アイ=ファは無表情のまま何度か目を瞬かせた。


「しかしそれでは――アスタと店主にも私の粗末な料理を食べさせることになってしまうではないか」


「それぐらいのほうがやる気も出るだろ? もちろん最初は俺が色々と手本を見せていくからさ。まずはそうやって少しずつ調理の作業に慣れていくのが近道なんじゃないのかな」


「そうか」とアイ=ファは真正面から俺の瞳を覗きこんでくる。


「とてもありがたい申し出だと思う。……感謝するぞ、アスタ」


「どういたしまして」


 そんなこんなで、本日も《つるみ屋》の営業は開始された。


《つるみ屋》は、ごく一般的な大衆食堂である。

 人気メニューはハンバーグとビーフシチュー。顧客のメイン層は勤め帰りの会社員や大学生、それに家族連れなんかもちらほらと。ファミレスや居酒屋のひしめく繁華街の激戦区で、まあそれなりの人気は博していると思う。


 客席は、10名まで座れるカウンターと、6卓の座敷席。親父が足を痛めてから、平日の昼の部ではカウンターしか解放していない。夕の部ではこれらの席が常に8割ていど埋まり、満席になるのも珍しくはない、というぐらいの賑わいであった。


「よー、今日も繁盛してんな」


 そんな中、ルウ家の面々がやってきたのは午後の7時まであと15分という頃合いである。

 店はいい感じに混み合い始めていたが、幸い座敷はまだ2席ほど空いていた。


「いらっしゃい! 奥のほうへどうぞ」


 ちょうど注文も切れていたところであったので、俺が彼らを案内することになった。

 メンバーは――長姉と、次兄と、末弟と、末妹だ。


「アスタ、ひさしぶりだね!」


 その末妹が、足もとからにっこりと微笑みかけてくる。

 ふわふわの赤茶けた髪を肩まで伸ばした、元気いっぱいの女の子である。

 花柄模様のワンピースがよく似合っている。森ノ辺学園における所属は小等部の3年生。名前は、リミ=ルウという。


「本当にひさしぶりねぇ……会いたかったわよぉ、アスタ……?」


 と、長姉のほうも艶っぽく笑いかけてくる。

 栗色の髪を長く伸ばし、とろんとした目つきと肉感的な唇が印象的な若い女性――ヴィナ=ルウだ。

 春用のニットのカーディガンに、タイトなミニスカートと黒の網タイツ。むやみやたらとスタイルがよくて、むやみやたらとフェロモンが過剰な、大学部2回生19歳のお姉さまである。


 そんな2人をエスコートするのは、カラフルなジャージ姿のルド=ルウと、黒いシャツに黒いチノパンツという黒ずくめのダルム=ルウだった。

 学園のすぐそばに居をかまえているルウ家であるので、みんなきちんと私服に着替えてきたらしい。


 ちなみに俺は去年の学園祭を経て、ルウ家の7兄妹の全員と知己を得ていた。それ以来、長兄を除く6名は我が《つるみ屋》のお得意様にもなってくれていたのだ。

 しかし本日はクラスメートでもある次姉の姿がなかった。帰り際に聞いたところによると、ちょっと気分がすぐれないのでまた次の機会に、とのことであった。


「毎度ありがとうございます。さ、こちらにどうぞ」


 1番奥の座敷席に4人を導く。

 そうして彼らが着席したところで、アイ=ファがお冷を運んできてくれた。


「……イラッシャイマセ」


 相変わらず挨拶の言葉は固めのアイ=ファである。

 そして、アイ=ファの登場に4名中の3名が驚きの表情を見せた。


「うわあ、綺麗な人! あなた、誰?」


「あれ? お前ってダン=ルティムとやりあってたやつだよな?」


「…………」


 ダルム=ルウは無言であったが、その目が彼らしくもなく大きく見開かれていたので、やっぱり驚いていたのだろうと思う。


 で――最後の1名、長姉のヴィナ=ルウだけは、いつもの調子でゆったりと微笑んでいた。


「あなたが噂の転入生ねぇ……レイナから聞いてるわよぉ……あなた、アスタの家でお世話になってるんですってねぇ……?」


 アイ=ファは否とも応とも答えず、ただ淡々とお冷のグラスを並べていく。


「アスタの家でお世話って? まさか、一緒に暮らしてるわけじゃねーよな?」


「……そのまさかなんじゃないのぉ……? わたしはレイナからそう聞いてるわぁ……」


 お冷を配膳し終えたアイ=ファは、いぶかしげに目を細めてヴィナ=ルウを見返した。

 そういえば、アイ=ファはどの人物とも初対面であったのだ。


「レイナとはどちらのレイナであろうか? 私にはその名前を持つ知人が2名存在するのだが」


「あなたのクラスメートのレイナ=ルウよぉ……わたしたちは、みんなレイナの家族なの……」


「ああ、レイナ=ルウには6名もの兄妹がいるという話であったな。では、これでそのすべてと顔をあわせたことになるのか」


 得心したようにうなずいてから、あくまでも無表情にアイ=ファは「では、ご注文をお聞かせ願いたい」と述べた。


「えっとねー、リミはオムライス!」


「わたしは……牛すじの煮込みを和食のセットでいただくわぁ……」


「じゃあ俺は、ハンバーグカレーの大盛りと豚汁と肉野菜炒めだな」


「……ステーキ、洋食セット」


「おむらいすと牛すじの煮込みの和食せっととはんばーぐかれーの大盛りと豚汁と肉野菜炒めとすてーきの洋食せっと、承った」


 メモも取らずに反復し、アイ=ファはくるりときびすを返す。

 俺もそれに続こうとしたが、ルド=ルウに襟首をひっつかまれてしまった。


「おい! これはどういうことなんだよ、アスタ!」


「いや、話せば長くなるんだよ。ヴィナ=ルウは事情を知ってるみたいだから、そちらに聞いてもらえるかな?」


「あらぁ……わたしだって、ふたりが一緒に住んでるってことぐらいしか聞いてないわよぉ……?」


「それじゃあ本当に一緒に暮らしてんのかよ! すげーな、お前!」


「な、何もすごくないよ。ただの同居さ」


「だけど、すっごく綺麗な人だね! それに、すっごく優しそう! いいなあ。リミもお友達になりたいなあ」


 てんやわんやの騒ぎである。

 その中で、ダルム=ルウはひとり不機嫌そうに切れ長の目を光らせている。


「明日太、注文が入ったぞ」という親父の呼び声に救われて、俺はその騒ぎから離脱した。


「今の声は、学校のお得意さんだな? あのおちびさんは毎回よく食べてくれるなあ」


 笑いながら、親父はフライパンにハンバーグのパテを投じる。


「肉野菜とオムライスはまかせるぞ。こっちはステーキと牛すじを受け持つからな」


「了解」


 なおかつ移動が困難な親父に代わり、ライスや汁物の準備も受け持たなければならない。親父の足が治るまで、俺の仕事量は5割増しなのだ。


 しかし、アイ=ファが来るまでは5割どころか10割増しだった。

 そのアイ=ファは、注文が切れたので皿洗いに従事してくれている。


(本当に、呆れるぐらいの働きっぷりだなあ。……だけど、半年か1年後にはいなくなっちまうのか)


 その頃にはさすがに親父の足もあらかた治っているだろうから、何も不都合なことはない。

 だけど、ほんの少しだけ――喪失感の1歩手前ぐらいのちくりとした痛みが胸の中に生じた気がした。


(で、その後はいつまで日本にいられるかもわからないってんだもんな。俺たちのほうはそれで元の生活に戻るだけだけど――こいつは寂しくないのかな)


 数ヶ月おきに住む場所を変える生活なんて、俺なんかには想像もつかない。


 それに、アイ=ファがあんまり人づきあいを得意としていないのは、やっぱりそういう特異な生活環境に育ったためなのだろうとも思える。

 アイ=ファ自身に不満はないようだが、情操教育的にそういう生活は問題がありまくるのではないだろうか。


(うーん……だけど、こういう複雑な性格もひっくるめて魅力的なやつなんだよな。そう考えたら、一概に間違っているとも言えないのか……)


 何だか頭痛がしてきそうだったので、あらぬ想念に身をゆだねるのはそれぐらいに留めたほうが良さそうだった。


 出来上がったオムライスを皿に移し、レードルでたっぷりとデミグラスソースをかけてからアイ=ファを呼ぶ。


「オムライス、出るぞ」


 そうしてお次の肉野菜炒めに取りかかっている間に、親父のほうからも次々と料理が仕上がっていく。アイ=ファは何往復もしてそれらのすべてをルウ兄妹の卓に届けてくれた。


「おいしーっ!」というリミ=ルウの声が響いたところで、最後の肉野菜炒めも完成する。

 それを取りに来たアイ=ファが、ちらりと俺のほうを見た。


「……さきほどの者たちがお前を呼んでいるぞ、アスタよ」


 タイミングがいいのやら悪いのやら、また注文はそこで途切れてしまっていた。

 アイ=ファが皿洗いも片付けてくれていたので、断る口実も見つけられない。

 普段であれば何も忌避する理由はないのだが、アイ=ファの存在を取り沙汰されるのはなかなかに神経を削られるのである。


 とりあえず――1日おきぐらいの頻度でアイ=ファが寝床にもぐりこんでくるというその一点だけは、どのような事態に陥っても守秘し通さねばならなかった。


「えーと、お味はいかがでしょうか?」


 普段よりもよそゆきの顔で出向いていくと、まずは賛辞の言葉があちこちから飛びかった。

 無愛想な次男坊だけは、黙々とステーキを食している。


「実はさ、アスタに頼みたいことがあるんだよ!」


 最終的に、ルド=ルウがそのように述べてきた。


「今度、ジバ婆の傘寿のお祝いがあってさ、その日、俺たちの家に来て料理を作ってくれねーかなあ?」


「ジバ婆?」


 その名前は、初耳だった。

 彼らの祖母君はそのような名前ではなかったような気がする。


「ああ、俺らの祖母さまはティト・ミン婆だよ。ジバ婆は亡くなった祖父さまの母親だから、俺たちから見たら曾祖母ってことだな」


「へえ。傘寿っていったら80歳だっけ? それはおめでたい話だねえ」


 ちなみに津留見家は、そういった親戚筋とは縁が切れてしまっている。親父は実家に勘当された身であるし、母方の両親はすでに他界してしまっているのだ。


「だけど、俺は店の手伝いがあるから、ちょっと難しいかなあ」


「へへーん。そう言うだろうと思ったぜ! だけどな、ジバ婆の誕生日は来週の火曜日なんだよ!」


 それは《つるみ屋》の週に1度の定休日であった。


「うーん、だけどなあ……」


 俺はかたわらのアイ=ファを盗み見た。

 すかさずアイ=ファが「さきほどの話を気にしているのか?」とつぶやく。


「ならばそのような気遣いは不要だ。私はひとりで修練に取り組もう」


「えー、アイ=ファは来てくれないの?」


 と、デミグラスだらけの口でリミ=ルウが言った。


「せっかくだから、アイ=ファにも来てほしいなあ。何かご用事があるの?」


「いや。しかし私は調理の修練に励まなくてはならぬのだ」


「ああ……だから、先生役のアスタがいないと困るっていうお話なのねぇ……」


 お上品に牛すじをつまみながら、ヴィナ=ルウも声をあげてくる。

 見かけに寄らずというか何というか、このお姉さまはやたらと察しがよろしいのである。


「だったら、あなたもいらしたらぁ……? アスタの作業を手伝うことも、あなたには立派な勉強になるでしょう……?」


 色っぽい流し目で、挑発するようにアイ=ファを見つめている。

 察しのよさに付け加えて、ヴィナ=ルウは兄や妹からアイ=ファについての情報をそれなりに聞きかじっているのかもしれなかった。


「しかし……私はアスタと異なり、あなたたちとは何の縁も結んではいない。そんな私がそのような席に出向くのは、むしろ礼に失してしまうであろう」


「固いわねぇ……あなたもレイナとはクラスメートなのでしょう……? それとも、レイナとは仲が悪いのかしらぁ……?」


「まだ仲の善し悪しを口にできるような間柄ではない」


「だったら、リミとお友達になってよ!」


 リミ=ルウが、その小さな指先でアイ=ファのエプロンをわしづかみにした。

 大きな瞳が、期待と喜びにきらきらと輝いている。


「それで一緒にジバ婆をお祝いしようよ! ね?」


「……いや、しかし……」


「リミのこと、嫌い?」


 リミ=ルウの瞳が、うるっと涙ぐむ。

 ルウ家の兄妹の下3名は、きわめて直情的な性質を有しているのである。

 なおかつ、それが美点に思えるぐらい魅力的な人柄であるので、なかなかにタチが悪い。特にこのリミ=ルウなどは天真爛漫の極地のごとき存在であるので、いかにアイ=ファといえどもそうそう無下にはあしらえないはずだった。


 そんなわけで、アイ=ファはいつになく困り果てた様子で俺のほうを見返してきた。


「……まあ、調理の試験はまだまだ先だからな。そんなに焦らなくても、勉強する時間はたっぷり残されてるんじゃないのかな」


 かくして、アイ=ファはリミ=ルウの涙によって陥落することになった。

 来週の火曜日、俺たちはジバ婆さんなる人物のためにルウ家まで出向く段に相成ったわけである。


              ◇


「個性的な人が多いけどな、そんなに気に病む必要はないと思うぞ?」


 営業後、俺の自室にて。

 壁にもたれて疲れた身体を休ませながら、俺はそのように述べてみせたのだが、アイ=ファの表情はいっこうに晴れなかった。


「用心すべきは、ジザ=ルウとダルム=ルウと……あとは、おっかない理事長様ぐらいかなあ」


「……用心するべき人間が3人も存在するのではないか」


「それでもあそこは大家族で、10人以上の人間が一緒に暮らしているはずだからな。割合で言えばささやかなもんさ」


 あくびを噛み殺しつつ、俺は答える。


「何にせよ、招かれた身なんだから、そこまで気をつかう必要はないよ。気詰まりだったら、ずっとリミ=ルウあたりとおしゃべりしてればいいんじゃないのかな」


 それでもアイ=ファは不満そうに唇をとがらせてしまっていた。

 何となく、ルウ家に出向くこと自体よりも、リミ=ルウにあけっぴろげな好意をぶつけられたことに困惑しているようにも見える。


(……だけどアイ=ファには、ちょっとぐらい強引な相手のほうがちょうどいいんじゃないのかな)


 これだけクラスメートたちの心を魅了しておきながら、まだアイ=ファには友人と呼べるような相手ができていない。誰とも諍いを起こさない代わりに、ある一定以上は他者を寄せつけていないようにも見えてしまうのである。


 かろうじてアイ=ファと打ち解けつつあるのは、クラスメートならぬ玲奈であった。

 で――俺の印象として、けっこうリミ=ルウは玲奈に近いタイプなのである。


(そうやって少しずつ打ち解けられる相手が増えていくのは、悪いことじゃないだろうさ)


 そんなことを考えながら、俺はついに抑制し損ねたあくびを外にもらすことになった。


「まあ、オーケーの返事をしちまった後なんだから、くよくよしたって始まらないだろ。……さ、そろそろ寝ないと明日にひびくぞ?」


「うむ」


 しかたなさそうにアイ=ファが立ち上がる。

 そうしてドアに手をかけてから、アイ=ファは何かを思い出したように俺を振り返った。


「朝食作りの手ほどきは、明日から引き受けてくれるという話であったな。色々と面倒をかけてしまうと思うが、よろしくお願いする」


「ああ、こちらこそ、な。……おやすみ、アイ=ファ」


「うむ。よき夢を」


 アイ=ファは部屋を出ていった。

 俺は部屋の灯りを消して、万年床のマットに身を横たえる。


 1日おきの法則でいえば、今日は安眠できる日取りであったはずだ。

 何の警戒心も持っていなそうな女の子に添い寝を強要されるというのは、思いの外しんどい行為なのである。


(家族同然に思えって言ったって、そうそう割り切れるもんじゃないだろ)


 薄手の毛布をひっかぶり、まぶたを閉ざす。

 とろとろと、心地好い睡魔が俺の意識を飲み込んでいき――

 そして、肩のあたりに心地好い重みと熱がそっと載せられてきた。


「何でだよっ!」と、先に突っ込む。


 それから目を開けて確認すると、金褐色の頭が俺の右肩に載せられていた。

 青い瞳が、うるさそうに俺を見る。


「毎度やかましいやつだな……これでは扉に油をさした甲斐もない」


「だからドアを開ける音が聞こえなかったのか! って、完全に計画的な犯行じゃないか!」


「耳もとで騒ぐな。私のことは気にせずともよいと何べんも言っているであろう」


「気にせずにいられるか! 1日おきの法則は!?」


「……何を言っているのか、さっぱりわからん」


 アイ=ファがゆるやかにまぶたを閉ざしていく。

 毛布ごしにアイ=ファの熱と体温が伝わってきて、動悸が止まらない。


「……10人以上も家族がいる生活というのは、いったいどのようなものであるのかな……」


「な、何?」


「私には、父を置いて他に家族はなかった……今はその父とも離れて暮らすことになり、家族と呼べるのはお前と店主のみだ」


 何故かアイ=ファは、普段から親父のことを店主呼ばわりしているのである。

 まあ、そのようなことはこの際どうでもいい。


「しかし、アスタと店主の存在があるからこそ、私も何とか健やかに過ごすことができているのだろう……」


 ひそやかな声で言いながら、アイ=ファはうっすらと微笑んだ。


「お前と店主には感謝しているぞ、アスタ……」


 語尾が寝息へと変わっていく。

 この身に満ちた煩悶と葛藤が睡魔に飲み込まれるまで、今宵はどれぐらいの時間を必要とするだろう。

 そんなことを考えながら、俺は暗がりの中でひとつ溜息をついた。

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