八方塞がり
メイが自室に戻ってから何時間かたった後、再び地下牢の扉がギイイィィィィと音を立てて開いた。
「ん?なんだ。私が破ったドレスを着ているのかと思って楽しみに来たのに興ざめじゃないか。」王の言葉の前では少女の顔は何の感情もうつさない。
「はぁ、まったく。お前はいつまでたってもそうなのだな。ジュリアでさえ最後には折れてお前らを生んだと言うのに。」少女は感情を理性の全てで抑え込み表には出さないようにと心につよく念じる。
「お前は私が嫌いなのだろうな。ジュリアを抱き、お前らを産ませ、二―ナを殺し、お前の初めてを奪った私が。」王はそう言ってニタァという効果音がつきそうな顔で笑った。
「そう、その表情が見たかったのだ。憎しみに満ちた鋭い目が、むき出しの白い歯が、お前の全身からあふれ出る拒絶が!」少女は王の言葉でハッと気づきまた元の無表情にもどる。しかしその様子をみていた王は幼児のすることを見るような暖かな目で少女をみた。
「やはり美しいものだな。むき出しの感情というものは。しかしあの時のお前の泣き叫ぶ顔のほうがもっとよかった。」王は生粋の変態であった。その欲を満たすために今まであらゆる手を使ってこの地位に上り詰めたと言っても過言ではなかった。少女は堂々と真ん中に座りただ宙を見つめている。
「なるほど、そういう態度か。今日の夜は長くなりそうだな。」影は重なり、遠くでパーティーの宴の音楽が響き渡っていた。
牢獄にはぶつかるような音と、水の音。それに男女の乱れた息遣いのみが響いていた。
他には誰も入ることを許されない二人だけの世界。
しかし少女にはもうなにも聞こえなかった。
王の息遣いと笑い声以外は。そうして少女の一日は長く続いた。
ー誰も助けてなんてくれやしないー