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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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作者: 高砂イサミ
掲載日:2012/03/22


 さくさくと砂を踏んで、彼は灼熱の太陽の下をひたすら歩いていく。

 見渡す限りの砂の海に日陰など存在しないので、フードつきのマントをかぶり、顔の下半分も布で覆われている。そのため、はたからはその冷然とした目元しかうかがうことはできなかった。

 そして彼のすぐ後ろには、同じような姿の少年がもう一人。


「……それで?」


 不意に、彼は立ち止まった。同行者の少年も一歩分遅れて足を止める。

「『それで』?」

「いつまでついてくる気だ」

「言ってるじゃない。『いつまでもどこまでも』」

「……」

「あ、なんかヤな顔された」

 彼は答えず、また足早に歩き出した。

「あれ、怒った? ……怒ってない? どっち?」

「……怒ってはいない」

「じゃあよかった」

 仮に「怒っている」と言ってみたところで、少年の態度は変わるまい。それは彼もいやというほど深く理解している。

 理解できないのは、なぜ、相手が自分についてくるかということだ。

「え? まだ説明してなかったっけ?」

 彼の心中の声が聞こえでもしたように、少年は素っ頓狂な声を上げた。

「覚えがない」

「そういえば……まだだったかもね?」

 こいつは、と思いつつ、疲れるので突っ込まない。

 少年はうんうんと勝手にうなずいた。

「あっははは、そっかー。じゃあこの際だから、ちょっと語っちゃおっか――」

「っ!」

 聞き終える前に、彼は跳んだ。

 どっと砂が盛り上がる。その中から姿を現したのは『王砂蟲』。環状の鋭い牙を持ち、人の背丈の3倍ほどもある肉食サンドワームだ。

「うわー、大物!」

 叫んだ少年は、すでにちゃっかり退避していた。彼は一つ舌打ちしてからすらりと片刃の剣を抜いた。

 王砂蟲が頭に突き刺さるような鋭い鳴き声を放った。それは獲物をマヒさせる効果を持つ。しかし彼は、口の中に仕込んでいた薬草を噛みつぶしてしのぎきり、助走をつけて大きく跳躍した。

 上段に剣をかざす。鋭い呼気とともに、刃を蟲の体に振り下ろす。

 落下の勢いを味方に、剣は蟲の口から尾までを一気に切り裂いた。


 ――――――――――――ッ!


 半分ずつの蟲が両側に崩れ落ちた。砂埃を上げながらしばらくの間のたうって、それも徐々に静かになる。

 彼は蟲の動きが完全に止まったことを確認してから、剣に付着した蟲の体液を砂でぬぐい、ぱちんと鞘に戻した。

「お疲れー」

「……。お前」

「言いたいことはわかってるよ? でもいいじゃない、君一人でどうにかできちゃうのはわかってるんだからさ」

 あはは、とひとしきり笑ってから、少年はふと真顔になった。

「あの時も……ちょうど、こんな感じじゃなかったっけ」

 砂をすくおうとしていた手を止め、彼は少年に目を向けた。

「あの時?」

「初めて会った時。君は盗賊に襲われて、それを返り討ちにしてた」

 あまり思い出したくない場面だった。彼は眉根を寄せた。

 すると少年は、遠くを見るような目になった。

「僕が到着したのはちょうど全部終わったところで。君の手は、赤くて……」

 ちょうど今、蟲の体液で濡れているように。彼はそれを砂で乱暴にすり落とした。

「こっちは、お前があそこで急に泣き出したことに驚いたんだが」

「うん。そうだったね」

 彼の皮肉に臆面もなくうなずいた少年は、にっこりと、最上級の笑顔を見せた。

「それが理由だよ」

「は?」

「ホントはわかってるんでしょ? あの時、本当に泣きたかったのは――」

「……」

「僕には昔から不思議だったことがあってさ。わけもなく心が動いて、自分じゃコントロールできないんだ。それが一目君を見た時に、『ああ。この人だった』、ってね」

 少年がずいっと顔を寄せてくる。自分の胸を示しながら、少し、声を低めた。

 

「探してたんだ、ずっと。――この胸に共鳴する『誰か』を」


 彼は少年を見返して。

 理解しようとする努力を放棄した。


「あ、ちょっと! 僕せっかくいいこと言ったのに!」

 ため息とともにまた歩き出した彼を、少年があわてた様子で追ってくる。

「どこがいいことだ」

「だってさー」

「もういい。運命論は信じない」

「……え?」

 ちらとだけふり返ると、少年がきょとんと目を見開いていた。それから、本当に不思議そうに首を傾けた。

「なんだ」

「『運命』って……ちょうど、言おうとしたとこだったけど。もう口に出したっけ?」

「!」

 しばし、沈黙。


「…………バカバカしい!」


 彼は心の底から吐き捨ててまた歩き出した。少年が全開の笑顔でそれを追いかける。

「ねーねー、待ってよーっ」

「うるさい」

「静かにしてたらついてってもいいの?」

「……」

「あれ?」

「――勝手にしろ!」


 彼は口元の布をしっかりと巻き直した。

 初めてできた同行者に、今、顔を見られたくなかった。


                                END


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