出会い
1 プロローグ 『人が笑ってる姿が 好き』 1996年…夏明け。秋と呼ばれる季節が来た。 しかし、未だ夏を感じさせる蒸し暑い日が続く。 時刻は8時を指している。階段を昇る足音が聞こえる。だんだんしだいに音は大きくなる。 バタンッ! 「ショウ!!いつまで寝てるの!!遅刻するよ!」 若い女性が元気な声で、寝癖のついた青年を起こす 「う…わかってるって」
青年の反応を見て、若い女性は溜息をついてから、下の居間に戻っていった。
『毎日、何やってんだろう?』と、自分の人生に嫌気をさしながらも、布団から出ては、制服に着替えた。『俺は何したいんだ?』ただ、なんとなく過ごす毎日。『また、今日もいつもと同じ日々があるだけなんだろうな。』と、思いながら支度をする。 しかし、この青年の人生は、一人の青年と一人の少女によって変えられるのをまだ彼が知る由もない。
2 転校生 太陽がギラギラ照りつける中、走りながら腕時計を見つめる青年がいた。
彼は、数十分前まで布団にいて、若い女性に起こされていた青年だ。 彼の名前は 成田 笑 (なりた しょう)。
姉と二人で暮らしている。
若い女性というのも実は、笑の姉、成田 笑美。親はなぜだろうか『笑』と、どうしても付けたかったらしい。 笑は17歳の高三。笑美は21歳の大学生。両親が死んだのは2年前で車の衝突事故で、45歳という若さで亡くなった。 笑は、学校でいじめられている。だから、笑は学校に行くのが嫌だったが、姉に迷惑かけまいと、楽しいフリをしている。 「はぁ。。。」
溜息をこぼしながら走る。
すでに30分の遅刻だ。
だが、今日は始業式で、あまり影響がない。
笑は、体育館に向かわずに教室に直接行った。
落書きされた机に鞄を置き、座っていると、しばらくしない内にクラスの皆の声が近づいてくる。 下品な声・・・。聞きたくない連中の声。自然に胸がバクバクする。 『来るな!』と、心の声で叫ぶのも虚しく、下品な声がこちらに向けられる。 「よう!ヘナチョコ!まだ生きてんのか!?お前の顔見てると吐き気がする。今すぐ帰れよ!」
だが、笑には勇気がなかった。何も言えない。。。と、 「黙ってんなよ!」
と、髪を捕まれた。笑もなんとか抵抗しようともがくが、かすりもしなかった。 『はぁ。。。俺は何の為に生きてるんだ?』そんな疑問が心に響く。と、 「やめなよ!!成田君、嫌がってるじゃない!」
と、どこから声が聞こえた。
その声は、学校のマドンナこと、中野 宏美だった。 とは言っても、一応、笑の幼なじみである。 いつからだろうか。自分が成田君と呼ばれるようになったのは。。。前までは笑って呼んでたのに。。。 知らない内にあの連中は立ち去ってた。 「大丈夫?ホンッと最悪な連中ね!」
と、宏美は鼻を鳴らす。そんな宏美の横顔を見て、『やっぱり、前とは全然変わってないな』と、心の中で思った。 「今日は、転校生が来るみたい。可愛い子だったらいいね。成田君」
と。笑に嫌味で言っているのか、本当に心から言っているのかはわからない。 「いつから成田君なんて呼ぶようになったんだ?」
「さぁ?忘れた」
と、宏美はとぼけた顔で流す。
宏美とは幼稚園からの付き合いだが、高校生になってから会話を交わすことが無かった。高一、高二では別のクラスで会うことも少なかった。 そして、高三。。。久しぶりの同じクラス。しかし、しばらく見ない内に大人の美貌と性格になった宏美に話し掛けることがどうしてもできないままだった。 ガラガラ。扉の開く音がした。皆はすぐさま席に着いた。熱血教師 山田 仁だ。 自己中心的な性格ゆえ皆から嫌われてる。 「えー・・・新しい学期が始まって・・・」
また、山田の長い話しが始まったと皆、苦渋の顔を浮かべる 「・・・では、今日からこのクラスに新しく入る転校生がいます。・・・入ってきなさい。」
笑は『あ〜あ。転校生も可愛そうに。。。山田の長い話しで、ずっと待たされてたんだな。気の毒に。」
と、言ってる間に転校生の姿が見えた。 整った顔、適度に付いた筋肉。いわゆるイケメン。 「では、名前を皆に伝えて。」
山田の言葉を後に、転校生は声を発した。 「春木。春木 龍 (はるき りゅう)です。」
名前も、かっこいいと、笑は思った。 縁の無い相手だろうなと思った。そう、今は。




