白熊の世界にとりっぷ!2
調子に乗って第二弾を書いてしまいました。
今回は続きと言うよりも、白クマさんサイドのお話になっております。
拝啓、
ってのは手紙の冒頭に書く決まり言葉だって教えて貰った。
でも、俺には手紙を出す様な知り合いも、血の繋がった獣人もいない。
俺を育ててくれたのは年老いた獣人だった。
俺の親は、俺が小さい頃に亡くなったのだと聞かされた。
俺達の種族は、年を経るごとに数を減らしていき、元々集団行動を取る事もなかったので、他に生きている同族がいるのかどうかすら判らないのだと教えられた。
それでも、海を行き来する船から、時折、本当に時折だが、他の獣人の情報が齎される。
その時に聞いたのが『落人』の話だ。
空から人が降って来るなんて、夢みたいな話だと思ってた。
彼女が落ちて来るまでは。
俺を育ててくれた獣人は、俺達は数が少ないから、他の種族の獣人でもいいから、番いを探せ、と口癖の様に言っていた。
そうしなければ、育ててくれた獣人が亡くなってしまうと、俺は一人ぼっちになってしまうからだと、一人では生きていけないからと、いつも言っていた。
「落人がここに降って来てくれればのう」
年老いた獣人はそう呟く事もあった。
俺はその言葉を聞き流していたが、実際に育ててくれた獣人が亡くなると、その言葉の重さを実感できた。
大きなアザラシを仕留めても、セイウチに勝っても、褒めてくれる人がいない物足りなさ。
寝る前に『おやすみ』と言ってくれる人がいない寂しさ。
陸にはたくさんの動物が、海にはたくさんの魚達がいるのに、獣人は俺一人だけだった。
空のオーロラが美しくても、それを一緒に見る事が出来る人がいない。
氷山の移動の音を聞く事も、海の中を泳ぐ事も、太陽の暖かさを感じる事も、全て一人。
今まで楽しいと感じて来た事全てが、何だか色褪せて、詰まらない事のように思えて来た。
ただ毎日、起きて、餌を獲って、飯を食って、泳いで、寝るだけの生活だった。
言葉を話す事も極端に減って、このままだと喋る事を忘れてしまいそうになった。
最初、俺はソレをアザラシだと思った。
ドボン、と派手な音を立てて海に飛び込んだアザラシなのかと。
俺の猟場であるこの海域で、こんなに派手な音を立てるなんて、愚かなアザラシだと思ってた。
どう料理して喰ってやろうか?と考えながら近付くと、アザラシとはちょっと違ってた。
黒い胴体に白い手足は俺が人型になった時と似ていたし、白い頭はするりと剥けて黒い髪の毛が現れた。
これって、これって・・・
「お前、落人か?」
海面に引き上げて訊ねたが、ぐったりとしたまま目を閉じている。
俺は慌てて家へと連れ帰った。
濡れた服を脱がせて(手足を出した一枚しか着てなかった)ベッドに寝かせて毛皮で包む。
その時に、しっかり見た。
俺とは違う雌の身体だ。
この子は喋れるだろうか?
俺と一緒に居てくれるだろうか?
俺の番いになってくれるだろうか?
ドキドキしながら目覚めるのを待った。
「う~ん」と魘されるのを聞いて、喋れそうだと思って嬉しくなった。
顔が赤く、熱が出たみたいだから冷まさなくては、と思って額に手を当てた。
閉じた目から涙が零れた。
「泣くな、熱は直ぐに治まる」
お前は一人じゃない、俺がいるから。
熱を下げる為に額から首筋に手を滑らせて、脇の下に冷えた手を当てていると、その柔らかな肌の感触に欲望が刺激された。
『抱いてしまえ!』と心の中で叫ぶ声がする。
熱が下がったら、この女はどこかへ行ってしまうかもしれない。
ここは極寒の地で、人が暮らすには向かない。
もし『落人』なら、その地の上位種と呼ばれる力ある種族に保護され、仕事を見つけるのが常だと聞いている。
上位種って誰の事だ?
仕事なんてここにはない。
『出て行く』と言われる前に俺の物にしてしまえばいい。
俺は熱に魘されて碌に抵抗が出来ない女を手籠にする事にした。
どうか、どうかずっとここに居て欲しい、と強い願いを込めながら。
次の日、熱が下がった女の様子にホッとして、食事を用意した。
病人向けに、アザラシのミルクで煮込んだ肉を持っていくと、女は目が覚めて起き上っていた。
じっと俺を見る視線の強さに、昨夜の事を批難されているのか?と思わず怯えて立ち止まると、女が見ていたのはスープの皿の様だった。
腹が減っているのか、と安堵してスープを女に渡すと「いただきます」と言ってから、もの凄い勢いで食べ始めた。
丸二日寝ていたのだから当然か、と思いながらも、これだけ食欲があるのなら回復も早いだろうと安心した。
「ごちそうさまでした」と両手を揃えて食事を終えた女に、俺は「お前は落人か?」と訊ねた。
「落人って何ですか?」
そう訊ね返して来た女に、俺は落人について正直に話す事にした。
嘘を吐いても、ここで暮らすならバレないかもしれないが、出来れば俺は、この女に自分の意思でここに居て欲しかった。
それだけ昨夜抱いた女の身体は素晴らしかったから。
最後に、落人は元の世界に帰る事は出来ないのだと伝えると女は微笑んでこう言った。
「優しい方ですね」
「いや、俺は優しくなんかない」
「どうしてですか?」
「だって、病人のアンタを無理矢理・・・」
「どうしてあんな事をなさったんですか?」
「アンタにここにいて欲しかったんだ」
俺は自分の気持ちを正直に伝えると、女は少し考え込むようにして「あなたも獣人なんですか?」と訊ねて来た。
そう言えば、俺は女の看病をする為にずっと人型になっていた。
服を脱いで獣型に変化させて見せると、女は瞳を輝かせて悲鳴を上げながら抱きついて来た。
まだ服を着ていない裸の女に抱きつかれて、俺は戸惑った。
もしかして、獣型を気に入ったのか?
それは嬉しいが、でも・・・柔らかい胸が・・・当たってる。
「あ、止めろ!」
慌てて女を引き剥がしにかかりる。
「ダメですか?」
しょぼん、として上目遣いで見上げてくる表情が更に俺を煽る。
困った俺は女を抱き上げた。
「そんな事をされると、獣型から人型に戻ってしまうぞ」
腕に抱きあげた女は軽く、裸の胸は曝されたままで、プルンと揺れて今でも俺を煽り続けてる。
性的に興奮すると交配し易い人型に戻り易いんだと説明してやった。
「それより、君は落人に間違いないと思うけど、保護するのは・・・」
「あなたが保護して下さるんじゃないんですか?」
話を元に戻すと女はあっさりとそう言った。
「・・・いいのか?」
歓喜のあまり、訊ねる声が震えそうになる。
女は大きく頷いて微笑んだ。
「わたしを海から助けて下さったのですから、最後まで責任とって面倒を見て下さいね」
『責任』の言葉に色々と含む物を感じて「うっ」と詰まったが、願いは叶えられた。
俺を育ててくれた獣人の願いが届いたのだろうか?
家の中は人型でも暮らせるほど暖かいが、外は寒い。
女は人型にしかなれないらしいので、外に出る時は毛皮で身を包まないと出られなかったが、俺と一緒に外の景色を楽しんでくれた。
オーロラを見せた時は「綺麗ですね」と物静かに感動していた。
氷が見せる色とりどりの景色や海を女に見せる事が俺の楽しみになった。
女は俺が見せる物に一つ一つ感激し喜んでくれた。
話を聞くと、女が育った世界では、女も家族が居なかったのだそうだ。
「わたしはあなたに会う為にこの世界に飛ばされたのかもしれませんね」
そう言ってくれた女の言葉に俺は恥ずかしながら、泣いてしまった。
外に出る時間を少しずつ長くして、寒さに慣れさせると、夏には一緒に海で泳げるようにまでなった。
女は泳ぐのが以外と上手かった。
そして、俺を誘うのも。
獣型で女を乗せて泳いでいると、女の手が俺の身体を弄って刺激して来る。
「こら!」と叱っても、笑って止めない。
結局、負けてしまうのはいつも俺で、女の思う儘にされてしまう。
家の中では殆ど服を着る事が無くなり、交わってばかりになった。
そんな事をしていると、孕むのは当然の成り行きで、一年もしないうちに女は身籠った。
子供!
女からその事を聞かされた時、俺は思ってもいなかった事に驚き、そして泣いた。
俺に血の繋がった家族が出来る!
女が俺と一緒に居てくれただけでも、それ以上ないくらいに嬉しかったが、この知らせはその時を遥かに超える程の感激だった。
ありがとう!
ありがとう!ありがとう!
俺は、俺達はもう一人じゃなくなったんだな?
ずっと家族が一緒に居られるんだな?
俺は色々と準備を始めた。
育ててくれた獣人に聞いた事を思い出し、女の知識も参考にし、遠くまで船を探して必要な物を調達し、子供が生まれる準備を整えた。
日々大きくなっていく女の腹に触れながら幸せだと感じる。
一人の世界が二人になり、そして三人に、四人にと増えていくんだ。
ありがとう。
前回、女性が落ちた時の格好について水着だけにしか言及していませんでしたが、スポーツクラブならキャップは必須だし、ゴーグルだって付けていたかも(今回ゴーグルは落ちた時の弾みで外れた事にしましたが)
そんな格好なら人よりもアザラシに見えるんじゃ?と思ってました。
白クマさんの視点からの話は書かなくてはと思っていたので、思っていたよりも早く出来て良かった。