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『「貧乏人の子はいらない」と娘を返品したタワマン最上階ママ、総資産100億の私に「跡取りを返せ」と泣きついてきましたが、もう遅いです』

掲載日:2026/06/03

たくさんの応援、本当にありがとうございます。


短編として公開した本作ですが、予想以上につむぎを応援してくださる方が多く、とても嬉しかったです。


「つむぎのその後も見てみたい」

「もっと幸せになってほしい」


そんな声に背中を押され、連載版として改めて執筆することにしました。


短編版を読んでくださった方も、これから読まれる方も、よろしければ連載版で二人のその後を見守っていただけると嬉しいです。


更新はブックマークをしていただくと追いやすくなっています。


これからも、つむぎたちをよろしくお願いします。

「この子、返すわ」


 タワマン最上階に住むママ友・紗江子は、まるで通販の不良品でも返品するみたいに、五歳の女の子の背中を押した。


 女の子は、私にそっくりな丸い目をしていた。


 床に投げられたのは、一枚のDNA鑑定書。


 そこには、出産時の病院のミスで、私たちの娘が取り違えられていたという事実が記されていた。


「うちの子じゃなかったのよ」


 紗江子は吐き捨てるように笑った。


「五年も育ててあげたのに、ハズレだったなんて最悪。貧乏人の血が混ざった子なんて、一秒だって我が家に置いておきたくないわ」


 女の子の肩が、びくりと震えた。


 その子――つむぎは、これまで紗江子の家で育てられていた子だった。


 けれど、とても「社長令嬢」として大切に育てられていたようには見えなかった。


 サイズの合っていないヨレヨレのTシャツ。


 泥で汚れた靴。


 首元のタグには、マジックで乱暴なバツ印。


 細すぎる腕。


 そして何より、叩かれないように謝る準備だけを覚えてしまった怯えた目。


 きっと紗江子は、この子が自分の思い通りにならないことを、ずっと「出来が悪い」と責めてきたのだろう。


 そして今日、DNA鑑定で自分の子ではないと知った瞬間。


 紗江子は、その責任ごと、この子を私に押しつけた。


 この子が、私の血の繋がった娘。


 つむぎ。


 そして紗江子は、今度こそ「自分の理想通りに育て直す」とでも言いたげに、私が五年間、目に入れても痛くないほど愛して育ててきた娘――美羽の手を強く握っていた。


 美羽は、私が育てた娘だ。


 血は繋がっていなくても、毎朝髪を結び、好きな卵焼きを作り、泣いた夜には何度も抱きしめてきた、私の娘。


 その美羽の髪は、今朝私が動きやすいように結んであげたものを乱暴にほどかれ、窮屈そうな高級ブランドのお受験服を無理やり着せられていた。


「痛い……ママ、痛いよぉ……!」


「我慢しなさい、美羽。あなたは今日から一流の社長令嬢になるの。こんな中層階のボロ部屋に住む貧乏人の母親なんて、今すぐ忘れなさい」


「いや……ママぁ……!」


 私は反射的に駆け寄ろうとした。


 けれど、美羽の細い腕に、紗江子の爪が白く食い込むのが見えた。


「いたい、おばちゃん、いたい……!」


 その声で、足が止まった。


 今ここで無理に奪い返せば、美羽の心も体も壊される。


 だから私は、必死に笑った。


 母親だけは、子供の前で泣き崩れてはいけないと思ったから。


「美羽。大丈夫。ママが必ず迎えに行くからね」


 美羽は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、私へ手を伸ばした。


 けれど紗江子は、その小さな手を引きずるようにしてエレベーターへ消えていった。


 静まり返った玄関には、つむぎだけが残された。


 私は膝をつき、その子と目線を合わせる。


「こんにちは、つむぎちゃん」


 声をかけた瞬間、つむぎは弾かれたようにその場へしゃがみ込んだ。


「ご、ごめんなさい! お部屋、汚してないです! 泣かないから、ご飯いらないから、叩かないで……!」


 胸が、粉々に砕けそうになった。


 この子が、あの最上階の家でどんな扱いを受けていたのか。


 その一言だけで、全部わかった。


 私はそっと両手を伸ばし、泥だらけの、軽すぎる体を抱きしめた。


「もう大丈夫」


 つむぎの体が、私の腕の中で震える。


「あなたは何も悪くない。怒らないよ。……私が、あなたのお母さんだよ」


 つむぎは、声も出さずに泣いた。


 私はその背中を撫でながら、心の底で思った。


 ――よかった。


 紗江子。


 あなたがこの子の母親であり続けなくて、本当によかった。


 その夜、私は卵焼きとお味噌汁、それから炊き立てのご飯を作った。


 湯気の立つ食卓を前に、つむぎは椅子の上で固まっていた。


「はい、どうぞ」


 お皿を置いた瞬間、つむぎは顔を真っ青にして、両手を頭の後ろに回した。


「ご、ごめんなさい! 先に食べようとしてごめんなさい! すぐ片付けます、だから冷たい部屋に戻さないで……!」


「つむぎちゃん」


 私はつむぎの前にしゃがみ込み、冷え切った小さな手を包んだ。


「ご飯を食べるのは、悪いことじゃないのよ」


 つむぎが、恐る恐る私を見る。


「ご飯はね、大好きな人と一緒に『いただきます』って言って、あったかいうちに食べるものなの」


「……おこらない?」


「怒らない」


「残しても……ぶたれない……?」


「ぶたないよ。食べられる分だけでいいの。明日の朝、また食べればいいんだから」


 つむぎの唇が震えた。


「……い、いただきましゅ」


「うん。よくできました」


 つむぎは卵焼きを小さく口に運んだ。


 咀嚼した瞬間、その丸い目から涙がこぼれた。


「おいしい……あったかい……」


 泣きながら卵焼きを食べる我が子を見て、私は静かに息を吸った。


 叫びたいわけじゃない。


 泣きわめきたいわけでもない。


 ただ、胸の奥で青い炎が燃え上がっていた。


 美羽も。


 つむぎも。


 二人とも、私が守る。


 つむぎが眠ったあと、私はスマートフォンを手に取った。


 十年ぶりに、あの番号へかける。


『……舞か』


 厳格で、けれど懐かしい父の声がした。


『一般の金銭感覚を学ぶと言って家を飛び出したお前が、今さら何の用だ』


「お父様。お願いがあります」


『言ってみろ』


「神宮寺グループの法務部と、コンプライアンスチームを動かしてください」


 電話の向こうが、一瞬で静まり返る。


「私の大切な子供たちを、守りたいのです」


 総資産百億。


 神宮寺財閥の総帥である父は、低く笑った。


『ようやく戻る気になったか、我が娘よ』


「戻るんじゃありません」


 私は眠るつむぎの頬に触れた。


「母親として、戦うんです」


 それから数週間。


 私は紗江子に会わなかった。


 罵倒もしなかった。


 ただ、紗江子の夫が経営する会社の実態を調べ、必要な資料を、必要な場所へ提出しただけ。


 結果は、ひどいものだった。


 下請け企業への代金未払い。


 悪質な粉飾決算。


 補助金の虚偽申請。


 社員への残業代未払いとパワハラ。


 出てくるのは、不正ばかり。


 神宮寺グループの傘下企業は、紗江子の夫の会社との取引を即時停止した。


 関係各所にも通報が入った。


 会社は、一気に倒産へ向かう。


 さらに、彼らが誇っていたタワマン最上階のローン審査にも、粉飾された決算書が使われていたことが発覚した。


 銀行から一括返済を求められ、当然支払えず、強制退去。


 最上階から人を見下していた女は。


 自分たちが積み上げた悪事で、地上へ落ちた。


 隠していたものが、表に出ただけ。


 それだけで、紗江子の世界は崩れた。


 私はつむぎを連れて、すでにタワマンを引き払い、神宮寺家の本邸へ移っていた。


 そして、弁護士を通じて、美羽の保護手続きを進めた。


 紗江子の家で美羽がまともに扱われていなかった証拠は、十分すぎるほどあった。


 美羽は、私のもとへ戻ってきた。


 門をくぐった瞬間、美羽は泣きながら私にしがみついた。


「ママ……っ! ママぁ……!」


「おかえり、美羽」


 私は何度も、何度も抱きしめた。


「怖かったね。もう大丈夫よ」


 つむぎは少し離れた場所から、その様子を見ていた。


 けれど、そっと歩み寄り、美羽の手を握った。


 美羽は涙で濡れた目を丸くして、それから、つむぎの手を握り返した。


 それだけでよかった。


 この子たちは、もう一人じゃない。


数日後。


 私の転居先をどこからか嗅ぎつけた紗江子が、神宮寺家の重厚な鉄門の前に現れた。


「舞! 出てきなさいよ! こんな大きな家に逃げ込んで、何様のつもり!?」


「どうせ男にでもすがったんでしょ!? 貧乏人って本当に浅ましいわね!」


 髪は乱れ、服は薄汚れている。


 かつて自慢していた高級ブランドも、宝石も、何ひとつ残っていない。


 どうやら紗江子は、ここが神宮寺本家の屋敷だとは知らず、私がどこかの金持ちに匿われていると思っているらしい。


 私は弁護士を伴い、門の前へ出た。


 私の後ろには、美羽とつむぎが並んでいる。


「お久しぶりですね、紗江子さん」


「な、何よ……その格好……その家……。まさか、本当に金持ちに取り入ったの?」


「自己紹介が遅れました」


 私は静かに告げた。


「神宮寺財閥の跡取り娘、神宮寺舞です」


 紗江子の顔から、血の気が引いた。


「神宮寺……? 総資産百億の、あの……?」


 けれど、次の瞬間。


 彼女の目に、どす黒い欲が戻った。


「じゃあ……私が返したつむぎは、神宮寺の正当な跡取り娘ってことじゃない!」


 紗江子は鉄門にすがりついた。


「返して! つむぎを返しなさいよ! あの子は私の血を分けた娘よ! 私が育てる! 神宮寺の跡取りは、私の子供よ!」


 どこまでも、子供をお金と肩書きでしか見ない女。


 その声に、つむぎが小さく震えた。


 すると紗江子は、今度は美羽に目を向けた。


「美羽! あんたも来なさい! またお受験を頑張ればいいのよ! 今度こそ私の役に立ちなさい!」


 汚れた手が、門の隙間から伸びる。


 けれど美羽は、私のドレスの裾をぎゅっと掴んだ。


 小さな指は震えていた。


 それでも、声だけははっきりしていた。


「いや」


 紗江子が固まる。


「美羽……?」


「わたしのママは、舞ママだけだよ」


 その瞬間。


 紗江子が信じていた血統論は、五歳の子供の言葉に敗北した。


「おばちゃん、大嫌い。二度と美羽にさわらないで」


 つむぎも、美羽の手を握りしめた。


「つむぎも……舞ママがいい。つむぎのお母さんは、ここにいるママだけです」


 二人は、自分の意思で私を選んだ。


 私は二人を抱き寄せ、紗江子を見た。


「血で母親になるんじゃないのよ、紗江子さん」


 紗江子が唇を震わせる。


「毎日、一緒にあったかいご飯を食べて。毎日、名前を呼んで。毎日、抱きしめた数で、母親になるの」


「うるさい! 私の子供を返しなさいよ!」


「どちらの子も、私の子です」


 私は、はっきりと言った。


「あなたが『いらない』と捨てたつむぎも。あなたが『道具』として奪おうとした美羽も。二人とも、私の大切な娘です」


 警備員が、暴れる紗江子を引き離す。


「だから、もう二度と、その汚い手で我が子たちに触らせない」


「いやあああ! 私の百億を返してぇぇぇ!」


 紗江子の叫びが、門の向こうで遠ざかっていく。


 最後まで、あの女は子供たちの名前を愛して呼ばなかった。


 叫んでいたのは、ただ「百億」という数字だけだった。


 数ヶ月後。


 神宮寺本邸の庭園に、二人の笑い声が響いていた。


「つむぎ、こっちだよ!」


「まって、おねえちゃん!」


 美羽とつむぎが、芝生の上を走っている。


 途中、つむぎが小さな石につまずいた。


「あっ」


 転びかけたその手を、美羽がすぐに掴む。


「大丈夫? つむぎ」


「うん! ありがとう、おねえちゃん!」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 血の繋がりなんて、そこにはない。


 生まれ育った環境も、最初の五年間も違う。


 けれど、今ここで手を繋ぐ二人は、誰がどう見ても姉妹だった。


「ママ、お腹すいた!」


「たまごやき、また食べたいです!」


 二人が私のもとへ駆けてくる。


 私は両腕を広げ、二人を抱きしめた。


「ええ、お部屋に入りましょう。みんなで一緒に、いただきますをしようね」


「うん!」


「いただきます、する!」


 血で母親になるんじゃない。


 毎日、抱きしめた数で母親になる。


 愛された子供は、また誰かを愛せるようになる。


 私は神宮寺のすべてを使って、この子たちを世界一幸せにする。


 母親の資格を持たないあの女の影など、二人の未来には一歩たりとも踏ませない。


 私の娘たちは、今日も太陽の下で笑っている。


 その笑顔こそが、私にとって百億よりも尊い、本当の宝物だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


「つむぎ幸せになって…!」

「舞ママ強い」

「血より愛で泣いた」


など、少しでも楽しんでいただけましたら、

【ブックマーク追加】や【いいね】で応援していただけると嬉しいです!


感想もとても励みになります。


愛された子供は、また誰かを愛せる――

そんな話を書きたくて、この作品を書きました。


少しでも心に残っていただけたなら幸いです。

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― 新着の感想 ―
タイトルにぶん殴られました。ざまぁの大谷翔平ですよ。強すぎる。 ここまで欲しい要素を全部盛りされると、もう読まざるを得ませんね。
血筋より愛した差ですね
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