ペルシャ湾の政治経済学
米国の第一期トランプ政権の対外政策と照合しつつ、第二期政権、特に2026年以降の対外政策に関し、考察を試みています。
米国のトランプ政権は、景気浮揚に特段の意を用いているが、「米国の景気を浮揚させ、経済を良好に運営するためには、国際的にも高いテンションが張り詰めている事が重要」との考え方が窺われる。(ケインズが「一般理論」で人間の経済行動を規定し、直感的で衝動的なものとして描写した「animal spirits」に通じるものか)
かつて戦争の多い時代には、戦争自体が、経済の牽引車の役割を果たしてきた。米国でも、通常、海外での戦争には、関与したくない心理が働くだろうが、
「本来、戦争は望ましくないが、景気浮揚のため、国際緊張の高まりは望ましい。そこで示威行為の意味をこめて、軍事演習を行うべし。国際緊張が足りない場合には、『テロ支援国家』の挑発的動きを利用し、空母打撃群の派遣等、多少の過剰反応も躊躇しない。軍需も増やしながら、経済の歯車を回していくべし」、
との思想があるに違いない。更に、海外駐留米軍に関しては、受益者負担の原則を徹底させる思惑があろう。この様なことから、従来言われた「トランポノミクス」とは、政治経済学ならぬ「経済政治学」であり、政権の第二期目でも踏襲されている。
1. 2026年に入り、石油価格の上昇を暫く許容
(1)トランプ政権は、第一期目から、グローバル化に伴い、米国経済で弱体化(ラストベルト化)した鉄鋼等の重厚長大産業に着目。その復興と雇用回復に強い意欲を示してきた。そのため輸入を制限し、海外投資を呼び込んでいる。
(2)「ラストベルト」復興の鍵は、鉄鋼等の需要であり、ハイテクや軍需はこれに深く関係していよう。従って競争力の高いIT・航空・宇宙等のハイテク産業から輸出を増進させ、軍事産業も重視している。
(3)軍需拡大指向は、武器輸出の促進を含むものであり、国際緊張が上がる場合には、関係地域の友好国に対し、兵器を輸出する好機と捉え、安全保障上のニーズを強調しながら、米国産兵器の一層の配備を奨励してきた。
(4)第一期トランプ政権は、2018年の5月に、イラン核合意から離脱し、夏には、中国との貿易戦争が本格化。国際緊張が増す方向に政策を展開させ、仮にその係数を「α」とすれば(下記詳述)、これを増やす方向に舵を切った。
(5)2020年以降、2022年にウクライナの戦争再発までの「コロナの平和」とも言うべき時代を経て、2025年に発足したトランプ第二期政権は、2026年1月に、ベネズエラを侵攻。また2月には、イスラエルと共に、イラン攻撃を開始し、再び国際緊張を増やす方向に政策転換したと見られる。
しかし軍事行動の対象となった両国とも産油国。特に、最近のホルムズ海峡封鎖の動きと共に、中東産の石油価格が高騰し、シェール革命で重要な産油国となった米国でも、連動して石油価格が上昇し、インフレに繋がり、これが政権に対する圧力をもたらしている。
2.海外の米軍(受益者負担原則)
また米国は、財政状況が厳しい中で、政府支出を減らそうとしており、特に海外駐留米軍の経費に関し、ホスト国に肩代わりさせようとの思惑が強く出ている。
大げさに言えば、トランプ政権は海外駐留米軍に関し、体の良い「傭兵」と見做し、ホスト国の防衛(抑止力の提供)の為に駐留するので、受益者負担原則を徹底させたいとの思惑があり、相手がNATO、日本、韓国だろうが、同じ発想でホスト国の負担増大を要求するのだろう。
(1)政府支出をGとすれば、大きく民生用と軍需に分かれるので、
G = G(民)+ G(軍)
となり、G(軍)は、仕向け先の軍事基地が国内外に大きく分かれるので、
G = G(民)+ G(軍)(内+外)
(2)節約を図るのは、G(軍)(外)であり、ホスト国が、今まで以上に米軍の駐留経費を肩代わりすれば、その分、他の支出に振り向け可能となる。
3.国民所得分析(全体像)
(1)国民所得をY、消費をC、投資をI、政府支出をG、輸出をX、輸入をYとすれば、Y= C+I+G+(X-M)
(2) 右側の項目を民生用と軍需用に分ければ、
Y= C+ [I(民)+I(軍)]+ [G(民)+G(軍)]+ [X(民)+X(軍)]- M
(3)整理すれば、Y= C+(I+G+X)(民)+(I+G+X)(軍)- M
要するに、
国民所得= 消費+民生用(投資、政府支出、輸出)+ 軍需用(投資、政府支出、輸出)- 輸入
(4)ここで便宜的に、国際緊張の係数として、αを導入する。国際緊張が増せば、軍事支出は増えるので、α>1となり、Y’を将来的なYとすれば、
Y’= C + (I+G+X) (民) + α(I+G+X)(軍)- M
が成立する。すると、Y’>Y。Y’が増大し、中長期的には、民生用(投資、政府支出、輸出)の需要拡大にも繋がり、株式市場の押し上げ材料ともなろう。
4.マイナス効果
仮にトランプ政権として、既存の国際的な地域紛争や対立関係を利用し、更に緊張感を高めれば「animal spirits」に作用し、総需要の喚起と景気浮揚に結び付くとの発想から、外交政策を練る傾向が有るとしても、今回は石油価格が高騰したので、マイナス面にも着目せざるを得ない。
(1)今年に入り、米国の対外軍事行動の結果、特にホルムズ海峡を石油タンカーが殆ど通過できない事態となっており、特に中東の石油への依存度の高い日本を含む東アジアの国で、石油の供給不足や価格の急上昇をもたらしている。
〇 日本では、石油備蓄の放出により、当面の供給に問題ない由だが、途上国では、十分な備えがない場合も多く、早めに経済社会への無理な圧力となろう。
〇 中国の場合、イランからの石油輸入が多い事もあり、米中関係の大きな制約要因ともなり得よう。
(2)中東依存度の低い米国でも、石油価格は中東産に連動して上昇し、インフレの原因となり、連邦準備制度理事会(FRB)は、トランプ大統領の求める利下げでなく、利上げ方向で考えざるを得ない。また国際緊張の高まりで、ドル高基調となり、米国の貿易収支の赤字促進要因である。




