6.
ゼフとリエルはソファに腰を下ろし、四人の幽霊姉妹がその前に並んだ。
「……でさ」リエルが小声で言う。「聞くの?」
「もう聞いた」ゼフが即答する。
「でも俺ら、あいつらのこと何も知らねえじゃん!」
「じゃあ聞く。幽霊の女の子たち。年齢は?」
四人は少し考え込んだ。やがて護里が口を開く。
「……数十年」
「違う。死んだときの年齢だ」
「二十二」護里。
「二十!」飢呑が元気よく。
「……十九……」慈凪が顔を隠しながら囁く。
「6,570日」玲離が淡々と言った。「前後するけど」
「なるほど」ゼフが言う。「お前ら、ずっとここに閉じ込められてたわけだ。じゃあ聞く。死について、何が分かる?」
慈凪が顔を覆ったまま叫ぶ。
「ひっ……! 思い出させないで……!」
「……なあ」リエルがゼフに小声で言う。「あいつら、あんま役に立たなくね?」
「当然だろ。記憶喪失の幽霊と話してんだ」
護里が腕を組む。
「……聞こえてる」
ゼフは咳払いした。
「……失礼。幽霊たち。うちの父がこの家にいた頃のことで、何か有益な情報は?」
「多くは……」玲離が少し考える。「秘密主義の男……」
「分かんないの!」慈凪が必死に言う。「ほんとに!」
ゼフは額を叩いた。
「使えねえ……」
「おい」リエルが割って入る。「不気味な幽霊に優しくしろって」
「聞こえてる」
護里が一歩前へ出て、ゼフを見下ろした。
「……別の形で助けられる」
「別の形って、具体的に?」
「あなたの父は、魂を器に“結ぶ”方法を教えた。私たちは、そのために使われていた」
「結ぶ……って、憑依?」
護里は頷く。
「でも、その場合……私たちはあなたから離れられない。遠くへは行けない」
「で、それが何になる。俺が幽霊になるのか?」
「違う、愚か者」護里が言う。「私たちの“力”を一つ与える。役に立つはず」
「……へえ。まあ、いい。どうやる」
リエルが手を振った。
「待て待て待て。お前、乗り気なの? 嘘かもしれねえだろ!」
「声の感じが、嘘っぽくない」
「声の感じ? マジかよ」
護里は姉妹に目配せした。
「選べ。二人とも。分かる」
ゼフは顎を撫でた。
「見えりゃ楽なんだがな……」
「……あ、あの……それなら……私が……」慈凪が控えめに言う。
「今の誰だ?」
「恥ずかしがりの子」リエルが答える。
「じゃあ、そいつにしろ。俺に来い」
慈凪はおずおずと立ち上がり、ゼフへ近づく。
「お願い……殴らないで……!」
「俺、見えねえんだけど」
「……あ。そ、そうだよね……」
慈凪がゼフの肩に触れた。びくっと震える。
数秒後、慈凪の体が淡く光り――形がほどけるようにゼフへ溶け込んだ。
ゼフは腕を曲げ伸ばしする。
「……入ったか? でも俺、まだ見えねえぞ」
「言葉が必要……」慈凪の声が、少し遠くから聞こえる。「『治癒の魂』って……」
「……治癒の魂」
次の瞬間、不安の波が体を駆け抜け――ほんの一瞬。
視界が、戻った。
「うわ。うわっ! 見える! 見えるぞ!」
ゼフは反射的にリエルの腕を掴む。
「やっとだ! やっと見える――!」
だが、視界はすぐ闇に落ち、ゼフは崩れた。
「……クソ! 消えた! どこ行った!」
「ごめん……! 長くは出せない……!」
護里が説明する。
「魂の力は長く続かない。二十秒。使ったあとは、回復が必要」
「クソ仕様――!」
リエルは残り三人を見て、玲離を指さした。
「お前、落ち着いてそうだな。何ができる?」
玲離は無言でリエルの腕を掴み、そのまま溶け込んだ。
「うわっ……!」
頭の中で声がする。
「目を閉じて、『洞察の魂』と言って」
「……分かった。洞察の魂」
言った瞬間、世界の動きが止まったように感じた。
「目を開けて」
開いた瞬間、情報が洪水みたいに押し寄せる。
壁のかすかな擦り傷。床の埃の筋。ゼフの呼吸まで。
「……脳みそ、拡張した?」
「違う」玲離の声。「私がそう見せた。世界の“本当”が見える」
「ゼフみたいに情報拾えるってことか。最高――」
床に倒れたままのゼフが指を上に向けた。
「誰でもいいから、あいつ殴ってくれ」
飢呑がにやにやしながらリエルの周りを回る。
「私、この人がいい!」
「やめろ!」リエルが懇願する。「交換しようぜ!? 頼むからそのヤバい幽霊、俺に付けんな!」
「大丈夫だ」ゼフが言う。「死にはしねえ」
「説得力ゼロ!」
返事をする前に、飢呑がリエルへ飛びつき、溶け込んだ。
「へへ! さあ、言って!」
「何を!?」
「『瞬発の魂』!」
「……言いたくない予感がする」
「言うの! 早く! 言って言って!」
「……瞬発の魂」
次の瞬間、リエルの脚が勝手に動き――瞬きの間に壁へ激突した。
頭の中で飢呑が笑う。
「へへ! ほら、楽しい!」
「……いてえ……」
ゼフが立ち上がった。
「で、クールダウン終わったか?」
「ま、まだ……」慈凪が申し訳なさそうに言う。
「おい、マジで――!」
護里がゼフへ手を伸ばした。
「次は私。私の力をあげる」
「何だよ」
「見れば分かる」
護里が溶け込む。
「『剛拳の魂』と言え」
「目に効くやつか?」
「言え、少年」
「剛拳の魂」
ゼフの体が一気に膨れ、筋肉が倍になったように盛り上がる。
彼は拳を打ち合わせ、部屋全体が揺れた。
「……なるほど。筋肉!」
リエルが近づいてゼフの腕を触っていると、姉妹がふっと姿を戻した。
「取引は守った」護里が言う。「次はあなたたち」
「分かった」ゼフが頷く。「じゃあ、どうやってお前らを解放するか――考えよう」
「……グール?」
「生きてはねえだろ」ゼフが言う。「で、上に戻れ。自由にするには、まずお前らに何が起きたかを知らなきゃならない」
慈凪がはっとする。
「……体……?」
「そう。お前の体を見せろ」
――しばらく後。
姉妹は渋々、二人を浴室へ連れて行った。そこに“体”がある。
「うぇ……」リエルがえずく。「吐きそう……」
「案内しろ」ゼフが言う。
慈凪はゆっくりゼフを死体のそばへ連れ、ゼフは腕に指を滑らせた。
「……うん。古い。リエル、こっち来い」
「行かなきゃだめ?」
「来い」
リエルは渋々、隣へ立つ。
「よし。首、頭、腕、胸、脚。外傷がないか見ろ」
「今のところ……ない。けど服でほとんど隠れてる」
「シャツを外せ」
「おい!」
リエルは玲離を肘でつついた。
「なあ、幽霊四号。代わりにやってくれ」
玲離は面倒くさそうな顔で、シャツを引き裂くように剥がした。
すると、その下には――大きく穿たれた穴。
そこから、黒い血が滲んでいた。
――




