17.
リエルはクレーンゲームに夢中になっていた。玲離と飢呑は、その様子を横から眺めている。
「もう少し左に動かした方がいい、リエル」玲離が助言する。「ほら。私が手伝う」
玲離は背後に回り、リエルの腕をそっと誘導した。
「そこ。……押して」
リエルがボタンを押すと、大きなぬいぐるみが掴まれて落ちてきた。
「よし! ナイス。ありがと」
ぬいぐるみが取り出し口から出てくると、リエルは二人に差し出す。
「これ、どっちか欲しい?」
玲離が答えるより早く、飢呑がひったくった。
「私の!」
「はいはい。相変わらず元気だな。スピードのせいなのか、それとも――」
飢呑はリエルの周りを一瞬でぐるぐる回って止まる。
「確かめる?」
「いや、とりあえずこれ終わらせてからな」
リエルは角に“景品っぽいもの”を見つけて目を細めた。
「お、あれ取れるかも」
爪を慎重に動かし、狙いを定める。そして掴もうとした、その瞬間――
「リエル!」
飢呑が目の前に飛び出し、手を振る。爪は空を切って、狙いは外れた。
「飢呑!」
「へへ! 怒った?」
「怒ってるような、怒ってないような……微妙」
飢呑はリエルの鼻先に指を当てる。
「どっちが大事? 私? それ?」
「……君」
「へへ。信じてよかった」
玲離が咳払いをする。
「私は?」
「もちろん。玲離も。玲離もだ」
飢呑はクレーンゲームの上に座り、脚を組んだ。
「おお、罰する?」
「はいはい。じゃあ新しいゲームだ」
「なに?」
玲離が視線を向けたのは、エアホッケー台だった。
「私はあれが気になる。来て」
「エアホッケーか。久しぶりだな。いいぞ」
飢呑がリエルの腕に絡みつく。
「待って! 置いていかないで!」
「一緒に来いって」
「やった!」
三人はエアホッケー台へ向かった。玲離がリエルの隣に立つ。
「玲離、反対側。対戦だから」
玲離は静かに反対側へ回る。
「ここでいい?」
「完璧。じゃあその白いやつ――マレット。持って。目の前の黒いパックを打つ」
玲離は言われた通りに打った。パックは高速でリエルへ飛ぶ。リエルが返す。だが玲離は滑らかに合わせ、パックをリエルのゴールへ叩き込んだ。
『赤チーム:得点!』
リエルが手を叩く。
「うわ、上手いな」
「礼を言う」
パックがリエルの手元へ落ち、再開。玲離はまた決める。今度は、ほんの少しだけ口元が緩んだ。
「私の勝ち」
「よし。じゃあ本気出す」
周囲の客は、リエルが“ひとりで遊んでいる”ように見えるのか、視線を逸らして別のゲームへ散っていく。
試合が白熱してくると、飢呑がリエル側の台に座り込み、わざと視界を遮って邪魔をした。玲離がまた得点する。
「飢呑!」
飢呑はケラケラ笑って手を振る。
「お前、ほんと手がかかるな」
飢呑はわざと悲しそうな顔を作る。
「えー。怒った?」
そして立ち上がると、リエルに抱きついた。
「へへ! 怒った? 怒った?」
「怒ってない。……ただ、また負けた」
飢呑は口元を隠して笑う。
「勝ちはあげない! 私だけは別!」
玲離がリエルのそばへ歩み寄り、肩を寄せるように寄りかかった。
「次は?」
「ゼフたちの様子見るか。行こう」
飢呑と玲離を連れて人混みを抜けると、チケット交換所の前にゼフがいた。隣には護里と慈凪。
「おーい、みんな! 順調?」
ゼフは反応しない。
「……おい? もう疲れたのか?」
「そうだといいけど」護里が心配そうに言う。「まだ来てそんなに経ってない」
リエルがゼフの顔の前で指を鳴らす。
「ゼフ。地球に戻ってこい」
「……え? ああ。何だ」
「友達ごっこ、どう?」
「最高だ」
「顔が死んでるけどな」
店員がチケットを受け取り、大きな犬のぬいぐるみを渡した。ゼフはそれを護里へ差し出す。
「……これ、私?」
ゼフはぼんやり立ったまま、護里が肘でつつく。
「……ん? ああ。そうだ。お前のだ」
護里は嬉しそうにぬいぐるみを抱え、ゼフの胸に寄りかかる。
「ありがとう」
次に店員が猫のぬいぐるみを渡し、ゼフは慈凪へ渡した。
「わ……きれい……! ありがとう、ゼフ!」
慈凪はぎゅっと抱きしめる。ゼフはまだどこか上の空だ。
【仮面……仮面、仮面、仮面。あれはどの仮面だ? 声は男。だがボイスチェンジャーもある。蛇? 砂時計? 鬼の面?】
「ゼフ」護里が柔らかい声で言う。「食べ物、食べてみたい」
【食べ物……ああ、そうだ】
ゼフは我に返った。
「食べ物はチケット売り場の近くにある。たいていそうだ」
リエルが首を回す。
「俺も腹減った」
飢呑が足を踏み鳴らす。
「ぬいぐるみ欲しい!」
「ちょい待ち」
護里はゼフの腕を取り、自分の腰へ回させた。
「どっち?」
「真っ直ぐ……だと思う。匂いがする」
慈凪が急いで追いつき、ゼフの肩にしがみつく。
「み、見える……! あそこ!」
【あの男、消えたのか? 監視されていた? いつから? なぜ気づかなかった。家に戻って頭を整理しないと。携帯が狙われる――】
「ゼフ?」
慈凪の声で、ゼフは現実に引き戻される。
「えっと……チュロスって何……?」
「シナモンシュガーの菓子だ」
「た、食べてみたい……」
「私も」護里が言う。「……あなたと一緒に」
【ぶつかった時、体格が掴めなかった。だが骨格はしっかりしていた。慈凪の記憶では、男は目立ちすぎない。体格では絞れない】
売り場の男が苛立った声を飛ばす。
「おい、坊主。買うのか買わねえのか」
ゼフは思考を振り払う。
「……チュロス二本。頼む」
男はゼフの目を覗き込むように見つめた。
「月でも付けるか? それとも――」
ゼフの目が見開かれる。
「な、何か……?」慈凪が不安げに聞く。
「いや、何も。……チュロス二本、それだけだ」
男は口元を歪めた。
「だよな。すぐ用意する」
【……こいつも?】
「ほらよ、坊主」男がチュロスを押し付ける。「楽しめ」
「……ああ。もちろん」
ゼフは離れ、護里と慈凪に案内されてテーブルへ座る。
【今の言葉、何を伝えたかった?】
慈凪がゼフの袖をつまむ。
「怖い……食べたことない……」
「私も」護里が小さく言う。「何が起こるの?」
ゼフは一本を半分に折り、口へ放り込む。
「普通の味だ。それだけ」
残り半分を差し出した。
「護里、食べろ」
護里はゼフの手からかじり取り、もぐもぐと噛む。
「……っ」
「何だ? 毒か? 細工か? 呪いか?」
「美味しい」護里の目が少し丸くなる。「これ、何でできてる?」
「……生地と砂糖、だと思う」
慈凪も自分のを口に入れる。
「んん……! おいしい……!」
【よし。少なくとも食べ物は安全だ】
リエルが滑り込むように席へ来た。両腕いっぱいにぬいぐるみを抱え、玲離と飢呑もついてくる。
「遅れた。こいつらが売り場を独占したくてさ」
玲離が一つ受け取り、抱き寄せる。
「ぬいぐるみはいくつあっても困らない」
飢呑が三つ奪った。
「私の分! 先取り!」
「で、次どうする?」
【帰ったら携帯だ。中身を見ないと……俺たちは死ぬ】
「……今夜はここまででいい」ゼフが言った。
「マジ? 珍しいな」
「明日、何が起こるか分からない」
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