16.
リエル、ゼフ、そして四姉妹は、裏庭のテーブルに座っていた。リエルは引きつった笑みを浮かべながら周囲を見回し、ゼフは小石を空中へ放っては受け取っている。
【1,051……1,052……待て。この石、あの謎の存在に触れられていた可能性は? 二日間のくだらない縛りが終わったら確認しに行くべきだ】
ゼフは石をポケットへしまった。
次の瞬間、護里がゼフの脛を蹴った。
「痛っ! なぜだ! ただの石だぞ!」
「私と話して」護里が言い放つ。「石の観察はやめて」
「分かった分かった。じゃあ質問だ。好きな数学の式は? 嘘を見抜く方法は知ってるか? ニュートンの万有引力は――」
四姉妹は揃って冷めた目を向けた。リエルはただ首を横に振る。
「次、リエル」玲離が言った。
「それがいい」護里も同意する。「あなたたち……どこから来たの?」
「えっと、母さんが先にここに住んでたんだ」リエルが説明する。「俺らは父さんと一緒にアメリカで育って、十代の半ばくらいでこっちに来た。大学のために、叔母さんのところで世話になって。父さんは俺らにこの家を見せたがらなかった。母さんはそれ以上に嫌がってた」
「……あなたたちの母は?」護里が尋ねる。
「オセフィリン」リエルが答えた。「元は看護師でさ。数年前に亡くなった。ここにも住んでた? 見たことないの?」
「……分からない」護里は言葉を選んだ。「オトマールだけ」
飢呑がテーブルを回り込み、リエルの隣に座る。
「もっと教えて? あなたのこと」
「いいよ……何が知りたい?」
会話が続く中、ゼフはテーブルを指でなぞった。
「ふむ……」
【滑らかすぎる。儀式用の台だった可能性は……?】
「ぜ、ゼフ……?」慈凪が遠慮がちに声をかける。「ゼフは……?」
「俺がどうした」
「違う、えっと……あなたとも話したい。あなたの人生のこと……」
「……あぁ。好きに聞け」
慈凪が話し始めるが、ゼフの意識は別のところへ流れていく。
【妙だ。突然すぎる“友達ごっこ”。最近は多少まともに接しているが……仮にこれが七つの仮面の策略だったら? あの生き物の仕掛けだったら? あるいは父さん――いや。集中しろ、オゼファリオン。母さんも父さんも、自分では真実を語れない。なら俺が掘り当てるしかない】
慈凪が不安げに、ゼフの顔の前で手を振る。
「ね、ねえ……聞こえてる……?」
「聴力は問題ない」
護里がため息をついて立ち上がった。
「行こう、慈凪」
ゼフはまた石を弄び始める。するとリエルが指を鳴らした。
「待って! いい案がある。これで全部解決だ」
護里が足を止める。
「……何?」
「夜、町に行こう。二手に分かれて、数時間後に合流。今も指名手配されてるから、目立たないように。あと、俺の兄貴は目が見えないから、どこに行くにも案内役が必要。つまり護里が――」
「見せびらかしの馬鹿め」ゼフが唸る。
「助けようとしてるだけだって」
「頼んでいない」
護里が踵を返した。
「ゼフが嫌なら、私はやらない。友達になりたくないならそれでいい」
ゼフは溜息をつく。
「……分かった。夜の外出だ」
【さっさと終わらせる。友達などどうでもいい。あの携帯の中身が先だ。壊れていないといいが】
「近くにゲームセンターがある。潜り込んで、少し遊んで、また抜ける。どうだ?」
姉妹は頷いた。ゼフは親指を立てるだけだ。
【父さん……母さん……何が起きた? なぜだ?】
――その後。
リエルとゼフはフードとスキーマスクで顔を隠し、ゲームセンターへ入った。中は子どもたちで溢れ返り、機械音が渦巻いている。
「人、多すぎだろ」リエルが呟く。「土曜だし、そりゃそうか」
「愚かだ」ゼフが小さく毒づく。「子どもだらけに連れてきやがって」
リエルが奥を指差した。
「俺、あっち行ってる。必要なら叫べ!」
リエルが離れると、護里と慈凪がゼフの中から姿を現した。
「で?」護里が腕を組む。「この場所を見せて。理解できない」
「説明はできる」
「見せて」
「わ、私も……!」慈凪が小さく手を上げる。
【死んでるのに、どうやって“見せる”……いや、考えるな。あとでリエルを罵って、今夜をやり過ごせ】
「何が見たい」ゼフが尋ねる。
「あなたがここで一番好きなもの」護里は即答した。「分からないの」
「そりゃそうだ」
「それ、どういう意味?」
「今、一番近いものは何だ」
「……橙色の球に、線と輪っかがある機械」
「ミニバスケのゲームだ。案内しろ」
「……『友達』」
「……くそ。友達、な」
護里がゼフの腕を取って誘導する。
「慈凪、視界を少し借りる」
「ほ、他のことに使わないって約束できるなら……」
「ここに調査対象などないだろう。オジマンドリエルが、その愚かな“遊び”で全部潰してくれた」
慈凪がゼフの手を取り、体が淡く光って溶け込む。
「……癒の魂」
視界が戻った。ゼフはボールを一つ掴む。
「よし。角度、手の置き方、放物線、リリース。中学のときと同じだ」
一投目が綺麗に決まる。
『10ポイント!』
二投目も入る。
『20ポイント!』
三投目も。
『40ポイント! 連続成功!』
「終わり」ゼフが言った。「もう帰っていいか」
護里が前に立ち塞がる。
「教えて」
慈凪もゼフから離れ、身を乗り出す。
「わ、私も……!」
【馬鹿げてる。今頃なら七つの仮面の一人くらい捕まえられたかもしれないのに】
ゼフは首を振る。
「……分かった。護里、先に来い」
護里がゴールの前に立つ。ゼフは彼女の腕へ手を伸ばす。
「ボールを持て」
護里が持つ。ゼフが手を触って位置を直す。
「フォームが違う。片手は下、片手は横」
「……こう?」
「……よし。良くなった」
護里は、ゼフとの距離に気づいたように視線を上げ、頬が赤くなる。
「……い、今、投げる?」
「“投げる”じゃない。“シュート”だ。だが、そうだ。リングを狙って、離せ」
――シュッ。
ゼフがわずかに眉を動かす。
「……入ったのか?」
「入ったと思う」
「おめでとう。初めてにしては驚きだな」
「……ありがとう」
護里はしばらくゼフを見つめ、それから脇へ退いた。慈凪が恐る恐る手を挙げる。
「つ、次……いい……?」
【次は……あの臆病な子。最高だな】
慈凪が立つ。ゼフはボールを持たせ、腕の角度を合わせる。慈凪は真っ赤になる。
「こ、これで合ってる……?」
「合ってる」
「う、打って……いい……?」
「いい」
「……ほんとに……?」
「本当にだ」
ボールがバックボードに当たり、そのまま入った。
「……い、今の……入った……?」
「……当たって入ったか?」
「は、はい……」
「なら入った」
「……っ! や、やった……!」
慈凪が勢いよく抱きつく。
「やった……私、できた……!」
「……骨が」ゼフが呻く。「痛い」
護里が機械の下を見て言った。
「紙が出てる」
「チケットだ。取れ。景品と交換できる」
「何?」
「欲しい物に変えられる」
「……分かった」
護里がチケットを掴む。しかしゼフがすぐ言う。
「浮いているチケットなど見られたら騒ぎになる。こっちに寄こせ」
護里は無言でゼフの手に渡した。
「交換場所は」
「入口のカウンターだ。案内しろ」
護里と慈凪が片腕ずつ取る。しかし人混みが濃くなるにつれ、二人はゼフを見失った。
「どこ行った?」護里が焦る。
「わ、分からない……! ずっと隣にいると思ってた……!」慈凪の声が震える。
「逃げた? それとも――」
ゼフは人混みを押し分ける。
「役立たずめ。これで単独行動か」
そのとき、ゼフの肩が何かに当たった。背の高い、フードを被った男だ。男は動きを止めた。
「すまない」ゼフが言う。「視界がない。歩くのが難しい」
「まったく同感だ」
その声の調子に、ゼフの動きが止まる。
【待っていたみたいに言う。普通の客か?】
男はゼフへ向き直った。
「ことわざを知らないのか……深く掘りすぎれば、自分の墓穴を掘る」
男はゼフの周りをゆっくり歩く。
「掘るのをやめろ、オゼファリオン。お前のためにも……“彼女たち”のためにもな」
男は小さく笑い、そのまま去っていった。ゼフはその場に立ち尽くす。
【今の男……七つの仮面の一人か?】
――




