熟成
「ようこそ、おいでくださいました」
夜、とある屋敷の玄関ホール。重厚な扉が開くと同時に、青年は深々と頭を下げ、来客を迎えた。
老人たちは思わず「おお」と声を漏らし、皺の刻まれた顔を綻ばせた。
「久しぶりだなあ。立派になって」
「私のこと、覚えてるかな?」
「さすがに覚えてないだろう。最後に会ったのは、もうずいぶん昔だからなあ」
「そうそう、あの頃はまだこんなに小さかった。はははは!」
口々に語る老人たちの目は優しく細められ、その瞳にはかつての記憶が滲み、淡くきらめいていた。
青年は少し照れたように笑みを返すと、彼らを屋敷の奥へと案内した。
「祖父はこの日を本当に楽しみにしていました。皆さんにお会いできなかったことを、きっと悔しがっていることでしょう」
ダイニングルーム。重厚な木のテーブルを囲むように老人たちが腰を下ろすと、青年は姿勢を正し、もう一度深々と頭を下げた。自然と老人たちもそれに倣い、静かに礼を返した。
「ああ、我々も残念だよ。全員で集まれなかったのは、寂しい限りだ」
「君のおじいさん、張り切っていたなあ。『最高の味に仕上がるぞ』と何度も言っていた」
「さすがに時間がかかりすぎたようだがね」
「ああ、前回おれが用意した珍味も食べてもらいたかったなあ」
彼らは『珍味会』の仲間である。定期的に集まり、持ち回りで主催者が用意した特別な珍味を共に堪能するのが慣わしだった。
本来ならば今宵の主催は青年の祖父であるはずだったが、残念ながらその望みは果たされぬまま、寿命を終えていた。
ふと会話が途切れると、誰からともなく手を合わせ、全員で静かに祈りを捧げた。
「……で、君がおじいさんに代わって用意してくれたんだって?」
一人の老人が口角をわずかに上げ、問いかけた。
「はい。といっても、祖父が準備していたものを取りに行っただけですけど」
「いやいや、立派なもんだ。かなり遠方に保管していたと聞いているよ」
「ええ……正直、大変でした。船の故障など、いくつかのトラブルを乗り越えて、なんとか……」
青年は控えめに笑みを浮かべながら、頬を掻いた。
「ぜひ、聞かせてくれ。その苦労話を聞くのも醍醐味の一つなんだ。なあ」
「ああ。立派な“前菜”なんだよ」
「ふふっ」
老人たちはにこやかに顔を見合わせ、温かな空気が場を満たした。皆、青年を自分の孫のように感じ、称えたい気持ちになっていたのだ。
「はい。祖父は僕が生まれるずっと前に、辺境の地に暮らすある民族と接触していました。彼らを援助する代わりに、祖父はある素材を現地の気候と風土で熟成させてほしいと頼んだそうです」
「おお、そういえば、おじいさんはそんな話をしていたなあ」
「ええ。祖父はその土地にしか出せない風味を素材に宿すため、持ち帰って加工することは考えなかったそうです」
「なるほどな。徹底しておる」
老人たちは感心したように深く頷いた。
「正直、遥か昔の話だったので不安もありました。ですが、現地の人々は約束を守ってくれていました。保存室は無事に残されていたんです。ただ、いくつかは盗まれてしまったようで……。でも、幸いにも一つだけ、状態のいいものを持ち帰ることができました」
「おおー!」
「素晴らしい!」
待ちわびていたかのように、老人たちは一斉に拍手を送った。青年はこそばゆさを隠すように軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。祖父との約束通り、最上の素材を最良の条件で長期熟成させたものです。さあ、ご覧ください。そして、ご賞味を。これが……祖父が誇る、究極の乾物です!」
青年がそばの台にかけられた布をゆっくりと取り払った。
次の瞬間、老人たちの目は爛々と輝き、感嘆の吐息が室内を満たした。そして、舌なめずりの音がぞろりと重なった。
一方、地球。とあるニュース番組――。
『何者かによってエジプトのピラミッドが破壊された事件について、当局は未だ有力な手掛かりを得られず、捜査は難航しています。なお、崩壊した構造の奥から新たな部屋が発見されました。そこは王室であったと見られていますが、王のミイラはまだ確認されていないとのことです』




