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恋の奪い合い

「これで良かったのかな」

 LINEで希美ちゃんから、『竹達くんのことが好きなの』というメッセージが送られてきた。それに、『あっそう。だからなに?』なんて冷たいメッセージを送ってしまった。

 理由はたったひとつだけ。

 私、秋月菜穂も竹達俊くんのことが好きだったから。

 最初、出会った当初は、彼のことなんて眼中になかった。でも接していくうちに、彼が可愛く思えてきた。


 でも、結局あのメンヘラに取られた。

 優しい人って、どうせ痛々しい人が好きなんだから。彼の妹だってそうじゃない。

 私みたいな、自分で何でも解決できるような、強い女はいらないんでしょ。

 ああ、苛々する。こんな理不尽、ほんといや。

 私も、カッターナイフで腕を切った。血液がしたたり落ちる。涙が零れる。

 なんで、私、ばっかり……。好きな人が逃げていくの……。

 確かに、彼の背中を押したのは私だけど、そうしなかったら希美ちゃんは死んでいた。

 翌日。私は学校の図書室で原稿用紙に向かっていた。カリカリと万年筆で文章を書いていく。

 コンコン、ノックが鳴った。

「失礼します。あっ、秋月、昨日は助かった!」

 飄々とした能天気な顔で、彼はそう言った。竹達が近づこうとしたとき私は反射的に、「来ないで!」と叫んでしまった。


「どうしたんだよ……」

「厭らしい。所詮はワンコなのね」

 彼は眉をひそめる。「どういう意味? それ」

「そうやって、女のケツばっかり追っかければいいのよ。ゲームなんてもうどうでもいいんでしょ。幸せアピールがウザいんだよ」

「おいおい、待てよ。理解が出来ない……」

「理解なんて、しようとなんて思ってないくせに」

「……」


 彼は後ずさった。そしてかぶりを振って、図書室を出ていった。

 私は机に突っ伏して泣いた。

「なんで、あんな言い方、しちゃったんだろう。彼のことが大切なのに……。すごく大事なのに……」

 自分がラノベを書くうえで、さんざん書いてきた負けヒロインたちって、こんな気持ちだったんだ。初めてキャラクターに感情移入が出来そうかも。

「私は……ただ、ゲームを作りたかった。最高のシナリオを作りたかった。それだけのはずだった、なのに……」


 もう、帰ろう。そう思い原稿用紙を鞄のなかに直した。

 すると、放送が鳴った。『竹達俊くん。すぐに生徒指導室に来なさい』

 馬鹿なことでもしでかしたんだろうか。まあ、もう彼のことなんてどうでもいいけど。

 図書室を出ると、生徒たちが廊下に集まっていた。みな、窓の外を見ている。

 私は興味をそそられて、窓を開けた。

「おーい、頼むから聞いていてくれよお、ご主人様!」

 なんと、グラウンドで拡声器を使って図書室の方角へ向けて喋っている竹達。

「俺は、たしかに大竹のことが好きだ。でも、でも、俺の中でご主人様はあんただけだろうがあ、この秋月菜穂。ワンコ君なんて名付けて、ネックチョーカーなんてつけて拘束して。そんなあんたが、悲しんでいるなんて俺は飼い犬として泣いちまうぜ。二つの意味でな」

 私は、思わず笑みがこぼれていた。「誰のせいだと思っているのよ」

「俺は、俺はあ、秋月菜穂も、大竹希美も両方大好きだあ」


 私は駆けだしていた。そして昇降口で靴を履き替えて、グラウンドで教諭と格闘している竹達の臀部を蹴った。「痛っ」

「この浮気者。馬鹿にしてんじゃないわよ」


 すると、私の顔を見た竹達が、笑みを零した。

「その顔が見たかったんだよ。最高のゲームを作ろうぜ」

 そうしたら生徒指導の教諭が、竹達を殴った。「馬鹿野郎。ちょっとこっちに来い」

「お前ってさあ、馬鹿なの? 死ぬの?」

「なんでその二つしかないんだ」

 俺は、橘と談笑しながら帰宅していた。

「この青春野郎が。ゲームも作って、女も作って、友人もいて、最高だな」

「ああ、最高だ」

「嫌味だったんだけどな」

 俺は彼の肩を小突いた。「嫌味なんか言うなよ」

「痛えよ。ふざけんな、ぼこぼこにすっぞ」

「おいおい、有名漫画の脅し文句はやめてくれよお」

「まあいいけどさ。今度、彼女に会わせてくれよ」

「ああ。いいぜ。ちょっとメンがヘラってる恋人だけどな」

「可愛いじゃないか」

「そうだろう」


 俺は思わずニヤニヤしてしまう。それを見た橘が気色悪そうな顔を見せる。

「きもっ」

「おい、さっきから暴言がすぎないか」

 実はここは電車の車内だったんだが、女子高生がときおりこちらを指差しながら笑い合っている。幸せなのはなによりだ。

「絶対、女子高生が笑い合っているのは、お前を馬鹿にしているからな」

「おい、思考に入ってくるな」

 どんなマンティス野郎だよ。怖いなあ。

「俺にかかればどのような思考にもダイブできるんだぜ。この第三の目があればな」

「はいはい。すごいすごい」

「お前なあ。まともに取り合えよ」

 すると俺の最寄り駅に近付いたことを告げる車内アナウンスが鳴る。

「そういえば、昨日、眞衣と出会っちゃってさ。たぶんあいつはトイレに行こうとしていたんだろうけど、ばったりさ」

「ふーん。それきっかけで、もう普通に会話が出来るようになったりな」

「だと、いいんだけどな」


 最寄り駅に着いた。俺は彼に別れを告げて、自宅マンションへと目指す。

 自宅に着いたら、俺は速攻で自室に籠り、PCを開いた、その瞬間だった——。

 ノックが鳴ったのは。

「はい、ってか、勝手に入れよ母さん——」

「お兄ちゃん。入ってもいい?」

「は?」

「駄目なの……」声がこわばり始めたのを感じ取った。

「一体どうしたんだ?」眞衣の緊張を和らげるため、俺は声を落として安心させようとした。

 でも意味が分からなかった。一年近く引きこもっていた眞衣が俺の部屋へ訪れたなんて。

「お兄ちゃんが、私のためにゲームを作ってくれているって知ってから、いつかは会わないといけないと思ってた」

「そうなのか」

「ねえ、そろそろお父さんが帰ってきちゃうから」

「ああ、入れよ」

 眞衣が部屋の中に入ってくる。

 彼女の体をじろじろと見ていると、眞衣が眉を吊り上げてくる。「なに?」

「いや、お前の目的はなんだろうってな」

「目的がないと兄妹で会っちゃあだめなの?」

「いや、駄目ってことは無いけど……、不思議だなあと思って」

「不思議?」眞衣は小首をかしげる。そのしぐさは、俺の好きなしぐさだった。本当は分かっているくせに、とぼけるようなしぐさ。

「こうして一年近く会ってないと、まるで他人だなって」

 すると眞衣の目が曇った。「どうしてそんなひどいこと言うの?」

「ああ、ごめんごめん」

「私、お兄ちゃんと家族だよ」

「ああ、そうだな。なあ、大丈夫か?」

「なにが?」

「その、心の傷とか……」

 すると眞衣は何かを言いかけて、でも結局何も言わなかった。そして部屋を出ていった。

「何だったんだ。一体……」

 俺は嘆息をついて、ゲーミングチェアに座った。

 そして今日もPC上でプログラミングをする。文字入力をしていても、眞衣のことが頭から離れない。何だよ、あいつ。







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