NEXTへ行こう
「ふーん、すげえじゃん」
クラスの中で橘に早速自慢するも、反応は芳しくなかった。それは、クラスの中で浮足立つと悪目立ちするから嫌なのかと思ったが、そもそも興味自体薄そうだった。
その理由が分かるのが、彼の次の言葉だった。
「だって、それだとお前はNEXTの賞に応募するとか言っていたけど、そんなの辞めてしまって、NEXTの制作部門に頭下げてゲーム制作のイロハを教えてもらう。そのとおりにゲームを作って、眞衣ちゃんにゲームやらせるというほうが手っ取り早いだろ」
「は? いや違うって」
「違わないだろ。妹さんのこと抜きにしろ、Spinsの賞へ挑んでくる奴は全員、“本当なら“アマチュア対決なんだよ。それをプロのシナリオライターに協力を頼んだり、自分で絵を描かなかったりすること自体、言わなかったけど筋違いじゃないのか?」
俺は彼のその言葉で、自分の驕りというものを実感した。
そうか。そうなんだ……そうだよな。普通の常識で俺の作ったゲームを語るなら、プロに作ってもらった創作物。完璧で当り前。そんな作品だ。それは、ほかの創作者への愚弄じゃないのか。
「悪い。言い過ぎた。俺は、お前が眞衣ちゃんのために一生懸命なものを作ろうって思いを持っていることを人一倍知っているから。だから、その……これだけは言いたかったんだ」
彼は俺の肩を叩き、そして廊下へと消えていった。
翌日。
NEXTの社内は、まるでオタクの巣窟のようで、俺は少なからず興奮を覚えていた。
だがそこに一見すると場違いな女子が二人いた。
ひとりは、天真爛漫な様子でパソコンをじろじろと見て、「ふむふむ、これは最新のウィンドウズ。ぜひとも欲しい。ねえワンコ君」と大声で叫び、社内の人の業務を妨害している。
もうひとりは絵師の人に質問攻めにしている。「これってコピックの何色を使っているんですか」
ひとりは秋月菜穂。もうひとりは大竹希美だ。
メールでSpinsに招待されたことを伝えると、二人は『行ってみたい』と言ったのだ。いやいやいやと一度は断ろうとしたのだが、『ゲーム作りは私たち初心者だし、あなたの助けになりたいのお♡』なんて構文が送られてきたから、致し方なく。
「なあ、お前は仕事で来たりしないのかよ」
「ないわね。私は主にアニメとかの脚本とか、小説が主戦場だし、この子はアマチュアだから専門外」
やっぱり人気商売でも専門外はあるものなんだな。
「あの……甘粕さんは?」
部長と書かれたネームプレートが置かれた、そこに座っている五十代の初老に訊いてみた。
「ああ、遠見ちゃんね。おーい」
「おいおい、部長。ペンネームで呼んであげて」
誰かが笑いながらそう言った。俺はざあぁあと鳥肌が立つのが感じた。
まさか、嫌な予感がする。
「初めまして——」
目線を上げると、立っていたのは絶世の可愛い子、なんて言葉が似合うくらいの女性だった。手にはコンポタを持っていた。
◇
「甘粕さん。お願いがあります」
「なに?」
「俺に、ゲーム制作教えてください。お願いします」
「あなたがゲームを作りたい動機を教えてくれない?」
「妹が、引きこもりなんです。クラスの中でその、『空気』とか『謙遜』というものに、負けてしまったんです。でも、妹はNextの、甘粕さんが作るゲームが大好きなんです。また妹に元気になってほしい。そういう動機です」
「格好良いお兄ちゃんなのね。でもね、私が手伝ったりするのは違うかな」
「どうして、ですか」
甘粕は、頬杖をついてコンポタを飲んだ。そして長く息を吐いた。
「答えは自分で見つけなさい。それがクリエイターでしょ」
少し冷徹のようだったが、俺は分かっている。クリエイターになるには、時には自分で答えを見つけ出さないといけない、ということを。
俺の癖は他力本願なんだ。秋月にシナリオを依頼したり、大竹にイラストをお願いしたりする、そんな奴なんだ。
そんな奴に、ゲームなんて作れるのだろうか。




