幸福な死去
4
希美の容態が急変しという連絡が、二月にかかってきた。
俺は全力で走って病院に向かった。
病院にはお義母さんとお義父さんがいた。俺は上がった息を整えながら、「どうしたんですか」と訊ねた。
「今朝、破水したんだ。だが、抗がん剤治療で弱った体に陣痛は厳しいんだ。もう、今夜が最期だろうな」
「そんなっ……」
数時間後。医師が手術室から出てきた。
「親御さん、陣痛は身体にかける負荷が激しいので、帝王切開にしましたが、それでもむずかしい状況なのには間違いないです」
俺は歯がんだ。自分の無力さに。
どうしたら彼女を救える?
どうすれば彼女を助けられる?
「すみません。彼女に会えませんか?」
医師が困惑した顔でご両親を見遣る。「この方は」
「希美の恋人です」
「籍は入れているんですか」
「いえ」
医師は悩むようなそぶりを見せた。「本当は親族しかICUでの面会は許可されてはいないんですけど。まあいいでしょう。責任は私が取ります」
俺は感極まって涙を流してしまった。心の中で優しい医師の言葉に感謝した。
医師に案内されて、ICUに入室する。
彼女は薄目を開けてすぅ、すぅ、と息をしていた。酸素マスクを付けている。
「希美。頑張ったね」
俺の声に気付いた希美が、目を見開いて酸素マスクを外した。そして泪を流しながら謝ってきた。
「ごめんなさい。赤ちゃんが二三〇〇グラムしかなくて、抗がん剤治療による発育障害らしくて。いまNIUC(小児集中治療室)にいるの。元気な赤ちゃんを産んであげられなくてごめんなさい」
俺は彼女の手を握った。
「大丈夫だよ。たとえ人より小さくても、腹いっぱい飯食べさすからさ。それより、性別は?」
彼女は涙をぬぐって、にんまりと笑った。「可愛い女の子だよ」
「そうかあ」
「将来、パパと結婚したいとか言うのかな」
彼女がだんだんと息が切れ切れになってくる。
「言ってほしいな。でも、そんなこと言ってくれるうちは安心だよ。変な男と結婚してほしくないからさ」
「もう、はあ、はあ。親バカなんだから」
そしたら彼女は瞼を閉じた。過呼吸になりながら、最期に、「ありがとう。私と出会ってくれて。あのゲーム、泣いちゃった……」と言った。
医師が駆け足でこの場に来た。SPO2と血圧を測りながら、そして次に瞳孔の確認をして、死亡時刻を告げた。




