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妹を救うためにエロゲーを作ります。  作者: 彼方夢


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12/21

胸は控えめ


 1


「旅行? こんなときに?」

 橘幸助は、教室の窓側にもたれかかってコーヒー牛乳を飲みながら目を剝いていた。それを俺は見ながら、そんなオーバーリアクション、取らなくても、と思っていた。

 今日は夏休みの補習だ。本当は俺は休みたかったのだが、父親の目も光っているので、参加せざるを得なかった。

「いいか、俺たちは受験生だ。何度も言ってるようにお前には将来があるし、ゲームだけがすべてじゃない。それに、秋月さんも受験がある。少しは遠慮というものをだな——」

「はいはい。分かってるって。飼い主のことは飼い犬が一番分かってるから」

 そしたら橘が俺の胸ぐらを掴んでくる。

「……悪い……」

「もういいよ」

 橘はそう言い残して教室の前方へと向かっていった。

「くそっ、何なんだよ。受験生だとか……将来だとか」

 妹の眞衣は、そんなもの全部諦めてしまっているんだよ。なのに、俺だけ大学や専門学校に入校して、安全圏でゲームを制作したものを眞衣にやらせて、なんのメッセージが伝えられるんだよ。

 気分を変えるために窓を開けた。じりじりと蝉の鳴く声が聞こえる。熱波が顔を撫でる。もう夏だ。

「ねえ、ワンコ君——」

「えっ」

 俺は、唐突に声を掛けられて(もう自分のことを犬だと認知しているのは、残念なことだが)振り向いた。

「明日、一緒に海水浴に行かない?」

「あっ、だったら和歌山県にロケハンに行かないか? 大竹や水穂さんを誘って」

 俺がそう言うと、海水浴に行かない? と言ってきた秋月が唇を尖らせて拗ねるアピールをした。それがどこか可愛らしかった。

 すると、彼女は人差し指で俺の胸にハートを描いた。「本当は、二人きりでデートのつもりだったんだけどな」

「そう、そんな……マジっすか」

 そしたら意地悪な笑みを浮かべて、「バーカ、ワンコの散歩のつもりだっただけよ」なんて言ってくる。

「俺は、いったいいつになったら人間になれるんだ?」

「そうねえ……」

 そして、彼女は満面の笑みを見せた。

「妹さんをゲームで泣かせたら、じゃない?」

 俺はその言葉を聞いて、心から安堵した。まだ俺の生き方に賛同してくれる人がいるんんだ。

 たとえ、その選択が間違っていたとしても。

 妹のためだったら、人生なんて詰んでもいいから、妹をただただ救いたいんだ。

 その覚悟を認めてくれる人がいてくれることが、今の俺にはとても嬉しかった。


 2

 

 ロケハンという名の、旅行が八月三日に訪れた。

 俺は、いま欲情という性欲と格闘している。

 ……そのわけは——。

「うっ、はあ、はあ、んっ」

 こんなにも喘いでいるのは、秋月だ。現在、海水浴に来ていて秋月の背中に日焼け止めを塗っているのだが、例によって彼女は体に触れられるのが弱い。

 そして、俺も股間が痛い。

「はあ、ありがとっ。じゃあ泳いでくるわね」

「ああ。行ってこい」

 彼女は豊満な胸を揺らしながら海に入っていった。

 すると肩を小突かれた。振り返ると顔を真っ赤にしている大竹がいた。

「えっ? どうした?」

「菜穂ちゃんの肌に触れて、嬉しがってるんじゃないわよ」

 俺の恋人が、ぷんすかと怒っている。

 両手を合わせて俺は謝った。もう勃起は収まった。

「ごめん。ごめん」

 そしたら大竹は俺が座っていたレジャーシートの上に座って、持っていたカゴの中からサンドウィッチを取り出した。

「ありがとう」

 サンドウィッチを齧ると、マヨネーズの酸味とマスタードの辛みが舌を転がった。美味い。咀嚼していると彼女は羽織っていたパーカーを脱いだ。胸は控えめだ。もう一度言う。胸は控えめだった。

「今、失礼なこと考えていたでしょ」

「い、いやあ……」

「胸が小さいなあ、とか。ごめんなさいね、菜穂ちゃんのほうが大きいもんね」

「いや、違うんだ。俺は尻とタッパのでかい女が好きなんだ」

「どっちとも私とは違うじゃない。このアホ‼」

 ふん、とそっぽを向く大竹。俺はその様子もどこか可愛くて笑った。

「なに笑ってるのよ」

「いや、可愛いなって思ってさ。さすが俺の恋人だ」

 すると大竹の顔が真っ赤になった。「ば、馬鹿にしてんじゃないわよ……うう、本当に思ってる?」

「ああ。最高の恋人だあ」

「ああ‼ 菜穂ちゃんが‼」

「えっ、どうした」

 突然、大竹が海のほうに指差した。秋月が溺れているのかと、視線を海へと移すと頬に違和感が起こった。やわらかい感触が触れてきたのだ。その数秒後、俺はキスをされたのだと感じた。彼女のほうを見ると、照れながら上目遣いで、「ファーストキス、どう?」と訊ねてきた。いや、どうと言われても……困るんだが……。

「いや、その、俺もこういうの初めてだったから……」

 俺も照れてしまって彼女のほうから目線を逸らしてしまった。

 ぎこちない空気が流れる。

「ふたりとも、なにしてんの?」

 自販機でジュースを購入してきていた、水穂が様子を窺ってきた。

「いや、別になあ。ねえ、大竹」

「そ、そうだねえ。俊くん」

 すると穿った目で「本当にい?」と訊ねてきた。

「まあ、別にキスしようが“裸見せ合おうが"どっちでもいいんだけどね」

「えっ、それはキモイ」

「……」

 沈黙が、少しのあいだ場を占領した。


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