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痴女

 俺と妹の眞衣は大のギャルゲー好きだった。

 中でも「Spins」というゲーム会社の、感動系ノベルゲームの開発部署であり業界の金字塔、「NEXT」から生み出されたゲームをこよなく愛し、沢山遊んだ。

 いつも同じところで一緒に泣き、いつも同じところで一緒に笑う。

 それから俺が高校一年生。眞衣が中学三年生のとき、事件が起こった。

 眞衣は友人にギャルゲーが好きだと言うと、そのときその友人から「それオタクのゲームでしょ? 眞衣ちゃんってそういうのやるんだ。なんかキモいね」

 翌日から眞衣は学校で「キモいオタク」として虐められるようになった。

 そして段々と不登校になっていく。

 今では自室から出てこない。

 俺は思う。また前みたいに一緒にギャルゲーをやりたい、と。

 だが今の眞衣はギャルゲーにトラウマを持っているのではないか。

 それから、どうやったら眞衣を立ち直らせることが出来るのだろう。

 そんなことを考えながら、パソコンでNEXT公式サイトを見ていたらある欄に目を奪われた。


「自作PCゲーム募集。賞金一千万円。締め切り、来年三月まで」


 俺はすぐに部屋の本棚にあるプログラミングの専門書を手に取った。これは以前から百回近く読み込んで、プログラミングを練習しまくった。

 はっきりとC++言語を覚えている。英語で羅列された文章を見てはそう思う。

 俺はそのとき、自分の腹のなかで熱意を感じた。

 もしかしたら、俺の作ったギャルゲーなら眞衣も喜んでくれるのかもしれない。

 まだ不安要素はあるが、やってみる価値はある。

 カレンダーを見る。今は五月の始め。

 今から制作してなんとか間に合うだろうか。

 しかし二つ問題がある。シナリオと絵が描ける者がいないということだ。そもそも俺はシナリオを作れないし、絵も描けない。



 まず、俺はシナリオライターを探すことにした。(ツイッター)で募集しても詐偽かなんかだと思われて相手にしてもらえない。作家のDMに相談を持ち掛けても無視される。そんな状態だった。


 ◇


 市立蒼ヶ峯高校。俺は教室で友人の橘 幸助と談笑していた。

 彼とは小学校からの幼馴染。特徴を一つ挙げるのなら無類の漫画好きだ。

「ギャルゲーを作りたいって?」

「ああ、そうなんだよ」

 橘は顎に手をやって、「それ、今やることか?」と眉間に皺を寄せた。

「どういうことだよ」

「俺らが今やるべきことって、生産性のオタクとしてゲームを作るんじゃなくて、受験勉強だろ。そりゃあ俺だってお前が作ったゲームやりたいと思っている。でも今じゃない。大学時代や、そしてもしお前がSpinsに入社した時だって嫌になるほどゲームを作れるだろ。だからまずはさ――」

「そうだよな。分かっている。受験も大切だ。でもいまはゲームを作りたい。理由はちゃんとあるんだ」

 それを伝えると、橘は複雑な表情を見せた。

「なんだよその理由って? 受験よりも大切な理由なんてあるのかよ」

「……眞衣の話はしたことあるよな?」

「――まさか、眞衣ちゃんのためにギャルゲーを作るのか?」

「ああ」

「いいか。ギャルゲーは短いものでも制作に八カ月以上はかかる。たとえお前が大学に行かないという選択肢を取ったとしても、就活だってある。現実的に考えて無茶だ」

 俺は返す言葉を失った。つくづく、お前は夢見がちだということを突き付けられた。

 だが、橘は溜息を吐いて俺の肩を叩く。

「まあ、結局はお前自身の選択だ。無理やり止めはしない。でもな、現実はしっかり考えろよ。あと――」

 それから彼は笑ってくれた。

「もし完成したら俺にも遊ばせてくれ」

「ありがとう。嬉しいよ」

 その後、俺はギャルゲーを作るうえでの問題を告白した。

「実は、シナリオライターと絵師がいないんだ」

 腕を組んで橘が唸った。

「おいおい、よくそんな状態でよくゲームを作ろうと思ったよな。まあ、シナリオ書ける人なら伝手がある」

 俺は食い気味に彼に問いかけた。

「まじかよ⁉」

「まあ落ち着けって。そいつは去年作文で文部科学大臣賞を取ったほどの実力だ・・・・・・あっでも、やっぱりやめとけ」

「なんで?」


「そいつ、痴女だから」


 ・・・・・・は?



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