表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/279

第99話 ユリアン皇帝、サロンにバーカウンターを作ってしまう ふふっ、貴殿も飲んでいくか?(シャカシャカシャカ)

【ユリアン皇帝視点】


『アヴァロン帝国歴163年 11月15日 夜』


 ハーグの田舎町から帝都へと戻り、朕がまず最初に行ったこと。それは、百年以上も帝国を縛ってきた、古色蒼然たる酒造法の改正であった。


「――よって、ここに宣言する! 酒類への果汁、薬草等の混入を禁ずる項は、本日をもって、これを撤廃する!」


 評議会で、朕がそう高らかに宣言した時、居並ぶ貴族どもは、一体何事かと、ただ呆気に取られておったわ。無理もない。彼らは、あの路地裏の闇バーで、朕が味わった衝撃を知らぬのだからな。


(ククク……朕の先祖が作った悪法を、朕自らが覆す。それも、あの田舎王に教えられた味のために。実に、実に愉快ではないか)


 それからというもの、朕は、すっかり『カクテル』の魅力に取り憑かれてしまった。

 そして、ただ飲むだけでは飽き足らなくなった朕は、帝都で最高の職人たちを城へ呼びつけた。


「よいか。朕の私室であるサロンに、『バーカウンター』なるものを作るのだ。磨き上げた黒檀の一枚板に、真鍮の飾りをつけ、壁には、あらゆる酒瓶を飾れる棚を……。そう、あのハーグの薄汚い店の、百倍は豪華で、千倍は洗練されたものにせよ!」


 数週間後。朕のサロンには、世界に一つだけの、壮麗なバーカウンターが鎮座していた。

 その夜、朕は、帝国の主だった諸侯たちを、この新しいサロンへと招待した。

 集まったのは、武骨な軍人上がりのイェーガー伯爵、常に流行を追い求める軟弱者のエーデルシュタイン伯爵、そして、帝都の社交界を牛耳るヴァイスハイト伯爵夫人といった、一癖も二癖もある連中だ。


「さあ、皆の者、よく来た。今宵は、朕が直々に、新しい帝国の味を振る舞ってやろう」


 朕は、特注の白い上着を羽織ると、カウンターの内側に立った。そして、黄金のシェイカーを手に取り、華麗な手つきで、それを振ってみせる。

 シャカシャカシャカ、と小気味良い音が響き渡り、やがて、美しくカットされたグラスに、ルビーのような色合いの液体が注がれる。


「これは、朕が考案した『レッドドラゴンズ・ティア』。まあ、飲んでみるがよい」


 諸侯たちは、恐る恐る、しかし好奇心に満ちた目で、そのグラスを手に取った。

 そして、一口、口に含んだ瞬間、彼らの顔が、驚愕に染まった。


「おお……! なんという、芳醇な香り!」

「甘く、しかし、すっきりとしている! このような酒は、生まれて初めてですぞ、陛下!」

「まあ、素敵! このヴァイスハイト、完全に虜になってしまいましたわ!」


 その日から、帝都の貴族社会の夜は、様変わりした。

 珈琲と砂糖に続き、今度は『カクテル』が、貴族たちの間で、最先端の流行となったのだ。

 誰もが、自らの屋敷にバーカウンターを作り、夜な夜なカクテルパーティーを開いては、自らが考案したカクテルの味を競い合っているらしい。

 当然、新大陸から輸入される果物や、良質な蒸留酒の値段は、天文学的なレベルで高騰している。西のヴェネディクト侯爵あたりは、また笑いが止まらぬことだろう。


 朕は、自室のサロンで、完璧に作り上げた一杯のカクテルを、静かに味わっていた。


(あのライルとかいう男……。奴は、ただそこにいるだけで、朕の退屈な帝国に、次々と新しい流行と、莫大な富をもたらす。実に、面白い駒よ)


 次は、一体、何を見せてくれるのか。

 朕は、グラスの向こうに見える、帝都の夜景を眺めながら、不敵な笑みを、一人、浮かべていた。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ