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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第93話 流れ作業の王様

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴163年 10月24日 昼 快晴』


 アシュレイに連れられて、僕たちが最初に案内されたのは、ハーグの街のはずれに建てられた、巨大なレンガ造りの建物だった。中からは、規則正しい機械の音と、人々の活気が伝わってくる。


「さあ、皆さん。我がヴィンターグリュン王国の力の源泉、その一端をお見せするっス。ここは、我が国が誇る缶詰工場。陛下たちに、その内部を公開するのは、これが初めてっスよ」


 アシュレイが、得意げに胸を張って扉を開ける。

 中に広がっていたのは、皇帝陛下も、二人の侯爵様も、見たことがないであろう、異様な光景だった。

 何十人という作業員たちが、蒸気機関で動く長い『ベルトコンベア』という装置の前に立ち、黙々と、しかし無駄のない動きで作業を続けている。

 一方の端で、ブリキの板が筒状に成形され、そこに、厨房から運ばれてきた熱々のシチューが注ぎ込まれる。そして、蓋がされ、半田で完全に密閉された後、ベルトコンベアに乗って、ゆっくりと巨大な加熱釜の中へと運ばれていく。


「うちの国は、この工場ができたおかげで、仕事がない人がいなくなったんだ。みんな、ここで一生懸命働いて、家族を養ってるんだよ」


 僕は、少しだけ自慢げにそう言った。

 ユリアン皇帝は、腕を組んで、その光景を、興味深そうに眺めていた。


「ほう……流れ作業、か。実に合理的だ。一人一人の役割を単純化し、全体の生産性を極限まで高める。なるほど、あの膨大な量の缶詰は、こうして作られていたというわけか」


 ランベール侯爵も、感心したように頷いている。


「食料を、鉄の器に詰めて、兵站として……。これほどの量を安定して生産できる秘密が、この仕組みにあったとはな。見事なものだ」


 その時、ヴェネディクト侯爵が、はっとしたように僕たちの方を振り向いた。


「……ということは、まさか。あの恐るべき新型銃も、同じように……?」


「正解っす」


 アシュレイが、にやりと、悪戯っぽく笑った。


「銃も、専門の工場で作られてるっスよ。もちろん、我が国のトップシークレットっスからね。もし、このことを他言したら……ライルに頼んで、この工場から出来立ての銃を直送して、お城ごと攻撃するっスよ?」


 彼女は、軽い冗談のつもりで言ったのだろう。だが、皇帝と二人の侯爵は、その言葉に、さっと顔を青ざめさせていた。


 次に案内された銃の工場は、缶詰工場よりも、さらに洗練された、静かで、しかし冷徹な空気に満ちていた。

 そこでは、一人の職人が、一つの銃を、最初から最後まで作る、というようなことは行われていない。工場は、いくつもの区画に分かれていて、それぞれの場所で、ただ一つの部品だけが、専門的に、そして大量に作られていた。


 ある場所では、職人たちが、ひたすらに銃身だけを削り出している。隣の区画では、別の職人たちが、銃の木製部分、『銃床』だけを、寸分の狂いもなく同じ形に仕上げていく。引き金を作る者、ボルトを作る者……。アシュレイが設計した、特別な道具と物差しを使うことで、全ての部品が、完全に同じ規格で、寸分の狂いもなく生産されていくんだ。


 そして、それらの部品は、最後に『組立ライン』と呼ばれる、一番大きな部屋へと集められる。

 そこでは、作業員たちが、ベルトコンベアで流れてくる銃に、ただ、決められた部品を、決められた手順で、取り付けていくだけ。

 一人が銃床に銃身を取り付け、次の者が引き金の機構をはめ込み、また次の者がボルトを組み込む……。まるで、子供が玩具を組み立てるように。

 そして、ラインの終わりから、一分に数丁という、信じられない速さで、完成したばかりの新型ライフル銃が、次々と生み出されていく。


 その光景に、ユリアン皇帝も、ランベール侯爵も、ヴェネディクト侯爵も、完全に言葉を失っていた。

 彼らが見ていたのは、ただの武器工場ではない。伝統的な職人の技を、完全に凌駕する、圧倒的な『工業力』という、新しい時代の力の形そのものだったのだ。


 その日は、一同、言葉少なめに、僕たちが用意したハーグの城の客室で、夜を過ごすことになった。

 彼らの頭の中では、今日見た光景が、これからの帝国の、いや、この世界の在り方そのものを、根底から揺るがすであろうという、恐ろしい予感となって、渦巻いていたに違いない。

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