表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/279

第91話 侯爵様と新型銃 だから、僕のじゃないんだってば!

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴163年 10月20日 昼』


 またしても、帝都フェルグラント。

 ユリアン皇帝陛下からの、有無を言わせぬ召喚状。僕は、ヴァレリアと、数人の護衛だけを連れて、うんざりした気分で、壮麗な宮殿の廊下を歩いていた。


(今度は、いったい何の用事なんだろうなあ……)


 玉座の間に通されると、皇帝は、いつになく上機嫌な様子で僕たちを迎えた。その周りには、帝国の重鎮たちがずらりと並んでいる。


「おお、ライルよ! よくぞ参った! 先の東方動乱、まことに見事な戦いぶりであった!」


 皇帝は、高らかにそう言うと、一枚の羊皮紙を広げた。


「よって、その武功を讃え、其方をこれより『ヴィンターグリュン侯爵』とする! さらに、褒賞として、東方の港町アイゼンポルトを、そなたに与えるものとする!」


 その言葉に、周りの貴族たちから「おお……!」「侯爵位、並びに港町とは、破格の恩賞!」という、驚嘆と、いくばくかの嫉妬が混じった声が上がる。

 だけど、僕の心は、少しも晴れなかった。この皇帝陛下が、ただで、こんなに素晴らしいものをくれるはずがない。


「わあ、すごい! ありがとうございます、陛下!」


 僕は、にこやかに、満面の笑みを作って見せた。そして、わざとらしく、首をこてんと傾げる。


「……で、陛下。この、とーっても素晴らしい褒美と引き換えに、僕に何をさせたいんですか? どうせ、何か、僕にしてほしいことがあるんでしょ?」


 僕の、あまりにひねくれた返事に、玉座の間が、しんと静まり返った。ヴァレリアが、背後で深いため息をつくのが聞こえる。

 だが、皇帝は、そんな僕の態度を、実に楽しそうに、声を上げて笑い飛ばした。


「ククク……はっはっは! 面白い! 少しは物事の裏を読めるようになったではないか、田舎王よ! ああ、そうだ! 話が早くて助かる!」


 皇帝は、すっと笑みを消すと、本題を切り出した。


「お前の妻が、また新しい玩具を作ったそうだな。先の戦で見せた我がホワイトコート兵を出し抜くために用意していたという『新型の銃』。それをこの朕に見せてみよ」


(……やっぱり)


 僕は「あれは、妻の大事な発明品なので、僕の一存では……」と、言葉を濁そうとした。だが、皇帝は「見るだけだ。ケチなことを言うな」と、僕の肩を叩き、有無を言わさず、僕たちを城の練兵場へと連れて行った。


 僕は、しぶしぶ、供の者に運ばせていた木箱から、アシュレイが心血を注いで作り上げた、最新式のライフル銃を取り出した。

 皇帝は、その黒光りする銃身を、まるで恋人でも見るかのような、ねっとりとした視線で眺めている。


「ふむ……。美しいフォルムだ。だが、性能はどうか。……ライル、撃ってみせよ」


 僕は、ため息を一つついて、銃を構えた。

 ボルトを引き、弾丸を装填する。その、機械的で、小気味いい金属音。肩に銃床を当て、遥か二百歩先に置かれた、鋼鉄の的を狙う。

 そして、引き金を引いた。


 ズッバーン!


 鋭く、腹の底に響く轟音と共に、僕の肩を、強い衝撃が襲う。

 次の瞬間、遥か先の鋼鉄の的が、まるで紙くずのように、いとも容易く、中央を貫かれていた。


(……しまったな。見せすぎたかもしれない……)


 僕が、ちらりと横目で皇帝の様子をうかがう。

 彼は、言葉を失い、ただ、呆然と、煙を上げる的の残骸を見つめたまま、立ち尽くしていた。

 やがて、我に返った皇帝は、子供が新しいおもちゃを欲しがるように、目を爛々と輝かせて、僕に詰め寄ってきた。


「売れ! ライル、その銃を、朕に売れ!」


「ええっ!?」


「金ならいくらでも出す! 言い値で買おう! さあ、何丁差し出す!?」


 あまりの剣幕に、僕は思わず後ずさった。


「い、いや、これはその、まだ試作品でして……! それに、妻のアシュレイに相談しないと、僕だけじゃ決められないっていうか……!」


 僕が必死で言い訳を並べても、皇帝は「明日! 明日、もう一度話を聞く! それまで、この城から一歩も出ることは許さん!」と、聞く耳を持たない。


 その夜。

 僕は、あてがわれた、やけに豪華な客室のベッドの上で、深いため息をついた。

 これからどうやって、このしつこくて、面倒くさい皇帝陛下から、逃げ出そうか。

 僕の、長い夜が、始まろうとしていた。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ