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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第80話 盤上の遊戯と白き駒

【ユリアン皇帝視点】


『アヴァロン帝国歴163年 4月10日 昼 快晴』


 帝都フェルグラント。その心臓部たる我が執務室の巨大な地図盤の上で、青い駒と赤い駒が、今まさに激突せんとしていた。

 青は、あの農民上がりの王、ライルが率いるヴィンターグリュン軍。赤は、伝統と秩序の番人を自称する、ダリウス公爵率いる東方貴族連合軍。


「陛下! 今こそ、ご決断を! このままでは、帝国は二つに裂かれ、取り返しのつかぬ内乱となりましょうぞ!」


 目の前で、老いた宰相が、涙ながらにそう訴える。

 朕は、そんな老人の繰り言を、退屈そうに聞き流した。裂かれる? 違うな。これは、古く、動きの鈍くなった帝国の古い血を、一度、全て抜き去るための、最高の機会なのだ。


 朕は、玉座からゆっくりと立ち上がると、集まった諸侯たちへ向けて、厳かに宣言した。


「静まれ! 此度の戦は、私闘にあらず! これは、帝国の未来の形を占う、神聖なる代理戦争である!」


 我が言葉に、評議会室が水を打ったように静まり返る。


「伝統か、革新か。血筋か、実力か。騎士の剣か、農民の銃か。どちらが、これからの帝国を担うに相応しいのか、天に問う時が来たのだ! よって、朕は、ここに『中立』を宣言する! この戦の勝者こそが、天に選ばれし、真の帝国の礎となるであろう!」


 朕は、さも苦渋の決断を下したかのように、悲痛な表情を作ってみせた。その実、心の底では、これから始まる最高の娯楽に、胸が躍っていたがな。


 諸侯を下がらせた後、朕は私室に、二人の密使を呼んだ。


「お前は、東のダリウス公の元へ行け。『皇帝は、古き伝統を重んじている』と伝えよ。そして、これを。戦の足しにはなるであろう」


 朕は、ささやかな金貨の袋を投げ渡した。死なぬ程度に、しかし、簡単には勝てぬように。戦は、長引くほど面白い。


「そして、お前は北のライル王の元へ。『友情は変わらぬ』とだけ伝えよ。決して、手を貸すな。あの男が、己の力だけで、どこまでやれるのか。それが見たい」


 二人の密使が、影の中へと消えていく。

 さて、両陣営への手配は済んだ。だが、朕の本当の切り札は、別にある。


 朕は、誰にも告げず、城の地下深くへと続く、隠された階段を降りていった。

 そこに広がっているのは、帝国の誰も、その存在を知らぬ、広大な地下練兵場。そして、純白の軍服に身を包んだ、千人の兵士たちの姿があった。

 彼らこそ、朕が、ライルから譲り受けた銃と大砲の技術を、帝国の最高の職人たちに研究させ、作り上げさせた、朕だけの秘匿部隊……『ホワイトコート歩兵』。


 彼らが持つ銃は、ライルのものより、射程も、精度も、わずかに上回るように改良してある。彼らは、騎士でも、農民でもない。ただ、朕の命令のみに、忠実に従う、感情のない白い駒だ。


「陛下。我が『ホワイトコート』は、いつでも出撃の準備が整っております」


 部隊長が、無表情のまま、ひざまずく。


「うむ。だが、まだだ。お前たちの出番は、まだ早い」


 朕は、満足げに頷いた。


「青い駒と、赤い駒が、互いに血を流し、疲れ果て、盤上が静かになった頃……。その時こそ、お前たち『白き駒』が、盤上を掃除する時よ。この帝国の真の支配者が、誰であるのかを、愚かな勝者に、思い出させてやるのだ」


 執務室に戻った朕は、地図盤の上に、新たに、純白の駒を一つ、置いた。青と赤の、ちょうど真ん中に。

 そして、侍従に淹れさせた、砂糖入りの珈琲を一口、優雅にすする。


(さあ、ライルよ。ダリウスよ。せいぜい、朕を楽しませてくれるがよい)


 盤上の遊戯の幕は、今、静かに上がった。

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