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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第77話 帝都の駆け引きと見えない刃

【ダリウス公爵視点】


『アヴァロン帝国歴162年 12月10日 昼 曇天』


 帝都フェルグラント。その心臓部である帝城の評議会室は、外面の華やかさとは裏腹に、今日も冷たい緊張感に満ちていた。磨き上げられた黒曜石の円卓を、帝国の運命を左右する権力者たちが囲んでいる。そして、その一角には、あの農民上がりの成り上がり……ヴィンターグリュン王ライルが、選帝侯として、さも当然という顔で座っている。


(……忌々しい)


 我は、内心の苛立ちを押し殺し、ゆっくりと席を立った。今日のこの日のために、東方の諸侯たちと、どれだけの根回しをしてきたことか。戦場で剣を交えるだけが、戦ではない。政治という、より狡猾で、血の匂いのしない戦場で、あの小僧の息の根を止めてくれるわ。


「陛下、並びに選帝侯各位。本日は、帝国の未来を揺るがしかねない、二つの重大な問題について、提言させていただきたく存じます」


 我が厳かな声に、評議会室が静まり返る。玉座に座すユリアン皇帝陛下は、面白そうに頬杖をつき、我に先を促した。


「まず一つ目。かの新大陸からもたらされた、珈琲、砂糖といった産物の、無秩序な流通について、でございます。これらが、一部の商人と、北方の地のみに莫大な富をもたらし、帝国の古き良き経済秩序を、根底から破壊しつつあるは、皆様もご承知の通り。これは、帝国の富の、不当な流出に他なりません!」


 我は、あくまで国家を憂う忠臣として、声を張り上げた。


「よって、ここに提言いたします! これら『伝統的ではない産物』に対し、高い関税を課すべきである、と! これは、我が国の経済基盤である、荘園と、そこで採れる穀物を守るための、断固たる措置にございます!」


(ククク……。これで、あの小僧の資金源は、大きく削がれるはずだ)


 我が言葉に、ヴェネディクト侯爵をはじめとする、交易で富を得る者たちが、ざわめき始める。だが、我は構わずに、本題である二つ目の提言を続けた。


「そして、より深刻なる問題は、軍事! 帝国の栄光は、我ら高貴なる騎士の武威によってこそ、保たれてきた! しかるに、昨今、農民や素性の知れぬ傭兵に、騎士の鎧すら容易く貫くという、忌まわしき鉄の棒……『銃』を持たせ、軍を組織する動きが見られます。これは、帝国の身分制度を根底から覆し、いずれ大きな内乱の火種となりかねぬ、極めて危険な兆候!」


 我は、評議会の全員を、射抜くような視線で見回した。


「よって、ここに『帝国軍制改革法案』を提出いたします! 貴族が率いる騎士団以外の、平民による私兵団の規模を、厳しく制限するものでございます! 帝国の秩序と安寧は、かくして守られるべきである!」


(これで、あの『青い亡霊(ブルーゴースト)』どもは、骨抜きになる)


 我が真の狙いは、これだ。あの、騎士の誇りを踏みにじる、忌まわしき農民兵団の解体。

 評議会は、賛成と反対の意見で、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

 その時、これまで黙って成り行きを見守っていた、ヴァレリア嬢の父君、ランベール侯爵が、重々しく口を開いた。


「ダリウス公のご懸念、理解できぬでもない。しかし、私はこの目で、かのブルーコート兵たちの力を見た。その規律、その火力は、まこと、帝国の新たな力となりうるもの。伝統に固執するあまり、その力を自ら削ぐは、愚策とは言えませぬかな」


 ランベール侯の、予想外の援護射撃。我が眉間に、深い皺が刻まれる。


 議論が紛糾し、まさに決裂せんとした、その時だった。

 玉座で、退屈そうに全てを眺めていた皇帝陛下が、パン、と一度、手を叩いた。


「面白い! 実に、面白いぞ! 帝国の未来を想う、諸君らの熱意、しかと受け取った! だが、これは急いで決めるべき問題ではあるまい」


 皇帝は、にやりと、悪魔のように笑った。


「よって、この二つの法案の採決は、次回の評議会まで、持ち越しとする! それまでに、互いに派閥を広げ、存分に駆け引きを行うがよい! 朕は、その全てを、楽しませてもらうとしよう!」


(……おのれ、陛下め)


 皇帝は、我らを盤上の駒として、この政争そのものを、楽しんでおられるのだ。

 評議会が終わり、我は苦々しい表情で席を立った。ふと、廊下の向こうを見ると、ライルが、ヴァレリアや、ビアンカとかいう女商人に囲まれ、何やら難しい顔で説明を受けている。その姿は、自らの運命が決められようとしていることなど、まるで理解していない、ただの迷子の子供のようだった。


(……あの男。自らが、いかなる嵐の中心にいるのか、まるでわかっておらん。だからこそ、危険なのだ)


 我は、固く拳を握りしめた。

 この見えない戦、必ずや、勝利してくれる。帝国の、そして、我ら貴族の栄光のために。

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