表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/279

第65話 賠償金? ううん、それよりお友達になって交易しようよ!

【ライル視点】


『太陽暦 999年 2月16日 朝 快晴』


 女皇帝シトラリが、僕たちの前でひざまずいた翌朝。アカツキの都の、かつて神官長が使っていた部屋は、アズトラン帝国の運命を決める、重要な会議の場となっていた。

 僕とヴァレリア、ユーディルが席に着くと、その向かいには、女皇帝シトラリと、その側近である老神官たちが、緊張した面持ちで座っていた。


「ライル王。昨日の申し出、真にございますな? 我らアズトランの民を、慈悲深き女神の教えに、お導きくださると」


 シトラリの言葉に、僕はこくりと頷いた。

 すると、隣に座っていたヴァレリアが、咳払いを一つして、本題を切り出した。


「シトラリ陛下。両国の新たな関係を築くにあたり、まずは、此度の戦の、事後処理について、明確にしておく必要がございます。敗者である貴国には、相応の賠償と、我らへの服従を明確に示す条約への署名を……」


「お待ちください、ヴァレリア殿」


 今度は、ユーディルが静かに口を挟んだ。


「賠償金や領土の割譲も結構。ですが、このアズトラン帝国そのものを、我がヴィンターグリュン王国の属国として、完全に支配下に置くことこそが、最も国益にかなうかと」


 二人の意見は、戦の勝者としては、ごく当たり前のものだろう。シトラリも、その言葉を、敗者として、ただ静かに受け入れる覚悟を決めているようだった。彼女は、静かに口を開く。


「……ええ。貴方がたの言う通りです。この国の富、黄金、宝石、そして民……。望むものは、全て差し出しましょう。それが、我らを偽りの信仰から解放してくださった、貴方がたへの、せめてもの償いです」


 重苦しい空気が、部屋を支配する。誰もが、僕の決断を待っていた。

 僕は、皆の難しい話を、うーん、と腕を組んで聞いていた。そして、いつものように、思ったことを、そのまま口にした。


「うーん、賠償金とか、領地とか、そういうのは、別にいらないなあ」


 僕の一言に、その場にいた全員が、ぽかんとした顔で僕を見た。


「だって、もう戦いは終わったんだし、僕たち、友達みたいなものでしょ? 友達から、お金とか土地とか、取り上げたりしないよ」


「ら、ライル様!?」


 ヴァレリアが、慌てて何かを言おうとするのを、僕は手で制した。


「そのかわり、僕からお願いがあるんだ」


 僕は、シトラリの方をまっすぐに見つめて、にこりと笑った。


「君たちの国が作る、あの綺麗な石の神殿、すごいよね! あの石を積み上げる技術、僕の国にも教えてくれないかな? それから、この大陸にしかない、珍しい作物とか、動物とかも、たくさん見てみたいんだ。僕たちの国のポテトや豚さんと、交換こしようよ!」


 支配でも、賠償でもない。僕が求めたのは、ただ、お互いの国の良いところを教え合う、対等な「文化交流」だった。

 僕のあまりに突拍子もない提案に、シトラリは、しばらく呆気に取られていた。だが、やがて、その瞳に、深い、深い感銘の色が浮かぶのがわかった。


「……王よ。貴方様は……我らが全てを差し出しても足りぬほどの、寛大なお方。我らを、力でねじ伏せるのではなく、友として、手を取ってくださるというのですか」


「うん。だって、その方が、絶対楽しいじゃない?」


 僕が屈託なく笑うと、シトラリの目から、再び、一筋の涙がこぼれ落ちた。だが、それは昨日の絶望の涙とは違う、温かい、感謝の涙に見えた。


「……喜んで。このシトラリ、そしてアズトラン帝国の全てを、喜んで、貴方様と分かち合いましょう」


 こうして、僕の国とアズトラン帝国との間に、「ヴィンターグリュン・アズトラン永久友好条約」という、歴史的な条約が結ばれることになった。

 その日の夜。シトラリが、一人で僕の部屋を訪ねてきた。


「王よ。友好の証として……そして、妾個人の、心からの感謝の印として」


 彼女は、その場で静かにひざまずくと、頬をほんのりと染めながら、僕を見上げた。


「この身を、貴方様に捧げることを、お許しいただけますでしょうか」


(えええええええっ!?)


 またしても、だ。僕の周りには、どうしてこう、力強くて、まっすぐな女性ばかりが集まってくるのだろう。

 僕の意図とはまったく関係なく、僕の国は、この新大陸の巨大な帝国と、固い絆で結ばれることになった。


 その絆が、やがて世界そのものを、大きく変えていくことになるなんて。

 この時の僕は、まだ、知る由もなかった。


「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ