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投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第55話 世界の果てからの便り 新大陸と新たな戦いの足音

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴162年 9月15日 昼 快晴』


 穏やかな秋の日差しが、ヴィンターグリュン王国の畑を黄金色に染めていた。

 僕は、執務室の窓からその光景を眺めていた。城の中庭では、少し大きくなったレオとフェリクスが、侍女たちに見守られながら、覚束ない足取りで追いかけっこをしている。アウロラは、アシュレイの腕の中ですやすやと寝息を立てていた。


(平和だなあ……)


 トマトソースをたっぷり使った新しい麺料理はすっかり城の定番になったし、ゲオルグさんが作る豆腐の味も日に日に向上している。この平和が、ずっと続けばいい。僕は、心からそう願っていた。

 そんな、まどろむような昼下がりの静寂を破ったのは、城門の外から聞こえてきた、地鳴りのような歓声だった。


「どうしたんだ、外が騒がしいな」


 僕が首を傾げていると、ヴァレリアが息を切らした伝令兵を伴って、執務室へと飛び込んできた。彼女の翠色の瞳が、驚きと興奮で見開かれている。


「ライル様! 西の港町フィオラヴァンテより、緊急の報せにございます! 探検家のマルコ・フォン・ブラント様が……! 数年にわたる航海を終え、たった今、帰還なされたとのことです!」


 その名を聞いた瞬間、僕の心臓が大きく跳ね上がった。マルコさん。僕が支援した、あの世界一周を目指した探検家だ。てっきり、もう海の藻屑にでもなったと……いや、信じていたけど、本当に帰ってきてくれるなんて!


「すごい! すごいじゃないか、ヴァレリア!」


 数日後。首都ハーグは、英雄の凱旋を祝う、お祭り騒ぎに包まれていた。

 日に焼けて、精悍な顔つきになったマルコさんが、たくましい船乗りたちを率いて、僕の前に進み出た。彼は、深く、深く、頭を下げる。


「ライル陛下。ただいま、戻りました。貴方様の寛大なるご支援なくしては、この偉業は成し得ませんでした。心より、感謝申し上げます」


「ううん、僕の方こそ、ありがとう! 無事で、本当によかった!」


 僕たちは、固い握手を交わした。

 マルコさんは、約束通り、僕に世界中から集めてきたという、とてつもない量の『お土産』を献上してくれた。


「これは、飲めば頭が冴え渡り、たちまち元気になるといわれる、魔法の豆にございます」


 差し出された袋の中には、焦げ茶色に煎られた、香ばしい香りの豆がぎっしりと詰まっていた。コーヒー豆、というらしい。


「そしてこちらが、葦のような見た目ですが、茎を絞れば蜜のように甘い汁が取れるという、奇跡の植物です」


 サトウキビと名付けられたその植物に、厨房の女性陣が歓声を上げる。


「さらに、これは『神々の食べ物』と呼ばれる、黒く硬い実……」


 次々と披露される未知の作物に、アシュレイやゲオルグさんは、目を爛々と輝かせ、まるで子供のようにはしゃいでいた。


 その夜、歓迎の宴が終わった後。マルコさんは、僕とヴァレリア、ユーディルといった、国の重鎮だけを執務室に集めた。その表情から、昼間の快活さは消え、深い憂いが浮かんでいた。


「陛下……。旅の報告は、楽しい話だけでは終わりません」


 彼はそう切り出すと、テーブルの上に、羊皮紙を何枚もつなぎ合わせて作られた、巨大な世界地図を広げた。そこには、僕たちの知るアヴァロン大陸が、まるで世界の片隅にある小さな島のように、小さく描かれていた。


「我々が住むこの大陸は、世界の、ほんの一部に過ぎませんでした」


 マルコさんの指が、広大な海の、さらに向こう側を指し示す。そこには、アヴァロン大陸と同じくらい……いや、それ以上に巨大な、もう一つの大陸が描かれていた。


「この先に、『アズトラン帝国』と名乗る、巨大な国家が存在します。彼らは黄金で飾られた巨大な石の神殿を築き、我々とはまったく異なる文化と、独自の文化を持っておりました」


 マルコさんは、声を潜めて続けた。


「そして陛下、最も恐るべきは……彼らが、すでに我々の存在を認知しているという事実です。私が滞在している間にも、彼らは東……つまり、こちらの大陸へ向けて、斥候の船団を何度も派遣しておりました。彼らの狙いは、征服です。彼らの神に捧げる、新たな領土と、生贄を求めて……」


 執務室に、重い沈黙が流れる。

 マルコさんは、最後に、震える声でこう告げた。


「彼らは、我々の土地を『太陽の沈まぬ帝国』の新たな領土と、そして、我々人間を、神に捧げる『供物』としか見ておりません」


 世界一周という、夢のような冒険譚が、一転して、僕たちのすぐそばに迫る、新たな戦争の始まりを告げていた。

 僕は、手元にあったコーヒー豆の、香ばしいが、どこか苦い匂いを嗅いだ。


(そっか……。この平和も、いつまでもは、続かないんだな)


 守るべき家族と、守るべき国。そのために、僕はまた、王として、戦うことになるのかもしれない。

 僕は、窓の外に広がる、平和な夜景を見つめながら、静かに、その覚悟を固めていた。

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