表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/277

第52話 ただいま、ハーグ!

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴161年 5月17日 夜』


 その晩は、妙に静かだった。

 ヴェネディクト侯爵との決闘に圧勝し、僕のいる陣営は勝利の熱気に包まれているはずなのに、僕の心は不思議なほど穏やかだった。以前、銃の訓練や実戦を経験した後のような、体の内側から突き上げてくるような昂ぶりや、喉の渇きは、どこにもない。


 ただ、少しの疲労感と、早くハーグに帰って、家族の顔が見たいという、静かな思いがあるだけだった。


(……僕も、少しは指揮官らしくなれたのかな)


 そんなことをぼんやりと考えていると、僕が一人で使う指揮官用のテントの入り口が、静かに開いた。そこに立っていたのは、鎧を脱ぎ、ラフな私服に着替えたヴァレリアだった。その翠色の瞳には、僕の身を案じるような、心配の色が浮かんでいる。


「ライル様……。お体の具合は、いかがですか」


 彼女は、いつものように、僕が昂ぶっているのではないかと心配して来てくれたのだろう。その優しさが、なんだかとても嬉しかった。


「大丈夫、今日は落ち着いているよ」


「そうですか」


 僕の言葉に、彼女は少しだけ意外そうな顔をして、安堵のため息を漏らした。その姿が、なんだか可愛らしくて、僕は少しだけ、からかってみたくなった。


「なに? してほしかった?」


「そっ、そんなこと……!」


 ヴァレリアは、顔を真っ赤にして狼狽える。そして、俯きながら、蚊の鳴くような声で、ぽつりと付け加えた。


「……すこしだけ……」


 その、あまりにも素直な一言に、僕の心は、戦の興奮とはまったく違う、温かい炎で満たされた。


「じゃ、少しだけしよっか!」


 その夜、僕たちは、激しくではなく、ただ、互いの温もりを確かめるように、普通に愛し合った。戦いの後、張り詰めていた心が、ゆっくりと解けていくようだった。


 翌朝、僕が目を覚ますと、隣ではヴァレリアが、もう身支度を整えていた。朝日を浴びた彼女の肌は、気のせいか、妙にツヤツヤと輝いて見えた。


「さて、ハーグへ帰ろう」


 僕の一言で、ヴィンターグリュン王国軍は、帰路についた。


 それから、一週間後。

 僕たちがハーグの城門をくぐると、そこには、信じられないような光景が広がっていた。早馬からの知らせを受けていたのであろう、街中の住民たちが、街道の両脇を埋め尽くし、僕たちを出迎えてくれたのだ。


「ライル王、万歳!」

「ブルーコート、万歳!」


 降り注ぐ歓声と、舞い散る花びらの中を、僕たち青い軍服の兵士たちは、胸を張って行進した。

 広場には、歓迎のための盛大な宴が用意されていた。テーブルには、山と積まれたポテトや、湯気を立てる豚汁、そして真っ赤なトマトソースがかけられた肉料理が、所狭しと並べられている。


 戦いを終えた兵士たちが、帰りを待っていた家族と抱き合い、再会を喜んでいる。そして、僕たちの勝利を、僕たちの帰還を、心の底から祝ってくれていた。


 僕は、バルコニーで僕の帰りを待っていてくれた、アシュレイやノクシア、そして息子たちの元へ駆け寄った。

 眼下に広がる、温かい光景。戦って、勝って、守りたかったものが、全てここにある。


 皆、笑顔だった。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ