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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第45話 スース復興日誌

【闇ギルド構成員ジーク視点】


『アヴァロン帝国歴159年 12月20日 昼 曇り』


 スース。灰色の街。それが、俺の新しい任地に対する第一印象だった。

 活気に満ちた本拠地ハーグとは、なにもかもが違う。崩れたままの家々、雑草に覆われた石畳、そして何より、すれ違う人々の目に宿る、諦めと不信の色。希望という言葉が、この街からは完全に消え失せている。


(……ここを、立て直せ、と)


 俺、ジークは、ユーディル様の命令を頭の中で反芻していた。

 闇ギルドの一員として、これまで請け負ってきた仕事は、汚れ仕事ばかりだ。脅し、暴力、そして搾取。それが、俺たちの世界の常識だった。だから、今回も似たようなものだろうと高をくくっていた。だが、ユーディル様がライル王の勅命として俺に下した命令は、あまりに奇妙なものだった。


『スースの街に「活気」と「秩序」をもたらせ』


 そのための具体的な指示は、三つ。


 一つ、住民が安心して飲める、清潔な酒場を作ること。

 二つ、商人からみかじめ料を徴収し、その金で街を整備すること。

 三つ、街のゴロツキは殺さず、半殺しにして、農地の労働力とすること。


(……正気の沙汰とは思えねえ)


 だが、命令は命令だ。俺は、連れてきた十数人の部下たちと共に、早速仕事に取り掛かった。


 まずは、酒場作りだ。広場に面した、一番大きな廃墟を接収し、修理を始める。最初は遠巻きに見ていただけの住民たちも、俺たちが本気で槌を振るい、瓦礫を片付けていく姿を見て、おずおずと手を貸し始めてくれた。

 数週間後、酒場『北極星』が完成した。ハーグから直送されたポテトを使った温かいシチューが振る舞われると、飢えていた住民たちは、涙を流してそれを頬張った。


「うめえ……こんなに温かくてうまいもん、何年ぶりに食ったか……」


 次に、商人への「みかじめ料」の徴収。案の定、商人たちは怯えきっていた。


「ひぃっ! お、お助けを! これ以上、我々から何を奪うというのです!」


「勘違いするな。これは『投資』だ。お前たちが安心して商売を続けられるためのな」


 俺たちは、徴収した金で、ごろつきだった連中を雇って見回り隊を組織し、街道の補修を始めた。最初は疑っていた商人たちも、強盗の心配なく商売ができるようになると、自ら進んで金を納めるようになった。


 そして、街の治安を乱すごろつきの粛清。


 バキッ! ゴスッ!


「おい、息はあるな?」


「へ、へい! まだピンピンしてます!」


「よし、そいつらをゲオルグ様のところへ運べ。開拓作業の人夫が、ちょうど足りなかったところだ。立派な労働力になるぞ」


 畑で強制労働させられるごろつきの姿は、他の悪党への何よりの見せしめになった。


 そうして、一月が過ぎた。

 俺は、いつものように街を見回っていた。道は綺麗になり、店には品物が並び、人々の顔にはかすかな活気が戻っている。俺が建てた酒場『北極星』からは、子供たちの楽しげな笑い声が聞こえてきた。


(……おかしい。闇ギルドの仕事は、奪い、壊し、恐怖で支配することだったはずだ。だが、今俺がやっていることは、どうだ。街を作り、人を活かし、笑顔を生み出している……)


 その時、ちょうどハーグからの補給部隊が到着した。荷物の中には、俺個人への差し入れも入っていた。


「ジークさん! ユーディル様から、あんたにって!」


 渡されたのは、ハーグ黒豚の串焼きだった。俺は酒場の屋根に登り、眼下に広がる、生まれ変わりつつある街を眺めながら、その串焼きを一口かじった。


 ハーグの味が、舌の上でとろけた。炭火の香ばしさと、秘伝のタレの甘辛さが、疲れた体に染み渡る。


(俺たちの王様は、闇ギルドの使い方まで、他の誰とも違うらしい……)


 俺は、ふっと笑みをこぼすと、眼下の喧騒に向かって、ぽつりと呟いた。


「……この街の未来も、案外、悪くないな」


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