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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第43話 七人の選帝侯について? う~ん、眠くなっちゃうよ……

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴159年 11月10日 昼 曇り』


 あれほど賑やかだった北方の収穫祭が終わり、ヴィンターグリュン王国には穏やかな日常が戻ってきた。いや、戻ってきたはずだった。僕にとって、新たな試練の日々が始まったことを除けば。


「ライル様、背筋が曲がっております! 王たる者、常に天を仰ぐ気概で胸を張りなさい!」


「はい……」


「ナイフとフォークの音を立ててはいけません! それは平民の作法です!」


「はひ……」


 執務室の隣に設けられた食堂で、僕の目の前には、見た目だけは豪華な食事が並べられている。そして、その正面には鬼の形相をしたヴァレリアが座っていた。最近、お腹の子のせいか、彼女の指導には以前にも増して凄みがある気がする。


 皇帝陛下から『選帝侯』なるものに任命されてしまった僕は、それに相応しい教養を身につけるため、ヴァレリアから貴族の立ち居振る舞いについて、厳しい教育を受けることになったのだ。


「ダンスのステップも、まだ覚えきれていないご様子。これでは、帝都の舞踏会で、笑いものにされてしまいますわよ」


 隣の席では、サラム王国から来てくれたファーティマちゃんが、僕と一緒に授業を受けていた。彼女は元々王女様なだけあって、その一つ一つの所作が、まるで絵画のように優雅だった。彼女は、僕の情けない様子を見て、くすくすと楽しそうに笑っている。


「がんばって! ライル様!」


 ファーティマちゃんが励ましてくれる!


「ははは、ありがとう……」


 テーブルマナーやダンスは、まだ体を動かすだけマシだった。本当に地獄なのは、座学の時間だ。


「本日は、帝国を動かす最高権力者たち……『七人の選帝侯』について、学んでいただきます。よろしいですな?」


(うわー……始まったよ。一番眠くなるやつだ……)


 僕はあくびを噛み殺しながら、ヴァレリアが広げた帝国の勢力図に目をやった。


「選帝侯とは、その名の通り、次代の皇帝を選ぶ権利を持つ、帝国における七人の最高権力者のことです。皇帝が崩御された場合、この七人の投票によって、新たな皇帝が決定されます。いわば、帝国の未来そのものを左右する、最も重要な存在と言えましょう」


 ヴァレリアは、教鞭代わりに持った細い杖で、地図の上を指し示した。


「まず、一票目はもちろん、皇帝陛下ご自身。現ユリアン皇帝が、その一票をお持ちです」


(そりゃそうだよね。自分が一番偉いんだもんね)


「そして二票目。北方を治めるヴィンターグリュン王にして辺境伯……ライル様、貴方様です」


「はーい」


 僕が気の抜けた返事をすると、ヴァレリアの眉がぴくりと動いたが、彼女は講義を続けた。


「三票目は、東方を支配する保守派貴族の筆頭、ダリウス公爵。先日、ライル様に戦を仕掛け、敗れたあの男です」

「四票目は、南方を治める名門、ランベール侯爵家」


 そこで、ヴァレリアは一瞬だけ言葉を詰まらせ、小さな声で付け加えた。


「……私の、実家です」


「そして五票目は、西方の商業都市国家連合と深い繋がりを持つ、ヴェネディクト侯爵。経済と交易を牛耳る、油断ならぬお方です。六票目は、帝国における光の教えの頂点、女神教の教皇、ピウス七世猊下」


 次々と挙げられる、いかにも偉そうな名前の数々に、僕の頭はもう飽和状態だった。


「……で、最後の一人は?」


 僕が何気なく尋ねると、ヴァレリアは難しい顔で首を横に振った。


「それが……最後の七人目、七票目を持つ人物は、正体不明なのです」


「え、どういうこと?」


「古くからの言い伝えでは、帝国の影の部分を統べる、謎の勢力がその一票を持っているとされています。ですが、その実態は、代々の皇帝陛下お一人しかご存知ない、帝国の最高機密とされております」


 その言葉に、僕は思わずごくりと喉を鳴らした。


「ナゾの一票があるってことだよね……」


「ええ、その実態は皇帝しか知らないと言われているわ……」


 ヴァレリアが、真剣な眼差しで僕を見つめる。


(……うん、知ってる。僕、そのナゾの一票の正体、知ってるよ……)


 闇ギルドと、影の信徒たちを束ねる、闇の女教皇。

 いつもは僕の臨時副官として、書類の山に埋もれながらこっくりこっくり船を漕いでいて、銃の訓練があった夜には、僕のベッドにもぐりこんできて、僕の昂りを鎮めてくれる、あの無口な女の子。


(ノクシアちゃんだなんて、口が裂けても言えないよね……)


 僕は、自分の国が、そして僕自身が、思っている以上に帝国の中心で、とんでもなく危ういバランスの上に立たされているのだという事実を、今更ながらに突きつけられていた。


 選帝侯。その言葉の重みが、ずしりと僕の両肩にのしかかってくるのを感じながら、僕はただ、目の前の羊皮紙に描かれた、複雑な家系図をぼんやりと眺めていることしかできなかった。

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