表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/278

第37話 そうだ! みんなでスースに行ってみよう!

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴159年 8月26日 夜』


 ユリアン皇帝が、満足げな顔で帝都へと帰っていった。その日の夜、僕は自分の寝室で、一人、落ち着かない時間を過ごしていた。


 日中に行った軍事訓練の光景が、まぶたの裏に焼き付いて離れない。耳の奥で、千の銃声がまだ鳴り響いている。指先には、銃床を握りしめた時の、硬い感触が残っているようだった。


 どうも、僕の体は、この『銃』という兵器を扱うと、その日は決まって昂ぶり、普通に眠れなくなるらしい。戦場で黄金獅子団を蹂躙した時も、そうだった。振るうにはあまりに強大すぎる力が、僕の奥底で眠っている何かを、無理やり揺り起こすような……そんな感覚。


(駄目だ……このままじゃ、眠れない……)


 僕が、燃えるような焦燥感に身をよじった、その時だった。静かに扉が開き、ヴァレリアが入ってきた。彼女は、僕の様子を察しているのだろう。何も言わず、ただ、静かな眼差しを向けてくる。


 その視線が、引き金になった。僕は、まるで飢えた獣のように、彼女の腕を掴んでベッドへと引き倒していた。昂ぶる感情のままに、彼女の硬い騎士鎧の紐を、乱暴に解いていく。現れた白い肌は、月明かりを浴びて艶めかしく光っていた。


「……っ」


 ヴァレリアは、小さく息をのんだが、抵抗はしなかった。ただ、その翠色の瞳を潤ませ、僕の全てを受け入れるように、その身を委ねてくる。僕の荒い息遣いと、彼女の吐息だけが、部屋の静寂を満たしていく。彼女の温かい体は、僕の中に渦巻く熱を、優しく、そして深く、吸い取ってくれるようだった。


 翌朝。僕が目を覚ますと、隣には静かな寝息を立てるヴァレリアがいた。昨夜の昂りは、嘘のように消え去り、僕の心は不思議なほど穏やかだった。


 朝の執務室。僕は、集まった仲間たちに、いつもの調子で言った。


「そうだ! 昨日、皇帝陛下からスースの街をもらったことだし、今日、みんなで見に行ってみようよ!」


 僕のあまりに唐突な提案に、ユーディルやビアンカは少し驚いた顔をしたが、ヴァレリアは「承知いたしました。すぐに準備を」と、冷静に頷いた。


 ハーグからスースまでは、馬で半日ほどの距離だった。国境を越え、旧帝国直轄領へと足を踏み入れる。だが、そこに広がっていたのは、荒れ果てた土地だった。雑草は伸び放題で、畑だった場所も、見る影もない。


 やがて、僕たちの目の前に、スースの街が見えてきた。高い城壁だけは立派だが、その内側は、ひどい有様だった。建物の屋根は崩れ、道にはゴミが散乱し、街全体が、まるで生気のない、灰色の空気に包まれている。


 僕が最初にハーグに赴任した時と、まったく同じ光景だった。帝国の役人たちは、税を取り立てるだけで、この街の復興に、何一つ手を入れてこなかったのだろう。


 僕たちが街の中心にある広場に到着すると、物陰から、おずおずと住民たちが姿を現した。皆、痩せて、ぼろぼろの服を着ている。だが、その瞳には、かすかな希望の光が宿っていた。彼らは、僕が新しい領主であることを知ると、我先にと群がってきた。


「おお……新しい領主様か……!」

「我々を、お見捨てになられないでください!」

「どうか……どうか、食べるものを……!」


 僕は、馬から降りると、彼らの前に立った。


「みんな、安心してほしい」


 僕は、集まった住民たちの顔を一人一人見回しながら、はっきりと告げた。


「僕は、ヴィンターグリュン王、ライルだ。この街は、今日から僕の国の一部になる。大丈夫。見ていてくれ。僕が初めて治めたハーグの街も、最初はここみたいに、ひどい場所だったんだ。でも、今は、みんながお腹いっぱい食べられて、笑って暮らせる街になった。このスースも、必ず、そうしてみせる。僕が、約束する」


 僕の言葉に、住民たちの間から、嗚咽と、そして、やがては歓声が上がった。

 やるべきことは、山積みだ。だが、僕の心は、不思議と晴れやかだった。


(まずは、食料と人を送らないと。ゲオルグさんなら、この土地に合う作物を知ってるかな。ビアンカなら、街の商業を立て直せるかもしれない)


 その日のうちにハーグへと引き返しながら、僕の頭は、もうスースの復興計画でいっぱいだった。僕の国が、また少し、大きくなる。それは、守るべき民が、また増えるということでもあった。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ