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投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~【Web版本編・200万PV感謝!】  作者: 塩野さち


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第342話 毛皮王と石油王

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴180年 4月28日 クラスノグラード ライル市 晴れ』


 ハーグからクラスノグラードへ、定期的な輸送ルートが確立されてからしばらくが経った。

 レオ自動車の大型トラック隊が到着するたび、広場はお祭り騒ぎになる。

 人々はこの場所を、親しみを込めて『ライルの市』と呼ぶようになっていた。


「さあ、今日は新鮮な野菜も届いているよ! 早い者勝ちだ!」


 僕が売り子として声を張り上げていると、人だかりを割って、二人の男が現れた。

 一人は、熊のような巨体に、見たこともないほど豪奢な毛皮のコートを羽織った男。

 もう一人は、仕立ての良いスーツを着ているが、その指先がどこか黒ずんでいる、鋭い目つきの男だ。


「おい、ハーグの皇帝さんよ」


 毛皮の男が、ドサリと足元に巨大な袋を置いた。中からは、艶やかな光沢を放つ黒テンやキツネの毛皮が溢れ出した。


「毛皮ならいくらでもある。ここに並んでいる品物、全部もらおう」


「待て待て、横取りは感心しないな」


 スーツの男が、懐から一枚の証書を取り出した。


「石油ならいくらでもある。俺も全部もらおう。言い値で構わんぞ」


 二人の男はバチバチと火花を散らして睨み合った。

 周りの客たちが、「あわわ、また始まった……」と遠巻きにする。


「あれは、『毛皮王』のボロディンと、『石油王』のペトロフだ……」

「この国の二大富豪が、揃って買い出しに来たのかよ」


 どうやら、とんでもない太客が来てしまったらしい。

 二人は僕の商品棚――インスタントラーメンや缶詰、コンロなどの山――を指差して、譲ろうとしない。


「ハーグの暖房器具は俺が買い占める! 鉱山の労働者たちに配るんだ!」

「いいや、俺が買う! 油田のキャンプには娯楽が必要なんだ!」


 困った僕は、助けを求めるようにヴァレリアとグレン公を見た。

 しかし、二人は商売人としての、あるいは軍人としての鋭い目で、男たちが提示した対価(現物)を凝視していた。


「……ライル、見てください」


 ヴァレリアが、ボロディンが持ち込んだ毛皮の一つを手に取り、目を見張った。


「この毛皮の帽子……。ハーグの『ブルーコート』兵が冬季装備として被っているものと同じだわ! 最高級品よ。ここが産地だったのね……」


「なんと……。それを言うなら、石油もですぞ」


 グレン公が、ペトロフがサンプルとして持参した小瓶の蓋を開け、匂いを嗅いでいる。


「不純物が極めて少ない。これなら精製の手間が省けます。レオ自動車の燃料として、喉から手が出るほど欲しい逸品です……」


 なるほど。つまり、彼らはただの金持ちではなく、我が国にとっても重要な資源を握るキーマンというわけか。

 僕はニッコリと笑い、二人の間に割って入った。


「まあまあ、お二人とも。そんなに争わないでください」


「む? だが、商品は限られているだろう?」


「ええ。ですが、一般のお客さんの分まで買い占められては、僕の顔が立ちません」


 僕はトラックの荷台から、在庫リストを取り出した。


「こうしましょう。一般販売用に三割は残します。残りの七割を、お二人で仲良く折半して買い取っていただくというのは? もちろん、代金は金貨ではなく、その素晴らしい毛皮と石油での物々交換でお願いしたいのですが」


 僕の提案に、二人は顔を見合わせ、やがて豪快に笑い出した。


「ガハハ! なるほど、ハーグの皇帝は商売上手だ!」

「いいだろう。その条件で手を打とう」


 商談成立だ。

 こうして、大量の物資が彼らの車に積み込まれ、代わりに僕たちの手元には貴重な戦略物資が転がり込んできた。


 その日の夕暮れ。

 完売の札を出して後片付けをしていると、一人の軍人が人目を忍ぶように近づいてきた。

 身なりは整っているが、その表情には深い苦悩が刻まれている。


「……ライル陛下」


 彼は帽子を取り、深く頭を下げた。


「どうか、イヴァン皇帝陛下を諌めていただきたい! 貴方様のような、民を第一に考える皇帝ならば、できるはずです!」


「えっ……?」


 突然の嘆願に、僕は手を止めた。

 軍人は切実な声で続けた。


「我が国の皇帝は、引き籠もったまま民の声を聞こうとしません。このままでは、ルースキアは内側から腐ってしまいます。……今日の広場の賑わいを見て、確信しました。貴方様の言葉なら、あるいは……!」


 その声に呼応するように、広場に残っていた人々も口々に声を上げた。


「そうだ! 頼む、ハーグの皇帝さん!」

「俺たちの皇帝に、ガツンと言ってやってくれ!」

「この国を変えてくれぇ!」


 彼らの瞳には、すがるような期待が宿っていた。

 単なる物売りとして来たはずが、いつの間にか、僕は彼らの希望の星になりつつあるようだった。


(……責任重大だなぁ)


 僕は沈みゆく夕日を見つめながら、開かない宮殿の扉の向こうにいる、まだ見ぬ若き皇帝のことを考えていた。

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