第334話 ブランカ村はどこへ……
【カール視点】
『アヴァロン帝国歴179年 12月1日 サファリダ郊外 晴れ』
目の前に広がる荒野を見て、俺は深いため息をついた。
「……終わらねえ」
地雷除去は、終わりそうになかった。
地面に埋められた死の罠。それを一つ一つ、探知機と手作業で取り除いていく作業は、気の遠くなるような時間と神経をすり減らす。地雷除去車もあるが、一両しかない。
もともと我々の任務は、この一帯に蔓延する麻薬の撲滅と、その栽培拠点と目されるブランカ村の制圧であったはずだ。こんなところで足踏みをしていては、敵に逃げる時間を与えるだけだ。
「おい、ベルガー少佐!」
俺は、近くで探知機を抱えていた小太りの男を呼びつけた。
「は、はいっ! なんでしょうか、カール隊長!」
ベルガー少佐が、泥だらけの顔で駆け寄ってくる。俺は彼の肩をポンと叩き、ニカッと笑って言った。
「この地雷原の処理、お前に任せるわ」
「……は?」
ベルガー少佐が、間の抜けた声を上げる。
「いや、ですから隊長? 地雷除去は優先任務のはずでは?」
「大丈夫だ! 俺は本隊を率いて、先にブランカ村へ向かうからな!」
「ええええっ!? そ、そんな勝手な! 上層部の許可は!?」
慌てふためく少佐に、俺は懐から一枚の羊皮紙を取り出して見せつけた。そこには、ヴィンターグリュン王国の紋章と、最高指揮官のサインが記されている。
「もちろん、フェリクス閣下の許可はとってある!」
俺が胸を張ると、ベルガー少佐はがっくりと肩を落とした。
「うう……フェリクス閣下は、隊長には甘いからなぁ……。わかりましたよ、ここは私がなんとかします。そのかわり、お土産は期待してますからね!」
「おう、任せとけ! 最高級の乾燥肉でも分捕ってくるさ!」
俺はベルガー少佐に手を振ると、待機していた本隊に号令をかけた。
「野郎ども、行くぞ! 地雷掘りは終わりだ! ブランカ村へ進軍する!」
「「「オオオオッ!」」」
兵士たちが歓声を上げる。やはり、地味な作業より、派手な進軍の方が士気は上がるものだ。
俺たちは意気揚々と、ブランカ村へ続く街道を進んだ。
だが、村に近づくにつれて、俺の胸に奇妙な違和感が生まれ始めた。
(……静かすぎる)
麻薬の栽培拠点という情報が正しければ、村の周辺には見張りや、あるいは武装した私兵団が展開しているはずだ。
しかし、鳥のさえずりさえ聞こえないほどの静寂が、街道を包んでいる。
「……警戒態勢! スカウト部隊、前へ!」
俺の指示で、軽装の偵察兵たちが音もなく隊列の先頭へ走り出る。彼らを盾にするようで気が引けるが、これが戦場の鉄則だ。
俺たちは速度を落とし、ライフルの安全装置を外して、慎重に歩を進めた。
やがて、木々の切れ間から、ブランカ村の家々が見えてきた。
煙突から煙は上がっていない。人の気配も、家畜の鳴き声もしない。
ただ、風が吹き抜ける音だけが、耳に痛いほど響いていた。
「……隊長」
先に戻ってきたスカウト部隊の兵士が、青ざめた顔で報告する。
「誰も、いません」
「……なんだと?」
俺たちは、警戒を解かずに村へと踏み込んだ。
そこにあったのは、争った形跡も、慌てて逃げ出した様子もない、整然とした「無」だった。
家の中には家具も食器もそのまま残されている。昨夜まで人が住んでいたかのような生活感が漂っているのに、その主だけが、神隠しにでもあったかのように消え失せているのだ。
そこで見たものは、まさしく、もぬけの空と化したブランカ村であった。
「……いったい、どこへ消えたんだ?」
俺の呟きは、誰に届くこともなく、無人の村に吸い込まれていった。
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