表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/278

第33話 商業都市国家連合降伏

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴159年 4月15日 昼 曇り』


 僕らヴィンターグリュン王国軍の進軍は、止まらなかった。黄金獅子団を一方的に蹂躙した鉄の軍勢は、沈黙のまま、商業都市国家連合の本土を目指して進み続ける。その歩みは、慈悲も、容赦もない、ただただ冷徹な意思の表れだった。


 僕の心は、マルダ村で見た光景を思い出しては、冷たい怒りの炎に焼かれていた。もう、誰にもあんな思いはさせない。僕の民に牙をむく者は、誰であろうと、根絶やしにする。


 そんな殺伐とした軍の前に、一本の白旗が掲げられたのは、進軍開始から三日後のことだった。商業都市国家連合からの、和睦の使者だという。


 僕のいる本陣のテントに、使者の一団が通された。その中心にいたのは、仕立ての良い服を着た、若手の女性商人だった。彼女は、商業都市国家連合の有力者の一人、ビアンカと名乗った。その顔は恐怖に染まり、僕の姿を認めると、びくりと肩を震わせた。


「……ヴィンターグリュン王、ライル陛下。我ら商業都市国家連合は、全面的に降伏いたします」


 彼女は、震える声でそう言うと、その場で膝をついた。


「この度の戦の全ての責任は、我らにございます。つきましては、我らが連合で最も豊かとされる都市、私の故郷でもある『フィオラヴァンテ』を、陛下に差し上げます。どうか、これ以上の進軍は、おやめください」


 僕は、無言で彼女を見下ろしていた。僕の冷たい視線に、ビアンカはさらに身を縮こませる。彼女は、僕という人間に、心底おびえていた。その純粋な恐怖を前にして、僕の心の中で燃え盛っていた怒りの炎が、すうっと静まっていくのを感じた。


(……ああ、そっか。僕、今、すごく怖い顔、してるんだな)


 毒気を抜かれた僕は、短く、一言だけ告げた。


「……話は、明日にする。下がれ」


 その夜、僕のテントにヴァレリアがいた。昨夜と同じように、僕たちはどちらからともなく、互いの体を求め、静かに抱き合っていた。彼女の温もりが、僕のささくれだった心を、少しずつ癒していく。


「……なんか、ごめん。僕って、そんなに怖かったかな?」


 腕の中で、僕はぽつりと尋ねた。ヴァレリアは、僕の胸に顔をうずめたまま、甘く喘ぎながら、素直に答えた。


「はい、おそろしゅうございます。ですが……そんな貴方様だからこそ、私は……」


「そっか……そっか……」


 僕は、彼女の言葉を噛みしめるように、ただ、その華奢な体を強く抱きしめた。


 翌朝。会議の場に現れた僕を見て、ビアンカたちは目を丸くしていた。そこにいたのは、昨日までの冷徹な王ではなく、どこか気の抜けた、人の良さそうな笑みを浮かべた、いつもの僕だったからだ。


「やあ、ビアンカさん、おはよう! それで、昨日の話だっけ?」


 僕は、差し出された降伏文書に、ざっと目を通した。


「うん、わかった! ビアンカさんの都市、フィオラヴァンテを差し出してくれればいいよ! それで、この戦いは終わりにしよう!」


 僕のあまりにあっさりとした物言いに、ビアンカは呆気に取られていた。やがて、彼女は深々と頭を下げた。


「……ありがとうございます。そして、ライル陛下。もし、お許しいただけるのでしたら、この私ビアンカも、貴方様にお仕えし、フィオラヴァンテ、いえ、ヴィンターグリュン王国の発展のために、この身を捧げたく存じます」


 こうして、僕と商業都市国家連合との戦いは、唐突に終わりを告げた。


 僕たちの国は、新たに西の交易都市フィオラヴァンテを支配下に置き、そして、商才に長けたビアンカという、頼もしい仲間を得ることになったのだった。


「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ