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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第32話 ライル王の鉄槌

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴159年 4月10日 昼 晴れ』


 春。ヴィンターグリュン王国に、戦乱の嵐が迫っていた。商業都市国家連合が雇った大陸最強の傭兵団、『黄金獅子団』が、国境を越え、我らの領地へと進軍を開始したという報告が、執務室にもたらされた。


「黄金獅子団……兵力はおよそ一万五千。歴戦の猛者揃いで、その武勇は大陸に広く知れ渡っております」


 ヴァレリアが、苦々しい表情で地図を指し示す。ユーディルも、いつになく険しい顔で黙り込んでいた。

 だが、その深刻な雰囲気の中で、僕はいつもと変わらない調子だった。


「そっかあ、一万五千人も。長旅でお腹を空かせているだろうね。まずは、豚汁でも振る舞ってあげたら、話し合いで解決できないかな?」


「閣下! 今度は、そんな悠長なことを言っている場合では……!」


 ヴァレリアが、思わず声を荒らげた、その時だった。伝令兵が、血相を変えて執務室に転がり込んできた。


「申し上げます! 国境近くのマルダ村が……! マルダ村が、黄金獅子団によって焼き払われ、住民は虐殺、食料はすべて略奪されたとの報せにございます!」


 その一言が、部屋の空気を凍りつかせた。

 僕の中で、何かが、ぷつりと切れる音がした。

 マルダ村。僕が、初めて領主として視察に訪れた、小さな村だ。去年、ポテトの種芋を分けてあげた時、涙を流して喜んでくれた、あのおじいさんの顔が浮かんだ。


 気づけば、僕は立ち上がっていた。先ほどまでの、のんきな空気は、もうどこにもない。


「……ヴァレリア」


 僕が発した声は、自分でも信じられないほど、低く、冷たかった。


「……はい」


「王国全軍に、即時、出撃準備を命じろ。備蓄している全ての銃と弾薬を用意しろ。目標は、黄金獅子団の、完全殲滅だ」


「……ライル、様?」


 僕のあまりの変貌ぶりに、ヴァレリアも、ユーディルも、息をのむのがわかった。僕は、二人を、そして部屋にいる全員を、凍てつくような視線で見回した。


「奴らは、僕の民を殺した。僕の畑を、焼いた。……なら、こちらも礼を尽くすまでだ。一人残らず、僕たちの土地の土に還してやる。……いいな?」


 その場にいた誰もが、声もなく、ただ震えながら頷くことしかできなかった。


 数日後。ヴィンターグリュン南部の平原で、両軍は対峙した。

 黄金獅子団の兵士たちは、我々の奇妙な陣形を見て、嘲笑の声を上げていた。


「なんだありゃあ! 百姓が、鍬持って並んでるだけじゃねえか!」

「一列目は、ただの長い棒を持っただけの貧相な連中だぜ!」


 彼らの目に、我々の軍勢は、十一列に縦深く並んだ、ただの農民兵の集団にしか見えなかったのだろう。

 やがて、黄金獅子団の団長が、巨大な戦斧を掲げて突撃を命じた。地響きを立てて、一万五千の殺意が、津波のように押し寄せてくる。


 最前列のパイク兵たちが、地面に槍の柄を突き立て、屈強な肉体で、その暴力的な突撃を、見事に受け止めた。金属がぶつかり、肉が裂ける、凄まじい音が響き渡る。


 僕は、その光景を、ただ冷たく見つめていた。そして、静かに、右手を振り下ろした。


「――撃て」


 その命令を皮切りに、地獄の演奏が始まった。

 二列目のマスケット兵千人が、一斉に火を噴く。轟音と共に、黄金獅子団の先頭部隊が、まるで薙ぎ払われたかのように、血飛沫を上げて崩れ落ちた。

 彼らが撃ち終わると同時に、三列目が前に進み出て、再び千の銃口が火を噴く。

 四列目。五列目。六列目……。

 それは、もはや戦いではなかった。ただ、一方的な蹂躙。絶え間なく続く銃声と、悲鳴と、死。黄金獅子団の傭兵たちは、自分たちが何に殺されているのかも理解できないまま、次々と命を散らしていく。


 彼らが誇る武勇も、経験も、この『ヴィンターグリュン・ローテーション』という、冷徹な虐殺システムの前に、何の意味もなさなかった。


 戦いは、一時間も経たずに終わった。生き残った数百の傭兵たちは、武器を捨て、悪魔でも見たかのような目で、恐怖に泣き叫びながら逃げ惑っていた。

 僕は、彼らを追わせなかった。生かして、帰した。この地獄を、大陸中に語り継がせるために。


『ヴィンターグリュンの王は、人の皮を被った悪魔だ』と。


 だが、僕の兵士たちは、僕の名を、英雄として、救世主として、熱狂的に叫んでいた。


 その夜。野営地の、僕のテントに、ヴァレリアが一人で訪れた。


 テントに入ると、彼女は服を脱ぎ始める。


「今日のライル様の戦場での姿に、恐怖ではなく、別の何かを感じました……。民を守るためならば、悪魔にでもなれる王の姿を……。この身を捧げます……どうか私めも征服してくださいまし……」


 彼女の声が、震えていた。


 僕は、戦いの興奮と、初めて自らの意志で人を殺戮したことへの重圧で、感情が張り詰めていた。


 僕は、何も言わずに彼女の腕を掴むと、テントの中へ、強く引き寄せた。抵抗する間も与えず、その体を、手荒に抱きしめていた。


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