表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~【Web版本編】  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/382

第28話 西の商人と経済戦争の足音

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴158年 10月10日 昼 晴れ』


 ヴィンターグリュン王国の秋は、希望の色に染まっていた。皇帝陛下からいただいた大豆は、ふっくらとした実をつけたさやを無数に実らせ、ゲオルグさんは「これさえあれば、冬でも新鮮な豆腐や味噌が作れますぞ!」と子供のように目を輝かせている。畑の一角では、タバコの葉が収穫され、乾燥のための小屋が建てられ始めていた。


 僕たちの国は、日に日に豊かになっている。その穏やかな実感が、僕の心を温かく満たしていた。


 そんなある日の昼下がり。執務室で次の農地計画をゲオルグさんと話し合っていると、ユーディルが音もなく現れ、一枚の報告書を机に置いた。


「ライル王。西より、少々厄介な風が吹いてまいりました」


 ユーディルの報告によれば、帝国の西に位置する『商業都市国家連合』が、我らヴィンターグリュン王国の急成長、特に『ハーグ黒豚』の独占的な流通に、強い警戒感を抱き始めたという。


「彼らは、皇帝陛下の権威が及ばぬ独立した商人たちの国。金と契約、そして利益こそが、彼らの法であり、神なのです」


「へえ、商人の国かあ。なんだかすごそうだね」


 僕がのんきに相槌を打っていると、ヴァレリアが補足するように言った。


「軍事力ではなく、経済で他国を支配する者たちです。正面からの戦いよりも、はるかに厄介な相手かもしれません」


 その言葉が現実となるのに、そう時間はかからなかった。数日後、商業都市国家連合の使者を名乗る、一人の男がハーグを訪れたのだ。


 男の名は、ロレンツォ。仕立ての良い衣服に身を包み、人好きのする笑みを浮かべてはいるが、その目の奥には、獲物を値踏みするような鋭い光が宿っていた。


「これは素晴らしい街だ! 北の果ての廃墟が、これほど活気ある都に変貌するとは! ライル王の優れた手腕、そしてヴィンターグリュン王国の将来性、このロレンツォ、しかと見届けました!」


 彼は、僕たちを盛大に褒め称えると、本題を切り出した。


「つきましては、我ら商業都市国家連合と、末永い友好関係を結んでいただきたい。例えば、この『ハーグ黒豚』。我々がその販売権を一手にお引き受けし、西側諸国へ流通させれば、陛下には毎年、金貨一万枚の利益をお約束いたしましょう」


 莫大な金額。だが、ユーディルが即座に口を挟んだ。


「その申し出、ありがたいが、我らには我らの販路がある。独占販売権をお譲りするとなれば、話は別だ」


 ロレンツォは少しも臆さず、笑みを深めた。


「もちろん、こちらも誠意はお見せします。その代わりと言っては何ですが、貴国で栽培されているポテトとコーン、そして大豆の種子を、我々にも少しお分けいただきたい。食に苦しむ西の民を救う、人道支援の一環として、ね」


 その言葉は、あまりに都合が良すぎた。ヴァレリアの視線が、鋭くなる。僕たちの富の源泉を、友好の名の下に奪おうという魂胆が透けて見えた。

 そんな張り詰めた空気の中、僕はお茶請けに出されていた香辛料の効いた干し肉を指さして言った。


「うーん……難しい話はよくわからないけどさ。困っている人がいるなら、種くらい、少しなら分けてあげてもいいんじゃないかな?」


 僕の言葉に、ヴァレリアとユーディルが呆れたようにため息をつく。だが、その瞬間、それまで黙って話を聞いていたアシュレイが、ふいに眉をひそめた。


「うっ……」


 彼女は小さくうめくと、口元を手で押さえた。テーブルに並べられた、東方産の強い香りの香辛料の匂いに、顔をしかめている。


「アシュレイさん? どうしたの、顔色が悪いよ」


「あ、いや……なんでもないっス。ちょっと、このスパイスの匂いが、鉄臭く感じて……。すいません、少し風に当たってきます」


 そう言って、アシュレイは足早に席を立ってしまった。僕は心配になって彼女の後を追おうとしたが、ヴァレリアに目で制される。彼女は、何かを疑うような目で、アシュレイの背中を見送っていた。


 結局、ロレンツォとの交渉は、その日は物別れに終わった。


「いやはや、残念だ。ですが、賢明なるライル王ならば、我々と手を取り合うことの利を、いずれご理解いただけると信じておりますよ。我々商人を、敵に回すのが、どういうことか……ね」


 ロレンツォは、意味深な言葉と、胡散臭い笑顔を残して去っていった。

 彼の背後には、これまで僕たちが経験したことのない、金と欲が渦巻く『経済戦争』という、新たな戦乱の暗い影が、確かに忍び寄ってきているような気がした。


 その夜、ヴァレリアが一人、僕の執務室を訪れた。


「閣下……いえ、ライル様。アシュレイのことですが……もしかしたら、あの子……」


 彼女の神妙な面持ちに、僕はただ、首を傾げることしかできなかった。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ