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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第25話 戦の後始末? そんなことより、大豆の世話したいなぁ

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴158年 5月10日 昼 快晴』


 帝都から帰還して数週間。ハーグの畑は、新たな活気に満ちていた。僕は、農業担当のゲオルグさんと一緒に、皇帝陛下からいただいた『大豆』の畑を歩いていた。


「ゲオルグさん、すごいね! もうこんなに大きくなったんだ!」

「はい、ライル様。この大豆という作物は、土地を肥やす力も持っております。来年のコーン畑は、きっと今年以上の豊作になりましょう」

「へえ、そうなんだ!」


 僕たちがそんな会話をしていると、畑の脇で僕たちの様子を見ていたファーティマちゃんが、くすくすと楽しそうに笑った。彼女も、すっかりハーグの暮らしに馴染んでくれていた。

 そんな穏やかな時間が、馬蹄の音と共に破られたのは、その時だった。帝国の紋章を掲げた使者が、一頭の馬で畑まで駆け込んできたのだ。


「辺境伯ライル・フォン・ハーグ様に、皇帝陛下より緊急のご召喚にございます!」


 使者が読み上げる羊皮紙には、たった一文だけ、こう書かれていた。


『帝国法で禁じられている、諸侯同士の私闘の件について、申し開きを求める』


「私闘……」


 その言葉に、僕の後ろに控えていたヒルデさんとファーティマさんの顔が、さっと青ざめていくのがわかった。二人とも、王族として、その言葉の恐ろしさを知っているのだ。


「ライル様……!」

「大丈夫だよ、二人とも」


 僕は、心配そうな彼女たちに笑いかけると、帝都へ向かう準備を始めた。


 帝都フェルグラントの玉座の間は、重苦しい沈黙に包まれていた。

 僕が到着すると、そこにはすでに、先の戦いで僕に降伏した諸侯たちが、衛兵に囲まれてうなだれていた。保守派の筆頭だったダリウス公爵も、アルバ公も、ボーデン伯も、コルヴィン男爵も、皆、罪人としてそこにいた。

 だが、ユリアン皇帝は、僕の姿を認めると、にやりと笑った。


「ライルよ、よく来たな。心配せずとも、お前を捕らえるつもりはない。お前は、売られた喧嘩を買っただけの、いわば被害者だからな」


 その言葉に、ダリウス公爵が悔しそうに顔を歪めた。

 皇帝は、玉座から罪人たちを見下ろすと、面白そうに続けた。


「さて、ここにいる愚か者たちの処分だが……。帝国諸侯としてではなく、彼らが戦を仕掛けた相手、北方の王として、お前に一任しようと思う。どうする、ライル?」


 全員の視線が、僕に集まる。僕は、うなだれる諸侯たちを順番に見て、そして、いつものように、思ったことをそのまま口にした。


「ふーん、いいの? じゃあ、なんか色々と面倒くさいから、全員放して、それぞれの領地に帰らせるよ」


「……本気か、ライル。それでいいのか?」


 皇帝が、心底意外そうな顔で聞き返す。


「えーっ、だって、この人たちを捕まえても、使い道がないもん。ブタさんなら、美味しく食べられるけど、人間なんていらないよー!」


 僕の言葉に、玉座の間が、しんと静まり返った。

 次の瞬間、最初に動いたのは、ダリウス公爵だった。彼は、衛兵を振り払うようにして僕の前に進み出ると、その場で土下座をした。


「ラ、ライル殿……いや、ライル王! このご恩は、一生忘れませぬ! 我らは、貴方様に刃を向けた大罪人……それを、この寛大なるお慈悲! ありがとうございます! ありがとうございます!」


「我らもです、ライル王!」

「一生、貴方様には逆らいません!」


 他の諸侯たちも、次々と僕の前にひれ伏し、感謝の言葉を口にし始めた。僕は、その異様な光景に、ただただ戸惑うばかりだった。


「あっ、そうだ、陛下!」


 僕は、何かを思いついて、皇帝の方を振り向いた。


「いつまでも『北方の王』じゃ、なんか締まりがないっていうか、名無しみたいだからさ。僕たちも、ちゃんと国の名前、名乗っていいかな?」


 あまりに唐突な僕の提案に、皇帝は一瞬きょとんとした後、腹を抱えて笑い出した。


「はっはっは! そうか、国の名前か! よかろう、もはやお前の国だ。好きにしろ。構わんよ!」


「ほんと!? ありがとう! じゃあ、僕たちの国は、今日から『ヴィンターグリュン王国』だ!」


(冬でも緑があるって意味なんだって、ゲオルグさんが言ってた!)


 こうして、僕の国には、新たに『冬緑』を意味する名前がついた。

 そして、戦後処理(?)も、国の命名も終わったので、僕は皇帝ににこやかに言った。


「じゃあ、陛下! せっかくみんな集まったんだし、国の誕生祝いも兼ねて、ハーグから持ってきたポテトと豚肉で、ここで宴会にしようよ!」


 僕の一言で、帝国の厳粛な玉座の間は、なぜかその日のうちに、陽気な宴会場へと姿を変えた。さっきまで罪人だった諸侯たちも、僕が振る舞う豚汁を、涙ながらに頬張っていた。

 そのカオスな光景を、皇帝が一人、楽しそうに眺めていたことだけは、僕も気づいていた。

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― 新着の感想 ―
この皇帝、物語の序盤で戦に負けそうだったし、食糧危機な対応出来なかったり、為政者としての能力は低いけど人間としての度量は大きいのかな。
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