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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第246話 緊急対策会議~剛か柔か?~

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴178年 1月17日 夜 吹雪』


 帝都ハーグの新しい皇宮。その最も大きな会議室は、暖炉の炎が燃え盛っているにもかかわらず、凍てつくような緊張感に包まれていた。

 アヴァロン帝国とヴィンターグリュン王国の主だった者たちが、巨大な地図を囲んで顔を揃えている。窓の外では、ディートリヒが起こした反乱の狼煙のように、猛烈な吹雪が荒れ狂っていた。


 議論は、完全に紛糾していた。

 最初に口火を切ったのは、騎士団長にして陸軍元帥ヴァレリアだった。彼女は、地図の上で、旧帝都フェルグラントを、その細い指先で、力強く指し示した。


「反乱の首謀者たちが集う旧帝都を、ただちに包囲すべきです。兵站を断ち、完全に孤立させれば、いずれ奴らは自滅いたします。躊躇は、かえって無用な血を流すだけです」


 その、あまりに冷徹で、しかし軍事的には正論である意見に、若き皇帝リアン君が、悲痛な顔でかぶりを振った。


「だめだ! フェルグラントは、僕の、僕たちの生まれ育った都だ! そこには、罪のないたくさんの民が暮らしている! 彼らを巻き込むような戦は、断じて許さん!」


 二人の意見は、真っ向から対立した。オルデンブルク宰相が、リアン君をなだめるように、静かに言葉を継ぐ。


「ですが陛下、ヴァレリア殿の言うことにも一理ございます。事を穏便に収めようと時間をかければ、それだけ反乱の規模が広がる恐れも……」


 僕は、珍しく、迷っていた。

 今まで、難しいことは、全部、周りの頼もしい仲間たちに任せてきた。ヴァレリアの言うことも、リアン君の言うことも、どっちも正しい。どっちの気持ちも、痛いほどわかる。


(どうすればいいんだ……。僕が、決めなくちゃ、いけないのか……?)


 僕が、答えを出せずに押し黙っている、その時だった。

 会議室の重い扉が、勢いよく開かれた。息を切らし、肩で息をしながら飛び込んできたのは、電信室に詰めていたノーラちゃんだった。


「大変ですっ! 謎の軍勢がランベール領を南下していると言う電信が同領より送られてきましたっ!」


 その一言が、僕の中で、何かを決定的に変えた。

 謎の軍勢。ランベール領を、南下。その先にあるのは――。


(ノヴァラ王国……! あの子が……女王ニアが、危ない!)


 彼女の、森の動物のように警戒しながらも、好奇心に輝いていた、あの大きな黒い瞳が、脳裏に浮かぶ。僕が、この手で守ると約束した、小さな女王。

 もう、迷いはなかった。


 ガタリ!


 僕が、椅子を蹴るようにして立ち上がった音に、会議室にいた全員の視線が、僕へと集まった。


「フェリクス、カール」


 僕の、静かだが、有無を言わせぬ声が響く。


「はっ!」

「はい、父上!」


 二人が、弾かれたように立ち上がった。


「お前たちは、騎兵隊を率いてノヴァラの地へ先行しろ。いいか、まともにぶつかるな。本隊が到着するまで遅滞戦術に努めろ」


 カールくんとフェリクスが、力強く敬礼をすると、部屋から嵐のように駆け出していった。


「ヴァレリア、総動員令を出せ!」


「あなた……いえ、我が王よ、かしこまりました」


 ヴァレリアもまた、僕の覚悟を悟り、即座に行動を開始する。僕は、休む間もなく、次の指示を飛ばした。


「ビアンカ! ビアンカ食品の缶詰工場を、二十四時間、フル稼働させろ! 食料が尽きた方が負けだ!」


「お任せください!」


「アシュレイ、レオ! アシュレイ工廠も、だ! 武器と弾薬を、作れるだけ作れ! 金は、いくら使ってもいい!」


「ヒャッハー! 腕が鳴るっスよ!」

「わかった、父さん!」


「リヒター総裁! 鉄道は、これから全て、軍が優先使用する! 兵員と物資を、最速で南方へ送り届けるための、緊急列車を、今すぐ編成してくれ!」


「ははっ! 承知いたしました!」


 最後に、僕は、まだ息をのんだまま立ち尽くしているノーラちゃんを、まっすぐに見つめた。


「ノーラちゃん! 君は、この皇宮の電信室に残って、僕の目と耳になってくれ! ランベール領からの情報を、一刻も早く、僕に届けるんだ! いいね?」


「は、はいっ!」


「ユーディル、いるか?」


「はっ、ここに」


 当然のように、いつの間にかそこに居たユーディルが応える。


「敵の情報を集めろ、敵の指揮官の事が分かれば、有利になるだろう、できるか?」


「お任せください」


 矢継ぎ早に、しかし的確に下される僕の命令に、もはや、この場で僕に逆らう者はいなかった。

 リアン君のごくりと喉を鳴らす音が、やけに大きく会議室に響く。


 外から叩きつける吹雪が、カタカタと窓を鳴らしていた。


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