第234話 ええっ、ついにリアンくんがお嫁さん探し!? なんか大変なことになっちゃった!
【ライル視点】
『アヴァロン帝国歴177年 11月18日 昼 晴天』
白亜の館の庭は、今日も穏やかな秋の日差しと、家族の屈託のない笑い声に満ちていた。僕は、息子たちや娘たちと一緒になって、泥だらけになりながら畑仕事をしていた。
だが、その平和な空気を切り裂くように、街の方から、地鳴りのような、割れんばかりの歓声と喧騒が聞こえてくる。
「なんか、街がすごく賑やかだね。お祭りって予定されてたっけ?」
僕が呑気なことを言っていると、執務室の方から、皇太子である息子のフェリクスが、血相を変えて駆けてきた。その顔は興奮とも焦りの両方が浮かんでおり、手に持った『ハーグ・タイムス』が、まるで降伏の白旗のように、ぱたぱたと風にはためいている。
その、新聞の一面に躍る、恋心を煽るような、華やかなピンク色の見出しが、僕の目に飛び込んできた。
「お父さん大変だよ! スクープ! 若き皇帝リアン陛下、妃を公募! 帝都ハーグ、未曽有の愛の騒乱!」
「ええええええええっ!? 僕が冗談で言った一言が、こんなことになっちゃったのぉぉぉっ!?」
僕は、その場に崩れ落ちそうになるのを、必死でこらえた。頭を抱え、大パニックに陥る。アシュレイ、ヴァレリア、フリズカさん、ヒルデさん、ファーティマちゃん、ノクシアちゃん、そして海の向こうのシトラリちゃん……。僕自身が、これだけ多くの女性たちに慕われ、その関係性の調整に、日々、どれだけの心労を重ねていることか。この状況が、どれほど悩ましく、そして面倒な事態であるか、僕は、誰よりも、痛いほど分かっていた。
僕が一人で絶望していると、どこからともなく、黒い影がすっと現れた。ノクシアちゃんだ。
「……ライル。また、やらかしたのう。面白いのう」
彼女は、静かに状況を楽しんでいる。その隣では、娘のアウロラが、目をきらきらと輝かせながら、街の喧騒に耳を澄ませていた。
その時、庭の向こうから、格式ある黒い軍服の肩をいからせ、妻で軍の責任者でもあるヴァレリアが駆け込んできた。その顔は、睡眠不足と心労で、少しやつれている。
「あなた! 今度は、一体何をやらかしてくれたのですか!」
彼女は、街の治安維持と秩序の回復に、奔走してくれているらしかった。その剣幕に、僕は「ご、ごめん……」と、小さな声で謝ることしかできない。
だが、この未曽有の騒乱を、全く違う視点で見ている者たちもいた。
館の一室を覗くと、そこでは、アシュレイとビアンカさんが、息子のレオを巻き込んで、何やら熱心に設計図を広げている。
「これは、新たな巨大市場の誕生っスよ! 求婚者向けの公式ガイドブック! リアン皇帝陛下の肖像画入り記念メダル! いくらでも売れるっス!」
「ええ、そうですわね! レオ様、早速、試作品の開発を!」
「わかったぜ! 急いでカラー印刷ってのを開発しよう! メダルの型も作るぜ! 材質は何にしよっかな~」
彼女たちは、この状況を、またとない商機と捉えているらしい。そのたくましさには、もはや感服するしかなかった。
一方、最近建設された通信省では、フェリクスが、その能力を最大限に発揮していた。
「父さん、もうダメだ! 各地から押し寄せる女性たちとその関係者からの問い合わせで、電信回線がパンク寸前だよ!」
彼の隣では、副官であるノーラちゃんが、初めて見る『お嫁さん候補』たちの、あまりの数と熱気に、目を丸くしている。
僕の、ほんの些細な、本当に軽い気持ちの一言が、帝国中を巻き込む、巨大な『愛の騒乱』へと発展してしまった。
(うわあああ、僕、どうしたらいいんだよぉぉぉ……)
僕は、ただ、頭を抱えることしか、できなかった。
(いや、でも僕そんなに悪い事したかな? リアンくんだって結婚しなくちゃだし)
騒ぎにはなっているが、おめでたい事と考えることにした。
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