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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第232話 ヴィンターグリュンってこんなに寒かったっけ? そうだ! 通訳としてクララさんを南方のノヴァラへ送ろう!

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴177年 11月17日 昼 晴れ時々曇り』


 帝都ハーグの中央駅に、南方からの特別列車が長い汽笛を鳴らしながら滑り込んできた。ホームに降り立った瞬間、僕たちの体を突き刺したのは、懐かしくも厳しい、北国ならではの冬の空気だった。


「ううっ、寒い……! ハーグって、こんなに寒かったっけ?」


 南方で過ごした二ヶ月の間に、すっかり暖かい気候に慣れてしまった僕の体が、悲鳴を上げる。隣に立つカールくんも、ぶるりと一度大きく身震いした。


「ははっ、私もそう思います。……クシュンッ!」


 彼の若々しいくしゃみが、白い息と共に冬空へ消えていく。その時、僕たちの後ろから、まるで寒さなど意に介さないかのような、静かで、しかし威厳のある声がした。


「南方は暑いからのう。体が慣れてしまったのであろう。妾は、また白亜の館で世話になるぞ」


 振り返ると、そこには黒いローブを優雅に着こなしたノクシアちゃんと、その隣で楽しそうに笑う娘のアウロラがいた。彼女たちも、僕たちの列車に乗り込んでいた。


「おとーさん、よっろしくぅ~! レオ兄さんとフェリクスは、元気にしてるかな?」


「えっ、二人とも帰ってくるの? うれしいよ~! じゃあ、さっそく今夜は宴会を……」


 僕が、久しぶりの家族との再会に心を躍らせた、その時だった。いつの間にか僕の背後に立っていたユーディルが、静かに、しかし有無を言わせぬ響きで、僕の浮かれた気分に釘を刺した。


「閣下。それより先に、リアン皇帝陛下へ、一度お顔を見せませんと」


「……そうだった! それじゃあ、僕はちょっと皇宮へ行ってくるよ~!」


 僕は慌てて身なりを整えると、皇宮へと向かった。

 リアン皇帝の私室に通されると、そこには、若き皇帝とオルデンブルク宰相、そして、もう一人、見覚えのある女性の姿があった。新大陸への遠征で、通訳として大活躍してくれた、クララ製紙の社長、クララさんだ。


 僕は、部屋の中央へと進み出ると、リアン皇帝の前に、深くひざまずいた。


「えー、任務、成功です! リアン皇帝!」


 僕の、少しだけ芝居がかった報告に、リアン君は、玉座の上でくすくすと笑った。


「ははっ、いつも通り『リアン君』で良い。それに、そなたが畏まっても、様になっておらぬな」


「あっ、はい。しかし、僕も四十一歳になって、また外へ任務に行くとは思いませんでしたよ! でも、南方は暖かかったです! あとは、ノヴァラの民の言葉さえわかれば、本格的な外交ができそうです!」


 僕がそう言うと、オルデンブルク宰相が、待っていましたとばかりに、深く頷いた。


「それに関しては、すでに人材を呼んでおる。クララ夫人、頼めますかな?」


 宰相に促され、クララさんが、おずおずと一歩前に進み出た。彼女は、少し前におめでたがあったと聞いていたが、その柔和な表情には、母としての優しさが加わり、以前にも増して、穏やかな雰囲気をまとっている。


「あっ、はい。お話は、だいたいうかがっております。ノヴァラの民の言葉が分かるように、通訳できれば良いのですよね?」


(そういえば、アシュレイとヴァレリアが、お祝いを届けたって言ってたなあ。僕は、こういうことに、本当に気が回らないんだよね……)


「そうそう! 新大陸でやったみたいに、うまくできませんか?」


 僕が尋ねると、クララさんは、にこりと微笑んで頷いてくれた。


「はい、いいですよ。ただ、その……まったく知らない土地ですので、少し怖いというか、なんというか……」


 彼女の、正直な不安。僕は、すぐに、一つの名案を思いついた。


「それなら、ヴィンターグリュン陸軍二千と、指揮官としてカールくんをつけましょう! 彼なら、絶対に君を守ってくれるはずだ! ……あっ、カールくん、今回の功績もあるし、後で昇進させてあげないといけないなあ……」


 僕の提案に、リアン君も満足げに頷いた。


「ふむ、話はまとまったようだな。オルデンブルク宰相、これで良いな?」


「はっ。特に、問題ございませぬ」


「じゃ、僕はこれで~!」


 話がまとまった途端、僕はそそくさと部屋を出ていこうとした。一刻も早く、家族が待つ白亜の館へ帰りたかったのだ。だが、そんな僕の背中に、リアン君の、楽しげな声がかけられた。


「うむ、ライル。後で、闇バーでも行かんか? パパ友の会でも良いぞ?」


「ははっ、それならリアン君も、そろそろ結婚して、子供でも作ったら? そうしないと、パパ友の会では、浮いちゃうよ!」


 僕の、ほんの軽い冗談のつもりだった。だが、その一言に、リアン君は、ぐぐっ、と、これまでにないほど、真剣な顔で押し黙ってしまった。


「……ぐっ。痛い所を、つかれたな。それも、そうか……」


 僕は、そんな彼の様子に気づきもせず、手をひらひらと振りながら、皇帝の私室を後にした。

 僕の、本当に、何気ない一言が、この後、帝国全土を揺るがす、大きな波紋を呼ぶことになるなんて。

 この時の僕は、まだ、知る由もなかった。

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