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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第23話 東の国があぶない? 肉とポテトを送るといいと思うよ!

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴158年 1月10日 朝 雪』


 ハーグの冬は、静かだった。だが、その静寂は、帝都から届けられた一通の勅書によって破られた。皇帝陛下の、あまりに無茶な命令。東の砂漠の民を、食料で懐柔せよ、と。


「またしても皇帝陛下の無茶振りですね。ですが、東方交易路の独占権は、確かに魅力的です」


 ヴァレリアが、深いため息をつきながらも、その戦略的価値を認めている。


「砂漠の国ですか! 我々の知らない、新しい鉱石や薬草があるかもしれませんね! 面白そうです!」


 アシュレイは、すでに知的好奇心で目を輝かせていた。

 僕は、皆の顔を見回して、いつもの調子で言った。


「うーん……つまり、東の国が危なくて、お腹を空かせているんだよね? だったら、僕たちの作ったお肉とポテトを、たくさん送ってあげるといいと思うよ!」


 僕のあまりに単純な結論に、ヴァレリアはもう何も言うまいと首を振った。

 こうして、東の砂漠の国『サラム王国』へ、食料支援の使節団を送ることが決まった。外交の駆け引きに長けたユーディルを代表とし、その護衛兼軍事顧問としてヴァレリアが同行する。僕は、皇帝陛下からいただいた大豆とタバコの栽培準備があるから、という名目で、ハーグで留守番をすることにした。


 数日後、大量のポテトと、燻製にされた『ハーグ黒豚』を満載した荷馬車の隊列が、東を目指して出発していった。その長い列を見送りながら、僕はただ、無事に帰ってきてくれることだけを祈っていた。


 それから、数週間が過ぎた。

 吹雪の止んだある日の午後、一頭の早馬が、息も絶え絶えにハーグの城門へと駆け込んできた。ユーディルからの、緊急の報告書だった。僕は、執務室で仲間たちが見守る中、その羊皮紙の封を切った。


『――ライル様、ご報告申し上げます。我ら使節団は、無事、サラム王国の王都に到着いたしました。道中、国境付近で目にしたのは、飢えに苦しみ、やせ細った民の姿。我らが食料を配給すると、彼らは涙を流してひれ伏し、ライル様の名を救世主として讃えておりました』


 報告は、ヴァレリアの力強い筆跡で続けられていた。


『サラム王国のラシード王は、我らを国を挙げて歓迎。その夜に開かれた宴の席で、王は我々の前に進み出て、深々と頭を下げられました。「北方の王、ライル様の海よりも深いご慈悲に、心より感謝申し上げる。この御恩に報いるため、我が国で最も大切な宝を、ライル王に献上したい」と』


(宝? なんだろう……金銀財宝かな?)


 僕がそう思った次の瞬間、報告書の内容に、僕は目を疑った。


『王が合図をすると、薄絹のヴェールをまとった、美しい王女が現れました。名は、ファーティマ様と申すそうです。そして、ラシード王は高らかに宣言されました。「我が娘、ファーティマを、偉大なるライル王の妃として、お受け取りいただきたい!」と……』


「ええええええええっ!?」


 僕は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


『(ここからは、ユーディルの追伸です)……とのことでございます、ライル様。正直、我々も当惑しております。丁重にお断りしようと試みましたが、ラシード王は「我が娘を受け取っていただけぬのなら、我らが示す感謝の誠意は偽りということか! それは、両国の友好を望まぬという意思表示と受け取るぞ!」と、聞く耳を持ちません。議論の末、最終的に、ひとまずファーティマ王女をハーグへお連れし、ライル様ご自身のご判断を仰ぐ、という形で話がまとまりました。近日中に出発し、ハーグへ帰還いたします。ご指示を……』


 報告書を読み終えた僕の頭は、完全に混乱していた。


(またお嫁さん!? しかも今度は東の国の王女様!?)


 僕が頭を抱えていると、話を聞いていたフリズカとヒルデが、なんとも言えない複雑な表情で、顔を見合わせている。


「すごいですね、ライルさん! ついにハーレムじゃないですか! 国際的ですね!」


 アシュレイだけが、無邪気に目を輝かせている。その隣では、いつの間にか現れたノクシアが、黙って僕の服の袖を、きゅっと掴んでいた。


「ど、ど、どうしよう、みんな……!?」


 僕が本気でうろたえていると、ヴァレリアの報告書を読んでいたフリズカが、ぽつりと言った。


「……サラム王国は、古くからのしきたりを重んじる国。王女を差し出すというのは、彼らにとって最大の敬意と、完全なる服従の証なのでしょう」


「……つまり、断れば、友好関係にひびが入る、と」


 ヒルデも、静かに続けた。


 僕は、もうわけがわからなくなって、叫ぶように言った。


「まあ、とりあえず……会ってみないと、何もわからないよね……!?」


 またしても、問題を先送りにするような結論しか、僕には出せなかった。

 ユーディルとヴァレリア、そして僕の顔も知らない、東の国の王女様。彼らがハーグに到着するのを、僕たちは、なんとも言えない複雑な気持ちで待つことになった。


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― 新着の感想 ―
一回の収穫でどれだけ芋が採れたのよw もう数年だったいるのか?
ん?いつの間にか結婚してる?それともまだ独身?
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