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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第229話 ビアンカ食品~缶詰製造ラインが儲かりそうなので独立してみました~

【ビアンカ視点】


『アヴァロン帝国歴177年 10月1日 昼 秋晴れ』


 どこまでも高く澄んだ秋晴れの空。絶好の商談日和ですわね。

 私は今日、東方から取り寄せたばかりの極上の茶葉を手土産に、白亜の館を訪れておりました。新しい流行のタネを蒔き、そこから生まれる利益を刈り取る。それが私の仕事であり、何よりの喜びなのですから。

 ですが、談話室の扉を開けた瞬間、私の優雅な午後のティータイム計画は、けたたましい絶叫によって粉々に打ち砕かれました。


「はぁ~!? また南方に缶詰と酒を送れってことっスか? もうやってらんないっスよ!」


 声の主は、ライル様の奥方様にして、アシュレイ工廠の頭脳、アシュレイ様。彼女は一枚の電信文をくしゃくしゃに握りしめ、獣のように部屋の中をぐるぐると歩き回っておりました。その隣では、皇太子のフェリクス殿下が、まるで嵐に翻弄される小舟のように、なすすべもなく立ち尽くしています。


「どうかなさいましたの、アシュレイ様? 何か、面白いことでも?」


 私がにこやかに声をかけると、アシュレイ様は救いを求めるように、涙目でこちらに駆け寄ってきました。


「ビアンカさん! 聞いてほしいっスよ! うちの旦那が、また無茶なこと言ってきたんス! 宴会でもする気かっスか!?」


 フェリクス殿下が、ぐったりとした顔で、その電信文を私に見せてくれました。


「……なるほど。『一万人が一か月、宴をできるぐらいの糧食』ですか。これはまた、景気の良いお話ですわね」


 私の頭の中では、瞬時にそろばんが弾かれます。缶詰の単価、輸送コスト、そして南方での需要……。これは、とんでもない利益の鉱脈ですわ!


「もう缶詰の生産ラインを眺めるのは飽きたんスよ~! 私はもっとこう、ドカーン! といくような新しい発明がしたいんス~!」


 発明家としての魂の叫びを上げるアシュレイ様。その姿は、私にとって、金の卵を産むガチョウが「もう卵は産みたくない!」と駄々をこねているようにしか見えません。


(……でしたら、そのガチョウごと、私がいただいてしまいましょうか)


 私は、聖母のような慈愛に満ちた笑みを浮かべました。


「あらあら、お困りのようですわね。よろしかったら、そのお悩み、この私が解決してさしあげましょうか?」


「え、いいんですか?」

「マジっスか!?」


 二人が、砂漠でオアシスを見つけた旅人のような目で、私にすがりついてきます。


「ええ、もちろん。その代わりと言っては何ですが……アシュレイ工廠の食料品製造ラインを、丸ごと私に売っていただきたいのです」


 私がそう切り出すと、フェリクス殿下は「そ、それはあまりに大きな話では……」と慎重な姿勢を見せます。ですが、アシュレイ様は、もはや聞く耳を持ちませんでした。


「売る売る! 売るっスよ~っ! なんなら、今すぐ契約書にサインするっス!」


 こうして、私のカバンの中に『偶然』入っていた事業譲渡契約書に、アシュレイ様が涎を垂らしそうな勢いでサインをし、帝国でも類を見ない超大型取引が、お茶の時間よりも早く成立してしまったのです。

 その日から、アシュレイ工廠の食料部門は、私の新たな会社……その名も『ビアンカ食品』となりました。


 その日の午後、私は手に入れたばかりの工場の生産ラインを、満足げに眺めておりました。規則正しく動く機械の音、立ち上る湯気、そして、市民たちの活気。その全てが、私の商人としての血を、熱く滾らせます。


「そうね……まずは、人員を倍にして、生産ラインを三倍に増設! 給与も上げて、二十四時間フル稼働させましょうかしら! 求人も出さなくちゃ! ああ、燃えるわ~っ!」


 私は、新たな野望を胸に、工場長のいる部屋へと、ハイヒールを高く鳴らしながら、向かうのでした。

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「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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