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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第224話 カール、南方での任務

【カール視点】


『アヴァロン帝国歴177年 9月1日 朝 快晴』


 俺はカール、ヴィンターグリュン王国の騎士だ。階級は少尉。


 ヴィンターグリュン王国で最近導入された階級制度において、少尉はいわゆる兵とは違う、士官という身分だ。そのため俺の軍服は、兵のそれとは少し違う。肩には飾りがついており、階級章には銀色の線が一本入っている。階級が高くなると線が増えたり、金色になったりするらしい。ヴァレリア様の軍服には金の星がいくつも付いていたから、星が付くような偉い人たちもいるのだろう。


 幼いころにライル様やヴァレリア様に憧れて騎士になったものの、今では皆、かつて騎士が着ていたような重い鎧を身につけてはいない。皆が着ているのは、動きやすい茶色っぽい軍服だ。


 そんな俺たちの部隊に与えられた任務は、アヴァロン帝国の南方に位置するランベール領の、さらに南端で発見された石炭鉱脈の調査と護衛だった。ランベール領で雇った坑夫や人足と共に、ヴィンターグリュンから派遣された俺たち騎兵隊二〇騎が、鉱脈の安全を確保するという形だ。


 しかし、暑い……。九月に入ったというのに、ランベール領の南方では、まるで真夏のようだ。とはいえ、ヴィンターグリュンでは八月を過ぎると一気に寒くなる。この暑さも、南の気候なのだろう。それでも、馬に乗っているだけの俺たちはまだいい。そう思って坑夫や人足たちを見ると、皆、涼しそうとまではいかずとも、普通の顔をしていた。彼らにとっては、この程度の暑さは日常なのだろう。


「カール様、石炭を見かけたという山が近づいてきましただ!」


 馬上の俺に、坑夫のゲラルトが汗を拭いながら声をかけてきた。


「おお、ようやく着くのか! まったく、鉄道でもあれば楽に来れるというのにな……」


 俺のぼやきに、ゲラルトは目を輝かせて頷いた。


「ははっ、そいつぁいいですなあ。鉄道があれば、坑道での作業や運搬も楽になるだよ」


 冗談のつもりだったが、ゲラルトの言葉は俺に新しい着想を与えた。


「むっ? それは本当か?」


「んだ! 最近ではトロッコっちゅうもんが、ランベール領では使われているだよ!」


「むぅ。これは今日の定時報告で報告しておくか」


 会話を交わすうちに、周囲は鬱蒼とした森へと変わっていった。日差しが少し和らいだが、今度はうすら寒いような、奇妙な空気が俺の肌を粟立たせた。


(なんだ? この空気は……そうか、スカルディア塹壕戦で感じたあの空気だ)


 俺はスカルディア塹壕戦では、ヴァレリア様の副官として前線で戦っていた。この肌が覚えている感覚は、戦場で死と隣り合わせだったあの日の記憶だ。言葉では説明できないが、この首筋にひりつくような感覚は、理屈ではない。暑さとは違う汗が、背中を伝う。


(何か、いる)


 俺は直感的にそう感じ、号令をかけた。


「総員、警戒、銃をとれ。セーフティはまだ外すなよ」


 俺がそう命じた時だった。


〈ヒュンッ!〉


「ぐあっ!」


 不気味な風切り音が響き、俺たち騎兵隊の一人の腕に矢が刺さった。


(いかん! 敵の位置が見えない! ここは引くか!)


 瞬時の判断で、俺は撤退を命じた。


「総員、撤退! 坑夫と人足たちはランベールまで走れ、走れ、走れ! 騎兵隊は各自の判断で撃ってよし!」


 にわかに始まった戦いであったが、敵は深追いしなかったらしく、俺たちは無事ランベール近郊の村まで撤退に成功した。


 しかし、安心したのも束の間だった。


「カール少尉! ヨアンが馬から落ちました!」


 ヨアンは腕に矢を受けた騎兵隊員だ。俺は馬から飛び降りると、彼の元へ駆け寄った。


「どけ! 俺が手当をする!」


 俺は荒々しくも救急キットにあるハサミでヨアンの軍服の腕の部分を裂いた。すると、彼の腕は紫色にまがまがしく染まっていた。


「これは、毒か!」


 村人たちがざわめく。


「これは……ノヴァラの毒……」

「ああ、村のみなで心配したいたのに」

「南はノヴァラの領地が近い……」


 ヨアンは激痛に耐えきれず、うめく。


「おかあさん、おかあさん、痛いよ……」


 村人の家を借り、できる限りの手当をしたが、ヨアンはそのまま息を引き取ってしまった。


「クソッ!」


 俺は荒々しくテーブルを叩いた。自分の無力さに、深い怒りと悔しさが込み上げてくる。


 ヨアンの遺体を前に、一つの決意を胸に秘めた。


「俺は、必ず仇を討つ! 先にあの世で待ってろヨアン!」


 だが、その決意は、俺の個人的な感情によるものに過ぎなかった。それを、どうやってライル様に説明すればよいのか。俺は、故郷の英雄の、あまりに巨大な影を、強く意識せざるを得なかった。


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