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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第192話 辞令 フェリクス ハーグへ帰還しようとする。ちょっと! キレイなお姉さんに囲まれたんですけどぉ!?

【フェリクス視点】


『アヴァロン帝国歴175年 12月20日 朝 スース役所 冬晴れ』


 コンコン、と控えめなノックの音で、僕の一日は始まった。


「総督様、郵便でございます!」


「ああ、ありがとう。入ってくれ」


 いつの間にか、すっかり僕の部下のようになったゴードンが、数通の手紙を手に部屋へ入ってきた。

 僕が総督としてスースに赴任してから、もう半年が経つ。ハーグで可決された予算のおかげで、あのボロボロだった役所も、今では白い壁に木の床が映える、こぎれいな建物に生まれ変わっていた。僕が眠っていた総督私室のベッドもふかふかの新品だ。


「ふわあああああっ、もう朝かぁ~」


 新品のカーテンを開けると、冬の澄んだ光が部屋に差し込んできた。少しだけ、まだこの綺麗すぎる部屋に馴染めないでいる自分がいる。


『コンコンコンッ』


「ゴードン、おはよう」


「総督、おはようございます。こちら、ハーグからの郵便ですよ」


 最近、オルデンブルク宰相が始めたという、この公共郵便事業のおかげで、遠く離れた街とのやり取りが、驚くほど早くなった。


「今日も、水道を引いてくれてありがとう、っていう手紙かな? それとも、うちの地区にも早く水道を引いてくれ、っていう催促の方かな?」


 しかし、ゴードンが差し出した封筒は、いつもの感謝の手紙とは、明らかに様子が違った。象牙色の分厚い紙に、ヴィンターグリュン王国とアヴァロン帝国の紋章が、金色で物々しく印刷されている。


「ふむ、なんだろう?」


 封を切ると、中には二枚の手紙が入っていた。

 一枚は、帝国と王国の共同人事部からで、『スースの暫定統治任務を解き、速やかにハーグへ帰還せよ』という、簡潔な辞令だった。

 そして、もう一枚は、父さんからの、実に父さんらしい私的な手紙だった。


『おーい、フェリクス。父ちゃんだよ。最近、ノーラちゃんが寂しがってるから、そろそろ帰っておいで~! あと、もうすぐ正月だから、一緒に新しいバーボンでも飲もうぜ! 白亜の館で、みんなで待ってるよ~』


(そっか……。僕がスースに来てから、もう半年も経つのか。うん、水道もだいたい街の主要部には通ったし、そろそろ帰ろう!)


「ゴードン。僕は、ハーグへ帰ることになったよ。水道の残りの工事の面倒は、君に任せる。給金は、新しく来る総督に、ちゃんと請求してくれ」


「……な、なんてこった~! フェリクス様が、このスースから出ていかれちまうだなんてぇ~っ!」


 僕が言い終わるか終わらないかのうちに、ゴードンは絶叫しながら、外へ走り出してしまった。


 そして、その大声が、この街の、眠れる獅子たちを起こしてしまったらしい。

 僕が、帰りの荷物をまとめていると、役所の外が、にわかに騒がしくなった。窓から見下ろすと、役所の前を、この街の自慢(?)である、夜の蝶たちが、すごい勢いで取り囲んでいる。


「ねえ、ちょっと、フェリクス様! まだ、シてないんでしょ? サービスしてあげるから、お姉さんが、ぜーんぶ、し・て・あ・げ・る」

「ずるーい! アタシが先よ! ねえ、フェリクス様のおかげで、毎日綺麗なお湯で体を洗えるようになったの。病気の娘も減ったのよ~! 感謝してるんだから!」

「あらあら、それだったら、アタシたち夜の女は、みんな感謝してるわよ? 総督様が望むなら、三人いっぺんだって、構わないのよぉ~?」


 妖艶な巨乳のお姉さん、元気なロリ風のお姉さん、そして色っぽい適乳のお姉さん。三人は、僕が部屋から出てきた途端、僕にむんずと掴みかかると、僕のシャツを乱暴にはだけさせ、その内側へと手を伸ばし、胸をわしわしとまさぐってきた。


「うっ、うわああああっ、ノーラちゃん助けてぇ~っ!」


 僕の、魂からの悲鳴。その、あまりに情けない叫びに、お姉さんたちの動きが、ぴたりと止まった。


「あら、決まった人がいるんだ?」

「なーんだ、残念。アタシたちが、とっくに無くしちまったもんだね」

「ふふっ、その娘、大事にしてあげなさいな」


 彼女たちは、そう言うと、今度はさっきよりもずっと優しく、僕の乱れた服を、丁寧に整えてくれた。


 僕が駅へ向かう道中は、さながら凱旋パレードのようだった。

 道行く人々が、店の窓から、娼館のガラスケースの中から、みんな手を振って、僕を見送ってくれる。横を歩くゴードンと、その手下たちが、男泣きに泣いているので、それをなぐさめるのが、少しだけ大変だったけれど。


 やがて、駅に着く。

 列車に乗り込み、窓から身を乗り出すと、僕は、この街で過ごした、不思議な日々に、手を振りながら別れを告げた。


「長いような、短いような。なんだか、本当に不思議な仕事だったなあ」


 冬晴れの、控えめだが温かい日差しが、僕の頬を、優しく照らしていた。

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