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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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182/278

第182話 オラが村にも列車が来ただ! ~出会い~

【とある村の女の子ノーラ視点】


『アヴァロン帝国歴175年 2月14日 昼 晴れ』


 これは、オラがまだ、ただの村娘だった頃の話。


 オラの村にも、ついに鉄の道がやってきた!

 初めて黒い煙を吐く鉄の馬車が、大きな音を立てて村の駅に滑り込んできた日、村中の大人も子供も、みんなで手を振って大騒ぎしたんだ。


 その日から、列車はオラの、一番の友達になった。

 毎日、毎日、丘の上から、遠くの街へと走っていく列車の姿を眺めるのが、オラの日課になった。ガタン、ゴトン……。あの、規則正しくて、力強い音が、オラは大好きだった。


 ところが春を前にしたある日、オラは、いつもの音と、何かが違うことに気が付いた。

 なんだろう……。いつもより、少しだけ甲高いような、どこか苦しそうな音が混じっている気がする。


 オラは、すぐに駅にいる駅員のおじさんのところへ、駆け込んでいった。


「おじちゃん! 列車の音が、なんだかおかしいよ!」


「ん? ああ、ノーラちゃんか」


 駅員のおじさんは、オラの頭を優しく撫でて、にこりと笑った。


「すごいねえ、ノーラちゃんは。昨日、車輪を新しいのに取り換えたんだけど、それに気づくなんて、本当に列車が好きなんだな。偉い、偉い」


 そう言われるだけだった。

 他の大人たちに言っても、みんな同じような反応だった。子供の気のせいだって、誰も、本気で聞いてはくれない。


(……違うのに。絶対、おかしいのに……)


 オラは、悔しくて、唇をきつく噛み締めた。


 そんな日が、何日か続いたある日のこと。

 いつものように、丘の上で列車を眺めていたオラの隣に、ふらりと、一人の青年がやってきた。少し良い服を着ていて、その顔は、なんだか、すごく優しそうだった。


「こんにちは。君も、列車が好きなのかい?」


 その声に、オラは、なぜか、この人なら信じてくれるかもしれない、と思ったんだ。


「オラ、列車の音がおかしいのに気づいた!」


 オラがそう言うと、青年は、驚いたように目を見開いた。そして、馬鹿にしたり、笑ったりしないで、オラの前にしゃがみ込むと、まっすぐに、オラの目を見てくれた。


「どこが、おかしいと思ったんだい?」


「おかしいのは、車輪じゃないの!」


 オラが必死に言うと、青年は、少しだけ考えて、静かに頷いた。


「駅員さんから、車輪を付け替えたとは聞いたけど……。君は、それとは違う音がする、って言うんだね」


「うん! ちがうの、車輪じゃないの!」


 青年は、オラの真剣な瞳をじっと見つめ返すと、やがて、にこりと、優しく微笑んだ。


「わかった。君の言うことを、信じるよ。僕と一緒に、駅へ行こう」


 それから、本当に、列車の詳しい点検が行われた。

 駅員のおじちゃんたちは、最初こそ「坊ちゃんが、また子供の戯言を……」なんて顔をしていたけど、点検をしていた整備士の人が、血相を変えて叫んだんだ。


「こ、これだ! 車軸の部品が、上下逆に取り付けられている! このまま走っていたら、大事故になっていたぞ!」


 その言葉に、大人たちは、みんな真っ青になって、今度は、驚いた顔でオラのことを見ていた。


 大急ぎで、部品の交換が行われた。

 しばらくして、駅のホームに、いつもの、あの元気で、力強い音が戻ってきた。


(……よかった)


 オラが、ほっと胸をなでおろしていると、さっきの青年が、オラの隣にやってきた。


「君のおかげだ。ありがとう。僕の名前はフェリクス。また、この村に来るよ」


 彼はそう言うと、少しだけ考えて、実に楽しそうに、にっと笑った。


「そうだ、君、ハーグの学校に通ってみないかい? 君のその耳と、物事を注意深く見る目は、きっと、たくさんの人の役に立つはずだ。……ああ、まだ君の名前を聞いていなかったね」


 オラは、胸を張って、元気いっぱいに答えた。


「オラ、ノーラ!」


 こうして、オラは、ハーグの学校に通うことになった。

 ハーグ。その名前だけは、オラも、前から知っていた。

 だって、大好きな列車に、いつもそう、書いてあったから。

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