表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

181/279

第181話 玉座の隣にある、当たり前の奇跡 新時代だなぁ!

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴175年 1月1日 夜 快晴』


 帝都ハーグの新しい皇宮。その最も壮麗な大広間は、新年を祝う、まばゆい光と人々の熱気に満ちていた。

 磨き上げられた大理石の床、天井からは巨大な水晶のシャンデリアが輝き、壁にはヴィンターグリュン王国の青地に金色のグリフィンが描かれた旗が、帝国の黄金の竜の旗と並んで、誇らしげに掲げられている。


(うわあ……。僕の城だった場所が、こんなにピカピカになっちゃって……)


 僕は、少しだけ落ち着かない気分で、その光景を眺めていた。今日の主役は、僕じゃない。僕の後ろで、緊張に顔をこわばらせながらも、まっすぐに前を見据えている一人の少年。僕の愛する息子、フェリクスだ。


「……父さん。僕、大丈夫かな」


「大丈夫、大丈夫。リアン皇帝も、きっと喜んでくれるよ」


 僕がその小さな背中をぽんと叩くと、フェリクスはこくりと頷き、決意を固めたように、玉座の前へと進み出た。

 玉座には、この帝国の若き支配者、リアン一世陛下が、少しだけ退屈そうに、しかし確かな威厳をたたえて座っている。


 フェリクスは、玉座の前で、流れるような完璧な所作でひざまずいた。その姿は、母親であるヴァレリアの、若い頃にそっくりだった。


「リアン一世陛下に、申し上げます」


 まだあどけなさは残るが、その声は、はっきりと大広間の隅々まで響き渡った。


「このフェリクス・フォン・ハーグ、本日をもって十五歳となりました。これよりは、ヴィンターグリュン王国の皇太子として、そして帝国の次期侯爵として、父ライル・フォン・ハーグの名に恥じぬよう、帝国の、そして王国の発展に、この身命を賭して尽くすことを、ここに固く誓います」


 その、あまりに立派な挨拶。

 僕は、ただ胸がいっぱいになって、息子の成長を、そしてその隣で誇らしげに涙を浮かべているヴァレリアの横顔を、じっと見つめていた。

 リアン君は、玉座の上で、にこりと実に嬉しそうに笑った。


「うむ! フェリクスよ、その誓い、確かに聞き届けたぞ!」


 彼はすっと立ち上がると、フェリクスの前まで歩み寄り、その肩に優しく手を置いた。


「朕の父ユリアンも、きっと喜んでおるだろう。ライルさんの息子で、ヴァレリアさんの息子でもある君が、この国の未来を担ってくれるのなら、朕は何も心配することはないな。これからの活躍、期待しているぞ!」


 その言葉と共に、広間は割れんばかりの拍手に包まれた。ランベール侯爵やヴェネディクト侯爵、そして、かつては敵対した東方諸侯たちまでもが、帝国の盤石な未来を確信し、心からの賛辞を送ってくれていた。


 公式な儀式が終わり、パーティーが和やかな雰囲気へと移った、その時だった。

 リアン君が、悪戯っぽい笑みを浮かべて、僕の腕を掴んだ。


「さあ、ライルさん! ここからは、僕たちの出番だ!」


 彼に引っ張られて連れてこられたのは、広間の隅に特設された、豪華なバーカウンターだった。僕とリアン君は、お揃いの白い上着を羽織ると、カウンターの内側に並んで立つ。


「「ようこそ! 【バー】ライル&リアンへ!」」


 僕たちが声を揃えると、会場から、どっと笑い声が上がった。

 カウンターの前には、僕の愛する妻たちが、期待に満ちた顔でずらりと並んでいる。


「ライル! 私には、いつものバーボンをロックでお願いするっス!」


「陛下、私は、南方の果実をたっぷり使った、甘いカクテルをいただきたいですわ」


 アシュレイとヴァレリアの注文に、僕とリアン君は顔を見合わせて、にやりと笑う。


「「お任せを!」」


 シャカシャカシャカシャカ!

 二つのシェイカーが軽快なリズムを刻み、美しい弧を描く。色とりどりのリキュールがグラスの中で混ざり合い、魔法のようにきらきらと輝く一杯へと、姿を変えていく。

 レオとフェリクスが、目を輝かせてその光景に見入っている。他の貴族たちも、友人たちも、皆笑顔で僕たちの即席カクテルショーを楽しんでくれていた。


(……そっかあ)


 僕は、このあまりに幸せな光景を、目に焼き付けた。

 僕の人生は、確かに、たった一本の槍を投げたことから始まった、偶然の連続だったかもしれない。でも、今この場所にある、この温かくてかけがえのない日常は、僕が、僕たちみんなで、必死に守り、作り上げてきた、確かな『奇跡』なんだ。


「はい、お待たせ! 僕たちの友情の証だよ!」


 僕は、出来上がったカクテルを、カウンターの向こうにいる愛する人たちへと、最高の笑顔で差し出した。

 僕の成り上がり英雄譚は、きっと今日で終わり。

 ここからは、この玉座の隣にある、当たり前で、そしてかけがえのない奇跡の毎日を、ただ大切に生きていくだけだ。

「とても面白い」★四~五を押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一~二を押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ