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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第174話 香辛料の国と、甘い花の香り

【マルコ・フォン・ブラント視点】


『アヴァロン帝国歴172年 10月10日 ゼナラ王国 首都サファリダ沖』


 ヴィンターグリュンを出航してから、数ヶ月。


 私たち、新生マルコ探検艦隊は、ついに、最初の目的地である、香辛料の国『ゼナラ王国』の沖合へと到達した。

 首都サファリダの港に近づくにつれ、潮風に乗って、本来ならば、鼻をくすぐるはずの、様々なスパイスの、芳しい香りが漂ってくるはずだった。

 だが、俺の鼻腔を撫でたのは、それとは全く違う、どこか、甘く、そして、人を惑わすような、奇妙な花の香りだった。


(……なんだ? この匂いは……)


 港に上陸した俺は、その違和感の正体を、すぐに知ることになった。

 街の郊外に広がる畑。そこには、香辛料の木々ではなく、一面に、見たこともない、赤や紫の、美しい花が、咲き乱れていたのだ。


(……これはルフェン草か!? 確かアズトラン大陸にも自生していて、麻薬の原料になるはずだ……)


 その妖艶な光景に、俺は、言いようのない不審感を覚えた。


 街の中は、表面的には、活気に満ちているように見えた。だが、道行く人々の目は、どこか虚ろで、その足取りは、地に足がついていないかのように、ふらふらとしている。


 港の区画へ向かうと、そこには、茶の国の船から降ろされた、山のような茶の箱と、そして茶の国への輸出用と思われる先ほどの、妖しい花の蜜から作られたのであろう、茶色い塊……『ルフェン』の樽が、無数に並んでいた。


(……そういう、ことか)


 この国は、茶を輸入するために、銀を使い果たしたのだろう。そして、その穴を埋めるために、人の魂を蝕む麻薬を、『茶の国』へと、輸出しているのだ。


 俺は、吐き気を催すような、この取引の現実に、背筋が凍るのを感じた。


(……だが、今は、深入りすべきではない)


 俺の目的は、あくまでも、『茶の国』へ行くこと。この、腐敗した中継地で、余計な騒ぎを起こすわけにはいかない。


 俺は、乗組員たちに、街での自由行動を固く禁じると、最低限の水と食料の補給だけを済ませ、すぐに出航の準備を命じた。とは言え、船倉にはまだまだヴィンターグリュン産の缶詰がギッシリとある。補給に不足は無かった。



「……急ぐぞ。この街は、長居する場所じゃない」


 背後で、甘い花の香りが、まるで亡霊のように、私たちを誘っているような気がした。私は、その不吉な香りから逃れるように、意気揚々と、次の目的地である、東の『大暁帝国』こと『茶の国』を目指した。


 この時、私はまだ、知らなかった。

 私が、今、背を向けたこの甘い毒が、冒険の最大の障害となって立ちはだかることになるということを。


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