表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/279

第166話 諸侯、ライルとリアン皇帝の仕事ぶりを検証する オルデンブルク宰相、頼みましたぞ!

【オルデンブルク前宰相視点】


『アヴァロン帝国歴170年 8月21日 晴れ 帝都執務室』


『ライルさんと出ます。探さないでください』


 若き皇帝陛下、リアン様の執務机の上に、ぽつんと置かれていた置き手紙。その、あまりに子供じみた文面に、この老いぼれは、思わず苦笑を禁じえませんでした。

 まるで、今は亡き先帝、ユリアン陛下の生き写し。あの御方も、こうして、よくハーグへと出かけておりましたな……。


(やれやれ。残された我らは、どうしたものか)


 事情が分からず、右往左往する諸侯たち。彼らをなだめ、この帝国の舵取りを預かるのが、再び宰相の任についた、わたくしの仕事にございます。


「これだから、あの田舎侯爵は! 陛下を唆し、政務を放棄させるとは、言語道断!」


 案の定、西方のヴェネディクト侯爵が、ここぞとばかりに悪態をつきます。本人がいないのをいいことに、言いたい放題。その剣幕に、さすがのランベール侯爵も、身内とはいえライル様をかばいきれず、苦言を呈しておりました。


「ううむ……。摂政としての、自覚が足りぬと言われても、仕方あるまい……」


「まあまあ、皆様、お静まりに」


 そこで、このわたくし、オルデンブルクが一つ、提案をいたしました。


「まずは、ライル閣下と陛下が、これまでどのようなお仕事をなされてきたのか。その書類を、皆様で検分いたしましょう。それからでも、非難するのは遅くありますまい」


 そうして始まった、仕事ぶりの検証。

 ……そして、それは、想像を絶するほど、ずさんなものでございました。


 帝都の歴史ある学術院の、雨漏りする屋根の修繕費は、予算不足を理由に却下。その一方で、ハーグに新設された公衆浴場の、維持管理費には、必要額の三倍もの予算が承認されておる。

 かと思えば、東方諸侯領への農業支援に関する重要な案件が、理由も記されぬまま、却下されている。

 書類を見ていた諸侯たちは、それぞれが自らの領地を経営する、いわば行政の専門家。このような杜撰な書類仕事には、慣れておりました。


「見たまえ! これが、あの男のやり方だ!」

「私情と、好き嫌いだけで、国政を歪めているとしか思えん!」


 まるで、悪魔の首でも取ったかのように、ライル様を非難する諸侯たち。その声が、頂点に達した、その時。

 わたくしは、書類の山の中から、一枚の、ひときわ分厚いファイルを見つけ出しておりました。


「諸侯たち、少し騒ぎすぎだ。いいか、この際だからハッキリ言っておく。皇帝陛下や宰相たるものは、大きな判断を間違わなければ良い。そしてこの書類を見よ! これは正しい。よってワシはリアン皇帝とライル殿を支持する!」


 わたくしが、そのファイルをテーブルの中央に叩きつけるように置くと、皆が息をのみました。

 そこには、ユリアン前皇帝の時代からの悲願であった、『新大陸アズトラン帝国との永久友好及び、通商に関する条約締結書』が、両国の皇帝およびヴィンターグリュン王国の、荘厳な署名と共に、ファイリングされておりました。


「おぬしらに、このような大事ができるのか?」


 わたくしが、少しだけ凄みを利かせると、あれほど騒がしかった諸侯たちが、たじろぎます。


「それに……この、却下されたという書類。中には、それぞれの領内で処理すべき、些末な案件も多いと見える。まさかとは思うが、その方ら、ライル殿をわざと困らせるために、このような雑務を、山と送りつけてはおらぬだろうな?」


 諸侯たちは、完全に沈黙いたしました。そして、一人、また一人と、バツの悪そうな顔で、捨て台詞を残して、部屋から逃げ去ってしまったのです。


(やれやれ、手のかかる子供たちよ……)


 一人になった執務室で、わたくしは、深いため息をつきました。


「さて、今回はワシが、リアン陛下を迎えにゆかねばならぬだろうな」


 わたくしは侍女を呼ぶと、北の都ハーグへの、長い旅の支度を始めさせたのでございます。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ