第163話 【第一章 僕とユリアン皇帝 完】エピローグ 玉座の隣にある日常 【帝位継承戦争編 ~偽りの正義と玉座の空~ 終盤 帝国の審判 閉幕】
【ライル視点】
『アヴァロン帝国歴170年 7月10日 帝都執務室 快晴』
帝国の摂政に就任してから、数ヶ月が過ぎた。
僕の目の前には、相変わらず、山のような決裁書類が積まれている。東方諸侯領の復興支援計画、新しい街道や鉄道の予算案、そして、貴族同士の、実にくだらない領地争いの仲裁……。
(うーん……。関税率の、小数点以下の調整……? もう、どっちでもいいよ……ビアンカに任せようっと。あとでシトラリちゃんに、皇帝ってどうやるの? って聞いてみるか。アウレリアン君がいろいろ聞いてくるし……)
僕は、大きな、大きなため息をついた。
王様になった時も大変だと思ったけど、帝国の摂政っていうのは、その比じゃない。毎日、難しい顔をした偉い人たちがやってきて、僕にはよくわからない、難しい話ばかりしていくんだ。
僕は、ペンを置くと、椅子から立ち上がり、執務室の大きな窓辺へと歩み寄った。
窓の外には、どこまでも続く、平和な帝都の景色が広がっていた。
宮殿の庭では、レオとフェリクスが、侍女たちを相手に、元気に走り回っている。生まれたばかりの弟や妹たちも、乳母車の中で、気持ちよさそうに昼寝をしていた。アシュレイやヴァレリアたち、僕の愛する家族が、その光景を、優しい笑顔で見守っている。
そして、その向こうには、活気に満ちた街並みと、そこで暮らす、たくさんの民たちの笑顔があった。
(……そっか)
僕は、その光景を、ただ、じっと見つめていた。
(僕が、この、面倒くさい紙の山と格闘しているから、あの子たちは、あんな風に、笑っていられるんだな)
その、あまりに単純な事実に、気づいた瞬間。
あれほど重かった肩の荷が、すうっと、軽くなっていくような気がした。
僕は、ふっと、自然に笑みがこぼれていた。
「……まあ、悪くないかな」
僕は、もう一度、書類の山へと向き直る。
よし。今週の仕事は、これで終わりだ。明日からは、月の半分のお休み。ハーグに帰って、みんなで、新しい畑の世話をしないと!
玉座の隣。それが、僕の新しい居場所になった。
僕は、きっと、これからも、難しい政治のことは、よくわからないままだろう。
それでも、彼は、彼だけのやり方で、国を、そして、愛する者たちを、守り続けていく。
畑を耕し、美味しいご飯をみんなで食べ、時には、とんでもない思いつきで、世界をひっくり返しながら。
そう、彼の成り上がり英雄譚は、まだ、始まったばかりなのだから。
(えっ? そうかな? 摂政にまでなったら、もう上はないと思うんだけど……)
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