第161話 選帝侯会議 最終決定 ユリアン皇帝、これでいいんだよね?
【ライル視点】
『アヴァロン帝国歴170年 3月15日 帝都評議会室 快晴』
再び、帝都の評議会室に、七人の選帝侯が顔を揃えていた。
窓から差し込む春の日差しが、部屋の隅々までを明るく照らし出している。だが、その光とは裏腹に、評議会室の空気は、厳粛で、どこか物悲しいものだった。
東方諸侯の席には、もはや、シュタウフェン男爵たちの、傲慢な姿はない。代わりに、戦いに敗れ、全てを失った者たちの、力ない横顔が並んでいるだけだった。
宰相が、静かに、最後の選帝侯会議の開会を宣言する。
僕は、席を立った。そして、この、長く、くだらない争いを終わらせるための、最後の言葉を、はっきりと告げた。
「僕は、改めて、アウレリアン殿下を、次期皇帝として推薦する」
僕の言葉に、ランベール侯爵が、力強く頷く。
皆の視線が、東方諸侯の席へと注がれた。誰もが、彼らが、最後の抵抗を見せると思っていた。
だが、彼らの代表として立ち上がった、老いた貴族は、ただ、深々と、僕たちに向かって頭を下げた。
「……我ら東方諸侯は、アルブレヒト・ダリウス公への、皇帝候補の推薦を、これより、取り下げさせていただく。そして、帝国の融和のため、アウレリアン殿下を、正当なる後継者として、支持いたします」
その、完全なる敗北宣言。
ヴェネディクト侯爵もまた、静かに立ち上がり、アウレリアン殿下への支持を表明した。
そして、最後に、ピウス七世猊下が、その慈愛に満ちた瞳で、評議会室の全員を見回した。
「女神は、慈悲と、融和を望んでおられる。帝国の新たな夜明けのため、教会は、アウレリアン殿下を、正当なる後継者として、支持いたします」
七人目の選帝侯の代理人である、仮面の男もまた、静かに、しかし、はっきりと、頷いた。
「闇は、光の再生を、是とする」
宰相が、震える声で、その結果を、高らかに宣言した。
「――全会一致をもちまして、アウレリアン殿下を、アヴァロン帝国、次期皇帝と、決定いたします!」
その瞬間、評議会室は、割れんばかりの、安堵と、祝福の拍手に包まれた。
幼いアウレリアン君が、宰相に手を引かれ、僕たちの前に立つ。その小さな肩には、あまりに重い、帝国の未来が、のしかかっている。彼は、不安そうな瞳で、僕を、じっと見つめていた。
(ユリアン皇帝……聞こえるかい?)
僕は、誰にも聞こえない声で、天にいるはずの、友に語りかけた。
(あんたの息子さんが、皇帝になったよ。あんたの望んだ通りに、ちゃんと、ね)
僕は、空っぽになった玉座を、見つめた。
(長かったよ……。くだらない戦いだったけど、でも、これで、あんたとの約束、果たせたよな……)
これで、いいんだよね?
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