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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第149話 走る要塞『ヴィンターグリフィン改』

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴169年 12月25日 ライル軍前線司令部 夜』


 司令部の天幕の中は、重い沈黙に支配されていた。

 地図に記された、一本の赤い線。僕たちの生命線である鉄道が、今や、最大の弱点と化している。


「鉄道の全長は、あまりに長すぎます。全ての橋、全てのトンネルに、兵を配置することなど、不可能です」


 ヴァレリアの、冷静だが、どこか諦めの色が混じった声が、静寂に響く。ビアンカもまた、悔しそうに唇を噛んでいた。


(そっかあ……。道を守るのが、大変なんだ……)


 僕は、皆の難しい顔をぼんやりと眺めながら、子供の頃に、村の小川で遊んだことを思い出していた。葉っぱの船を、川の流れに負けないように、周りに石を置いて守ってあげた、あの日のことを。


(道を守るのが大変なら……道そのものが、自分で自分を守ればいいんじゃないかな?)


 僕は、ふと、頭に浮かんだ、あまりに単純な考えを、そのまま口にした。


「ねえ、みんな。列車に、鎧を着せて、大砲をいっぱい乗っけちゃえばいいんじゃないかな?」


「……は?」


 僕の言葉に、その場にいた全員が、きょとんとした顔で僕を見た。


「そうすれば、列車自体が、屈強な兵隊さんみたいに、線路を守りながら進めるでしょ? 敵が出てきたら、その場で、バーン! ってやっつけちゃえばいいんだよ」


 僕の、あまりに子供じみた発想。だが、その一言が、行き詰っていた司令部の空気を、一変させた。

 最初に目を見開いたのは、ヴァレリアだった。


「……列車、そのものを、武装する……? 移動する、要塞として……!?」


 彼女の目が、軍略家としての、鋭い輝きを取り戻す。

 そうだ、その手があった。なぜ、気づかなかったのだ。



【アシュレイ視点】


『アヴァロン帝国歴169年 12月28日 ハーグ・アシュレイ工廠 深夜』


 ライルからの、伝令を使った、たった一行の無茶な命令。

 『鎧を着て、大砲を積んだ、最強の列車を作って!』

 それを読んだ瞬間、私の頭脳は、これまでにないほどの速度で、回転を始めた。


「ヒャッハー! 面白い! 面白すぎるじゃないっスか、ライル!」


 私は、工房の床に、チョークで直接、巨大な設計図を描きなぐっていく。頑固一徹の鉄の天才、エックハルトさんに、怒鳴り声を飛ばした。


「エックハルトさん! 機関車を、ありったけの鉄板で覆うっスよ! 敵の弾がツルンって滑るように、角度もちゃんと計算して! 強度が足りなかったら、あんたのその石頭を、溶かして混ぜるっスからね!」


「黙れ、爆薬狂いの小娘! お主こそ、その走る火薬庫の設計にでも集中しておれ!」


 私とエックハルトさんは、寝食も忘れ、互いの才能と意地をぶつけ合い、一つの奇跡を生み出していった。

 数日後。ハーグの駅には、黒光りする、異形の鉄の怪物が、その巨体を現していた。

 重装甲で覆われた機関車。回転式の砲塔を備えた戦闘車両。そして、無数の銃眼が並ぶ、兵員輸送車。

 我らが『ヴィンターグリフィン号』が、走る要塞、『ヴィンターグリフィン改』として、生まれ変わった瞬間だった。



【ヴァレリア視点】


『アヴァロン帝国歴170年 1月5日 帝都―ハーグ間鉄道 朝』


 ガタン、ゴトン……と、力強い振動が、足元から伝わってくる。

 私は、装甲列車『ヴィンターグリフィン改』の、司令車両の中から、外の景色を眺めていた。我々の後ろには、何両もの補給列車が、守られるようにして続いている。

 その時だった。斥候からの、緊急の報せが届いた。


「前方、峡谷地帯にて、敵伏兵多数! 鉄橋の破壊を狙っている模様!」


(……来たか。待ちわびたぞ、愚か者ども)


 峡谷に差し掛かった瞬間、左右の崖の上から、敵のゲリラ部隊が、一斉に姿を現した。

 だが、彼らの顔に浮かんだのは、勝利の確信ではなく、驚愕と、絶望の色だった。

 彼らが、慌てて矢を放つよりも早く、こちらの『要塞』が、牙を剥いた。


 ダダダダダダッ!


 兵員車両の銃眼から、一斉にライフルが火を噴き、崖の上の敵兵を蜂の巣にする。


 ドゥン! ドゥン!


 回転砲塔が、唸りを上げて旋回し、敵が潜む岩陰を、木っ端微塵に吹き飛ばす。

 それは、もはや戦闘ではなかった。ただの、一方的な掃討戦。


(……これが、ライル様の発想と、アシュレイ殿の天才が生み出した、新しい戦の形)


 私は、煙を上げる崖の上を見つめ、静かに、そして確信を持って、呟いた。


(もはや、この鉄の道は、我らの弱点ではない。敵を蹂躙するための、鋼鉄の槍となったのだ)

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