表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/279

第148話 鉄の道への妨害

【ヴェネディクト侯爵視点】


『アヴァロン帝国歴169年 12月21日 保守派連合軍本陣 夜』


 絶望。それが、この作戦司令部の空気を支配する、唯一の言葉であった。

 先日の前哨戦における、鉄鷲騎士団の壊滅的な敗北。その報せは、我ら保守派連合の士気を、根底から叩き折っていた。


「おのれ、ライルめ! あの農民どもめが! 騎士の誇りも知らぬ、卑怯者どもが!」


 シュタウフェン男爵が、悔しさに顔を歪め、テーブルを拳で叩く。他の諸侯たちもまた、恐怖と怒りに顔を青くさせ、ただ無意味な罵詈雑言を繰り返すばかり。

 わたくしは、その愚かな光景を、冷たい目で見つめていた。


(……まだ、わからぬか。時代の流れというものが)


 わたくしは、静かに席を立った。その場の全員の視線が、わたくしへと集まる。


「皆様、お静まりいただきたい。もはや、正面から戦うは、自殺行為に等しい」


「な、何を弱気なことを申すか、ヴェネディクト侯!」


「弱気ではございません。現実です」


 わたくしは、我が領地で、アシュレイ工廠から購入した数丁のライフルを、秘密裏に試射させていた。その威力は、まこと、騎士の誇りを、紙くずのように打ち砕く。正面からぶつかる愚を、この中で唯一、わたくしだけが、正確に理解していたのだ。


「彼らの強さの源泉は、武器だけではない。その武器と兵糧を、途切れることなく前線へ送り届ける、あの『鉄の道』にこそある。ならば、我らが叩くべきは、軍勢ではない。その血管だ」


 わたくしは、広げられた地図の上、帝都とハーグを繋ぐ一本の線を、指先で、強く、なぞった。


「これより、我らはゲリラ戦に移行する。小規模な精鋭部隊を編成し、夜陰に乗じて、あの鉄の道を、寸断するのです。補給さえ断てば、いかにライル軍とて、ただの孤立した獣。干上がるのを待つだけでよい」


 わたくしの、冷徹な、しかし、唯一の勝機に満ちた提案に、絶望に沈んでいた諸侯たちの目が、初めて、かすかな光を宿した。

 陪席していた大司教バルバロッサが、満足げに、深く頷くのが見えた。



【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴169年 12月25日 ライル軍前線司令部 昼』


 帝都近郊に設けた、前線司令部。そこに、衝撃的な報せが舞い込んできたのは、昼食の豚汁を、ちょうど食べ終えた頃だった。


「申し上げます! 昨夜、ハーグより帝都へ向かっていた第9補給列車が、森林地帯にて、何者かによって鉄橋を爆破され、脱線! 積荷のほとんどが、焼失したとのことにございます!」


 伝令兵の悲痛な叫びに、司令部の天幕の中が、凍りついた。


「なんですって!?」


 兵站計画の責任者であるビアンカが、血相を変えて地図の前に駆け寄る。


「そんな……! あの鉄橋がなければ、大きく迂回するしかありません! 補給が、少なくとも三日は遅れますわ!」


 ヴァレリアもまた、厳しい表情で腕を組んだ。


「補給がなければ、我らはこの地に釘付けにされます。長期戦になれば、兵の士気にも関わる。敵は、我らの弱点を、正確に突いてきましたな」


(そっかあ……。ただ、まっすぐ進むだけじゃ、ダメなんだ)


 僕は、スプーンを置くと、静かに立ち上がった。


(この、意地悪な戦いにも、ちゃんと、付き合ってあげないといけないんだな)


 僕は、広げられた地図を、じっと見つめた。そこには、蛇のように長く、そして、あまりに無防備な、僕たちの生命線が、描かれていた。

 敵が、新しい戦い方を仕掛けてきた。ならば、僕も、新しいやり方で、それに応えるしかない。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ